やっぱりセバスチャンさんは説明好きでした
「クレアお嬢様が、魔法の詠唱を始めたのを聞きましたからな。おそらくこうなるだろう、と予測し動いておりました」
「な、成る程……?」
セバスチャンさん、クレアとの位置関係からこうなるってわかっていたのか……それなら、もう少し早く注意を促して欲しかった。
とは思うけど、ライラさんが言ってくれていたからな、セバスチャンさんに言ったらライラさんに文句を言う事になりかねないから、心にとどめておこう。
ふと見てみると、俺以外の人達……特に俺と同じくクレアと十分な距離を取れなかった人達も、濡れタオルなどで顔を拭いていた、セバスチャンさんが渡したんだろう、さすがだ。
ちなみにエッケンハルトさんやレオ達のように、魔法で遊んでいた皆は無事だけど、驚いて何事かとクレアの方を見ていた。
「クレアお嬢様は、タクミ様には内緒で魔法の練習をしておりましたが……一つだけ多大な魔力に任せた魔法を、どうせなら使えるようになりたいと頑張っておられました」
「それが、今のあれですか……」
クレアの魔力は、ティルラちゃん程ではなくても俺よりかなり多いらしい。
その魔力だからこそできる魔法、というのもやってみたかったんだろう……セバスチャンさんの言い方からすると、いいところを見せたいっていうよりも、好奇心に近いんだろう。
それで、さっきの魔法を呪文として考えたのか、誰かもしくは書物などから得たのか、とにかく使えるようにしたってわけだな。
以前の、俺と出会って間もないくらいのクレアなら、絶対使おうとはしなかっただろうけど、今は俺が色々と言ってきたのもあって、時折やんちゃ……もとい、お転婆な部分が見え隠れし始めているから、それもあるのかもしれない。
あと、レオとかエッケンハルトさんとかが魔法を使っているのを見て、触発されてついやってしまったとかか。
俺に見せるためっていうのも大きいのかもしれないが。
とにかく、張り切り過ぎちゃった、テヘッ……ってところかなぁ。
クレアはそんな、テヘッなんて言わないけど。
「……はっ! えっと……す、すみません、タクミさん! ちょっと張り切り過ぎました!」
あたりが静かになっている事に気付き、はっとなって状況に気付いたクレア。
やり過ぎたと感じたのか、すぐにこちらへ駆け寄ってガバっと頭を下げた。
まぁ、ちょっと汚れたくらいだし……俺以外にも驚いている人、エッケンハルトさんとかエルケリッヒさんやマリエッタさんとかもいるけど、謝られる程じゃないからな。
さすがに直撃したらと想像すると、危険が危ない、なんておかしな日本語を考えるくらいには、怖いと思ってしまうけど。
「あぁうん、ちょっと驚いたけど……むしろ感心したよ。クレアは凄い魔法が使えるんだね」
「頑張って練習しましたから!」
自信があったのか、気にしないと手を振りつつ褒めると、むんっと両手を胸の前で握りしめて誇らしげな笑顔になるクレア。
こういうところは、なんとなくエッケンハルトさんに似ているなぁ、と思ってしまう。
「クレアお嬢様、張り切る気持ちはわかりますが……」
「そ、そうかしら?」
「頼もしくはある、とは思いますけどね。ははは……」
眉根を寄せたセバスチャンさんから、クレアへの注意。
俺とは違って、おおよそ戦闘であればあれほどの威力の魔法なら頼りにはなると思う。
呪文の長さとか、味方を巻き込まないかの心配を除けば……。
一人で危険と向き合う状況はクレアだとほとんどないだろうし、呪文を唱える間は護衛さんなりが時間を稼いでくれるとは思うけど、さすがに威力が高すぎる。
使い慣れて、半無詠唱にまでするのも難しそうだし……実用性という意味では、あまりない気がするからなぁ。
クレアに言った通り、頼もしいという気持ちは本当だけども。
「タクミさんやレオ様だけでなく、私もと思っての事だったのですけれど……そうですか」
少しだけ肩を落とすクレア。
そこから少しの間、俺とライラさんで励ますのにちょっとだけ苦労した。
セバスチャンさんは、励ますのではなく注意をしていたけど。
あと、途中からエッケンハルトさんが加わって、豪快に笑いながら褒めていたけど……派手だったのもあって、結構気に入ったらしい。
ただそれはクレアにとっては逆効果だったようで、さらに励ます時間がかかってしまったりもしたけど。
エッケンハルトさんの豪快さ、クレアは嫌っているわけではないけど、よくため息を吐いていたからなぁ、自分が似たようなこと事をやってしまったと感じたんだろう。
……ここに、ユートさんがいなくて良かったと心底思ってしまったのは内緒だ。
絶対面白がっていただろうからなぁ。
ユートさんは、俺に魔法を教えた後……というか、レオ達が魔法を使おうとし始めた頃、張り合おうとしたのでルグレッタさんに引きずられて行った。
やる事があったのを放り出していたらしく、ルグレッタさんは怒っていたんだけど、それもユートさんは楽しそうにしていたが。
厄介な趣味だなぁ、と思いつつ、俺に魔法を教えるためにやる事とやらを放り出したのかもと思い、ルグレッタさんには俺から謝っておいたけども。
まぁ実際には、魔法の講義が終わったら戻るという約束を反故にしようとしたから、という事だったらしい。
「で、では改めて……これからが本当に、自分の身を守るための魔法練習の成果です」
「うん、頑張って」
とりあえず、なんとか励まして持ち直したクレアが、もう一度魔法に挑戦。
レオやリーザ達といった、さっきまで魔法で遊んでいた皆も何が起こるのかとクレアに注目している。
再び距離を取ったクレアが、皆に見守られながら静寂の中で集中し、体内の魔力を集め始めた。
「……ヴァッサー・フレイム・アイス・エレメンタルミシエン・スタークフレイム・ネーベル!」
少し長めの呪文。
言い終わると同時に、今度は空に向けられたクレアの手の先から、ゆっくりと水蒸気……というより霧かな? が発生した。
以前俺に魔法を教える時、クレアから言われて俺が発動させた霧の魔法とそっくりだ。
ただ、呪文も少し長めで魔力も込められているように感じる。
まぁ魔法の強弱を決めるのに、呪文の内容だけでなく魔力を込めた量などでも変わるらしいので、今回は多く魔力が込められているってだけなんだろう――。
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