クレアが張り切った魔法は超強力でした
「それで、魔法の練習を?」
「はい。シェリーとリルルがいてくれますし、もちろん護衛もいます。ですけど、自分でも何かできれば守れる事は増えると思ったんです」
「まぁ、それは確かに」
何もできない人を守るより、剣なり魔法なりが使える人の方が、危険から守るのは楽になる……とは思う。
そもそも、そんな危険に近づかないのが一番だけど、魔物が襲ってくる事もある世界で、予期せぬ危険に遭遇する可能性っていうのもあるからな。
「私はタクミさんやお父様たちみたいに、武器を持って戦う事はできません」
「……」
ヨハンナさんが言っていた、小さい頃のクレアは剣を持ってエッケンハルトさんみたいに、振るえるようになろうとしていたと。
けど、上手くいかなかった。
それは、レオやフェンリル達との遊びで、枝を投げる動作を見た時にもよくわかった……というのは少し失礼かもだが。
ともかく、運動音痴というのとはちょっと違うけど、不向きなクレアは剣などの武器ではなく、魔法に活路を見出したって事なのかもしれない。
「ですから、私は魔法をもっと使えるようになれれば、と考えたんです。幸い、武器を振るうより相性は良かったみたいで。お父様の娘としては、恥ずかしい限りですが」
そう言って、俯くクレア。
確かに達人級と言えるエッケンハルトさんの娘、と考えると剣を振るえる方がらしいのかもしれない。
ティルラちゃんも、順調に上達しているし。
「けどそれでも、剣などの武器ではなく魔法にと考えるクレアは、凄いと思うよ」
「そ、そうですか?」
「うん。自分に向いていないと諦めたら、多くの人は他の事も試そうとは思わないものだから」
俺も経験があるけど、一つの事に挫折したら他の事も前向きになれない、というのは人には往々にしてある。
特に、自分の周囲の人にはできている事だったら尚更。
そこまで深刻な話じゃなくても、別の方法を前向きに考えて実行しようとするクレアは、それだけで褒められるべきだと思う。
それが、俺が与えた影響でもあるようで、嬉しくもある。
「タクミさん、褒め過ぎです……嬉しいですけど。と、とにかくそれで、魔法の練習をして色々できるようになったんです!」
「それを見せてくれるってわけだ。うん、ありがとう」
「そんな、お礼を言うのは私の方です……では」
そう言って、椅子から立ち上がるクレア。
どうしてこっそり魔法の練習をしていたのか、いつの間にやっていたのかはわからないが、それを披露する機会ができて喜んでいるんだろう。
魔法を使うために少し距離を取るクレアの足は、なんとなく弾んでいる気がした。
まぁ、いつ練習したのかというのは、一日中ずっとクレアと一緒に行動しているわけじゃないし、俺の居場所は大体の使用人さんが把握しているので、俺が屋内にいる頃合いを見計らって外で練習したとかだろうな。
それこそ、別邸だったら広大な敷地があるため、俺が裏庭に出ていても音すら届かないくらい離れた場所で、という事も可能そうだし。
それに、一点集中型のクレアはあれこれと考えながら武器を振るうのではなく、集中できる魔法の方が確かに向いてそうだなぁ。
そんな事を考えている間に、クレアの準備ができたようで、こちらを窺うのが見えた。
「いつでも大丈夫ー!」
「わかりました!」
手を振りながら届くように大きな声で伝えると、クレアが大きく頷く。
そして、誰もいない方へ手をかざして集中を始めた。
「……もう少し、離れた方がいいかもしれません」
「え、そうなんですか?」
魔法を使う前の準備、魔力を集めたりとかをしているんだろう。
それを見たライラさんが、距離を取ったクレアからさらに離れる事を勧めてくる。
「クレア様の魔法の練習は、私も見た事がありますが……旦那様に見せると今は張り切っておられるのでおそらく……とりあえずこちらへ」
俺には内緒だったみたいだけど、ライラさんは知っていたのか。
まぁ、使用人さん全員に隠すのはさすがに無理だろうし、セバスチャンさんあたりは間違いなく一枚かんでいるだろうから、知っている人がそれなりにいてもおかしくないか。
「わ、わかりました」
とにかくライラさんに頷いて立ち上がり、一緒にテーブルや椅子を持って数メートル程離れる。
大きく離れた程ではないので、意味があるのかはわからなかったけど、ライラさんが離れるように言った理由がすぐにわかった。
……クレアが魔法を使ったからだ。
「行きます! ファイアエレメンタル・フィアスフレイム・グレイトウェイブ……」
離れた俺とライラさんのもとに、長々としたクレアの呪文詠唱の声が届く。
多くの場合であるように、俺には英語で翻訳されて聞こえたうえで、同時に意味がわかるようにも伝わってくる。
内容としては「激しい炎よ、大きな波を一つにして敵を……」とかそんな感じだ。
長い呪文だからっていうのもあるけど、随分物騒な呪文で、そこから想像できるのは発動した魔法がかなりの威力だというのがなんとなくわかる……それこそ、ユートさんが見本で見せた魔法以上に。
「っ!!」
魔力がクレアの手の先に集まる感覚と同時に、発動された魔法。
それは、クレア自身を飲み込むほどの大きな炎になり、波のように前方へと向かいながら、収縮して二十センチくらいになったと思った瞬間、地面に落ちて大きな爆裂音を響かせた。
音もそうだけど、炎の勢いとか集まった力とか……いろんなものがユートさんの見本よりも、さらに強いものだった事は、離れて見ている俺からでもよくわかった。
「……もう少し離れた方が良かったですね。申し訳ありません」
「いえ……まぁ仕方ないですよ」
パラパラと、地面を抉って爆発した魔法により、巻き上げられた土や砂が俺とライラさんがいる場所に降ってくる。
結構離れているのに、ここまで余波が届くとは……熱のこもった風も来ていたし。
「タクミ様、これをお使い下さい」
「あ、ありがとうございま……って、セバスチャンさん!? いつの間に……」
降って来た土を払っていると、横から差し出される濡れタオル。
受け取って、お礼を言い切る直前に気づいた……てっきりライラさんかと思ったら、濡れタオルを持ってきてくれたのはセバスチャンさんだったと。
さっきまで、エッケンハルトさん達のいる方にいたはずなのに、いつの間にこちらに来たのか……。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。