シルバーフェンリルの情報は少ないようでした
ヴォルターさんに言われ、記入用紙にセバスチャンさんの名と共に書かれていた本の題名を読む。
タイトルは「薬師になるための上級調合」で、薬師とか調合って事は、薬草を使った薬の作り方に関してなんだろう。
その本を俺に渡すつもりなのか……薬師になるつもりはないけど、色々と参考にはなりそうだ。
ちなみに、記入した人が持ち出した本を別の人に貸し出す……また貸しのようになる場合は、最初に持ち出した人が責任をもって追加記入する事になっているらしい。
俺が借りたままになっている薬草図鑑や、ミリナちゃんと一緒に勉強した薬に関する本も、別邸でセバスチャンさんがそういった処理をしてくれているみたいだ。
あとは、本を所蔵している場所の主人……この屋敷では俺やクレア、別邸ではクレアとティルラちゃんになるが、その主人の許可を得て譲渡する事も可能だとか。
まぁセバスチャンさんからなら、この屋敷にある本は俺が持ち出した物になるだろうし、別邸で借りたままになっている本は、譲渡という事になってもし返却する場合はこの図書室に保管される事になる。
「タクミ様が今日ここに来るとは思わなかったのでしょう」
「でしょうね」
セバスチャンさんなら、図書室でこういった本を探して読むのを勧められるけど、俺が今日来たのは突発的だから予想できなかったんだろう。
「あとで、セバスチャンさんに聞いて受け取っておきます」
「はい」
おそらくセバスチャンさんが、俺にとって今かそれともこれから必要と思って考えてくれたんだろうから、後で受け取ってしっかり読み込もう。
最初に借りた薬の本も、色々あって最後まで読めていないけど……そちらも含めてだな。
「あ、そういえば……レオ、というかシルバーフェンリルに関する事も、魔物図鑑には書かれているんですかね?」
探した中ではシルバーフェンリルに関して書かれていなかったけど、もしかしたら探せばあるのかもしれない。
最強の魔物として、有名であるのは間違いないようだし。
「あぁ、シルバーフェンリルに関してですか。もちろん書かれてはいるのですが……」
「?」
少しだけ歯切れの悪くなるヴォルターさん。
首を傾げながら、ヴォルターさんが棚から抜き取ったのはさっき調べた後に戻した、魔物図鑑の壱巻。
その本を開いて最初にあるページを俺に見せた。
「えっと……」
シルバーフェンリル、最強の魔物であり全ての魔物を統べる者……という伝承があるというのが最初の書き出し。
ほんの二ページほどの記述で、あまり多くの情報がない事がよくわかる。
何者にも従わず、何者が敵う事のない魔力と身体能力で、他を圧倒する。
既に公爵家の人達から聞いた事のある情報が書かれてある他に、一族を重要視し決してはぐれる事なく、まとまって世界の始まりから終わりまでを生き続ける者とも書かれていた。
一族を重要視する、というのはまぁレオを連れて別邸に行った時、家族を大事にするといったような事を、セバスチャンさんやクレアが言っていたから、その事だろう。
けど、世界の始まりから終わりを生き続けるって……そんなに長生きなのか?
というより、魔物図鑑に書かれている事ながら、記述的には神聖視すらしているようにすら読み取れた。
シルバーフェンリルが神様か……まぁユートさんも絶対的に最強みたいな事を言っていたから、そう考える人がいてもおかしくはないかも?
レオを見ていると、そこまで絶対的には思えなかったりはするけど、それはまぁ俺がレオと長く一緒にいるからとか、マルチーズから変化したからだろうし。
それから図鑑には最後に、おそらく原本の著者が書いたものだろう……どこかの国の人間と協力関係を結び活躍したと伝え聞くが、何者にも従わないはずのシルバーフェンリルがそのような事をするとは思えない。
フェンリルをシルバーフェンリルと間違えているか、眉唾な噂に過ぎないと書かれていて、いずれは一目相まみえたいものだ……ともあった。
「これを書いた人は、別の国の人なんだろうな……」
どこかの国、としている時点でこの国ではないのはわかる。
公爵家でなくても、ある程度シルバーフェンリルに関する事は伝わっているみたいだし。
何者にも従わないというのを信じるなら、単なる噂で信じられない話の一つとして伝わってもおかしくないか。
「このように、シルバーフェンリルに関してわかっている事は多くありません。この本を書いた者ですら、実際に見てはいないようですから」
「そうみたいですね。なら、シルバーフェンリルに関してはこの国というか、俺も含めてここにいる人達が一番詳しく知っているって事なんでしょう」
あと、実際にレオ以外のシルバーフェンリルを見た事のあるユートさんとか。
ジョセフィーヌさんとの関りがあった公爵家も含めて、魔物図鑑よりは詳しいと言えるだろう。
レオがいてくれるからな。
本来のシルバーフェンリルと、レオが本当に同一なのかどうか……とずっと疑問だったりはするけど、ユートさんも認めているから、多分違いはないんだろう。
性格とか、そういう部分での個体差みたいな違いはあるとしてもだ。
「ありがとうございます。また何かあれば、色々教えてください」
「はい、私でよろしければ。全てではありませんが、ご案内いたします」
そう言って、まだ図書室にこもって本を読むらしいヴォルターさんと別れ、部屋を出る。
本を読む習慣がなかったから、図書室には行かなかったけど……これからなんらかの知識がいる時は、図書室もヴォルターさんも頼りにさせてもらおう。
そんな事を考えつつ、数冊の本を執務室へと持って行った。
「はぁ……調べものしていたから、なんとなく外の空気が美味しく感じるなぁ。いや、図書室もあれはあれで嫌な空気とかではないんだけど」
本を置いてから、とりあえず庭へと出る俺。
外の空気で思いっ切り深呼吸。
図書室に漂う、独特な紙の匂いが混じった空気も嫌なものじゃないけど、並んだ棚と本は圧迫感もあったからな。
話しながらではあっても集中して調べものをしたから、吸い込んだ外の空気が美味しく感じた――。
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