完全無詠唱と半無詠唱で違うみたいでした
「わかりやすく言うとね、体って一部の動作は無意識に動かせるでしょ? 歩くとしても、いちいち右足を持ち上げて前に出し、今度は左足を持ち上げて……なんて意識しない」
「まぁ、確かに」
「体に覚えさせた動作っていうのは、無意識にできるわけだけど、それと同じ事を魔力にさせるんだと考えればいい。ただ、もともと呪文の補助が必要なんだから、それをほぼ無意識でできる状態にするのは大変な事だってわかるよね」
ユートさんの言葉に、何度目かの頷きを返す。
歩く動作など、人がわざわざ意識しないでも体を動かせているのは、その体が覚えているからだ。
まぁ実際は、意識していない無意識下で脳が判断している、とも言えるみたいだけど、そんな風に無意識に動くように覚えさせるのは大変な作業で、多くの反復練習が必要。
別の例えをするなら、キーボードで感覚的に文字を打てるようになるのが、キーワードを使った魔法発動とすれば、完全無詠唱はブラインドタッチどころか目を閉じていても間違える事なく長文を打てるようになる程、ってところだろう。
……完全無詠唱は、使えるようになりたいと思わない方がいいな。
「とまぁ、無詠唱魔法に関してはこんなところかな。人というか魔力量によっても変わるんだけど、三つか四つくらいの魔法なら、誰でも使い込めば無詠唱で使えるようになるよ。トリガーが必要なくらいのね。半無詠唱魔法ってところかな」
「そのトリガーは、キーワードが必要って言っていたけど、自由に決められるのか?」
「うーん……自由だけどちゃんと発動するように、かけ離れた言葉にはしない方がいいね。例えば、水を出すのに風よ出ろ! なんて言っても、言葉と思い浮かべた内容が違い過ぎるから。補助である言葉が邪魔するし、思い浮かべるのにも邪魔になるでしょ?」
「それは確かに。それじゃ、光を出す魔法だと光よ! とか明かりを灯せ! とかが良さそうかな」
「そんなところだね。無難にしておいた方が、いざという時使いやすいし……凝ってもいいけど、格好いいと思うのは自分だけだったりするからねぇ……」
「……凝った人もいる、もしくは見た事があるみたいだけど」
「まぁ、ね。痛々しい人が以前いたんだよ。本人は悪い奴じゃなかったけど、ポーズまで考えて大声で叫ぶもんだから、聞いているこっちが恥ずかしかったよ。ははは……」
乾いた笑いをするユートさんは、その時の事を思い出したんだろう。
痛々しい凝ったキーワードにポーズっていうのは、俗に言う中二病とかに近いのだろうか。
魔法を格好良く使ってみたい、という欲求がないわけじゃないが……さすがにそうならないように気を付けよう。
「それで、本題の魔法に関してだけど……さっきも言ったように、属性や方向性。発言した時の効果は呪文によって決めるものだから、どういった魔法が使いたいかによるかな。誰かに教えてもらう時は、大体教える側の人がよく使う魔法、って事が多いけど」
「使いたい魔法……かぁ」
こういった魔法がある、と教えてくれるもんだと思ったら、俺が使いたい魔法をとの事で迷ってしまう。
どういった魔法が使いたいかとか、あまり考えていなかったからな。
「あ、そうそう一つだけ注意ね。人間の使える魔法と使えない魔法……発現させられる効果には制限みたいなのがあるから、気を付けて」
「それは、人間や獣人によって使える魔法が違うって事?」
「そう。魔力の性質が違うからなのか、人間が使えても他の種族には使えない魔法の効果ってのがあるんだ。獣人なんかもそうだね。獣人は魔法が使える事自体が多くないけど、体の強化に関する魔法が使える。人間だと……近い事はできなくもないけど、効果は低いし、ほぼできないようなものかな。あと、外に発現する物じゃないからなのか、獣人は完全無詠唱で魔法を使うから見た目にもわかりにくかったりするね」
「成る程」
リーザが以前、オークと戦うためにエッケンハルトさんと模擬戦をした時や、実際にオークに向かった時など、普段からは想像できない身体能力を発揮したのは、身体強化と呼ばれる魔法を使ったからだろう。
なんとなく、魔力の感知ができたから。
そして、俺達が魔法を使う時のように、言葉を発して発動というわけでもなかった。
リーザ本人に聞いても、首をかしげるだけだったのでほぼ無意識にやっていたのは間違いなく……あれは、完全無詠唱だったわけか。
ちょっと羨ましい。
ユートさんは、ギフトのおかげでそういった人間なら人間、獣人なら獣人、魔物ならそれぞれの魔物が使える魔法をすべて使えて、制限はないらしいけど。
ただいくらギフトがあるとはいえ、人間である事には変わりないため、呪文を補助にして魔力を使って魔法を発動、という一連の流れには逆らえないとか。
だから、以前フェンリル達を見て魔法をぶっ放そうとした時も、声高に呪文を叫んでいたんだろう。
「それじゃ、人間に使える魔法っていうのは?」
「うーん、どう説明したらいいのか……人間は工夫する生き物だ、と僕は思っているんだけど。そのためなのか、魔力を使って自然に働きかけるような効果が多いね。例えば、魔力を変換して周囲の水分を集めて水を出す。酸素を集めて燃焼させる事で火を出すとかかな。あ、そうそう、魔力を変換って言ったけど、その現象を引き出すための働きかけを行うよう変換されるって意味で、その物に変換されるってわけじゃないよ」
「つまり、魔力が水になっているわけでもないし、炎になって燃え盛るわけでもないと」
「そうだね。火を出す魔法でも、例えば酸素の薄い場所……高い山の頂上とかでは、ほとんど効果はないし、むしろもっと酸素が薄くなって自分の呼吸すら怪しくなるから、気を付けてね」
「……それは、かなり特殊な状況な気がするけど」
空気が薄くなる程の高い山の頂上なんて、行く予定はないからな。
ともかく、特殊な事例を除いて酸素がなければ当然火は燃えないわけで……使う場所などもある程度考える必要がある、というのは覚えておこう。
「辺り一帯が砂漠で、水を出す魔法を使ったら人から水分を抜き取って大変だった事もあったなぁ。まぁ、大体は同じく魔力の抵抗でほとんど集まらなかったけど」
なんて、過去を思い出すように遠い眼をしながら呟くユートさん。
砂漠にいるからこそ、水を欲しがったのかもしれないが……近くにいる人からも水分をなんて、はた迷惑な。
下手したら、水分を抜き取られた人が死んでしまうじゃないか、魔力には抵抗力みたいなのがあるみたいで、なんともなかったみたいだけど――。
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