それらしい記述を発見しました
……調べものをしていて、他の気になる何かを見つけてそちらに流れていく、というのはあるあるだよな。
ちゃんとコカトリスの情報を探さないと……。
「あぁそうでした。そういえば一つ、読み聞かせができていますよタクミ様。まぁ、まだ書き記していないので、読むと言うより私の頭の中にある状態ですが」
お互い無言で調べていたしばらく経った頃、思い出したようにヴォルターさんから話題が差し向けられる。
書き留めていなくても、厳密に物語を紡ぐ必要はなく、子供達が喜んで魔物達というかフェンリル達などに対して、偏見を持たなければというのが最初なので、覚えているならそれでいいだけど。
まぁでも、すっぽり抜けたりふとした拍子に忘れたりって事もあり得るから、書いておくのは重要っちゃ重要か。
「まぁ、絶対に読んで聞かせないといけないわけではないので、覚えていられるなら書く必要はないんですが……聞きましょう」
本を参考にしたり、何か思いついた題材で物語を作った場合、子供達に聞かせる前に俺に聞かせる事になっているため、この場で聞く事にする。
以前、いくつか聞いたけど……ヴォルターさんは何か闇を抱えているのか? と思ってしまう程それはそれは凄惨な内容だったりしたからなぁ。
具体的には、悪さをした人に対する拷問とか、命をかけた戦いでの血とか体の中身とかその他諸々……あれはさすがに子供に聞かせるのはどうかと思うので却下した。
というか、本を開いて中を読みながらでも話ができるのか、それはそれで凄いな。
「では……昔々ある所に、親とはぐれた一人の子供がいました……」
そうして、魔物図鑑を調べながら語られるヴォルターさんが作った物語……静かな図書室に響くヴォルターさんの語り口は、とても聞きやすく、内容もこれまでと違いわかりやすくていいものだった。
ちょっと特殊な状況のように思えるけど、そこは気にしない。
語られた物語は、涙あり笑いありという内容ではなく、ちょっとした戦いなどはあったけど、凄惨な想像をしないよう以前の物から改善されていた。
おおまかには、迷子の子供が白くて不思議な魔物と出会い、心を通わせて子供の両親を探す旅をする、というお話だな。
途中、白くて不思議な魔物……フェンリルとの別れがあったけど、その後子供が大きくなって住んでいた村がオークの群れに襲われた時、助けてくれたという、どこかで聞いた話だったりもする。
「……タクミ様とレオ様の活躍を参考にしてみました。レオ様が、フェンリルにはなっていますが」
「まぁそこはフェンリルでも、シルバーフェンリルでもいいんじゃないかと。村にいる子供達にとっては、どちらも遊び相手みたいなものですし」
村を助けるという部分は、以前ランジ村がオークをけしかけられた時、俺と村の人達が協力して食い止め、レオが駆け付けて……という実際にあった出来事が参考にされているみたいだな。
子供の名前は違うし、シルバーフェンリルではなくフェンリルになっているけど、あの時の事を知っている人なら大体わかってしまうかもしれない。
とはいえ、最後の部分くらいだし、誰かに迷惑をかけるわけでもないから問題ないだろう。
迷子の子供がフェンリルと会う、という部分はもしかしたら初代当主様の話も参考にしているのかもしれないが。
「では、近いうちに子供達を集めて聞かせてみましょう」
「喜んでくれるといいですね……」
目的は、フェンリルやシルバーフェンリルという魔物に対する忌避感を、子供のうちから取り除く事だけど、どうせなら喜んでもらえる方がいいからな。
まぁ俺がここで聞く限りでは、面白かったし喜んでくれるはずだ。
特に子供達には、クライマックスのオークを蹴散らすフェンリルの部分がウケそうだな……かくいう俺も、調べものをしながらでも少しだけ先が気になってワクワクしたから。
ちなみに「昔々……」という始まりに関しては、俺が例としてヴォルターさんに話した物語が影響しているんだろう。
一字一句というわけではないけど、大体は覚えている有名な日本昔話、桃から生まれる太郎さんとか、山の動物と相撲をして遊ぶ太郎さんとか。
あと、花を咲かせるお爺さんとかも話したっけ。
そこから共通している、昔々……という始まりをそのまま使ったんだろう。
まぁ実話じゃないけど、昔こういう事があったかもしれないと話して聞かせるには、わかりやすい始まりかもしれない。
「他にも貴族を主人公に……」
「んーでも、主に子供達に対して聞かせるなら、子供にした方が……」
「成る程。でしたら」
等々、今聞いた話だけでなく、次に考える物語に関しても話し合いながら、調べものを進める。
どうやら、魔物図鑑の弐拾までにはコカトリスのに関する記述はなかったので、追加をしながらだが。
今度は俺が弐拾壱巻から、ヴォルターさんが参拾壱巻から調べている。
「タクミ様、ありました。コカトリスの記述と思われます」
「そっちにありましたか」
魔物図鑑をめくる事さらにしばらく……俺が弐拾伍巻に差し掛かった辺りで、ヴォルターさんから見つけたとの言葉。
そちらに目を向けると、持っているのは参拾捌巻だった・
やっぱり、慣れているだけあって俺より進みが早いな。
「ふむ……コカトリス、赤いトサカを持ち石化能力に優れる、驚異的な魔物。大きさなどもありますが……」
軽くヴォルターさんが読む内容によると、コカトリスは大体二メートルくらいの大きさで、赤いトサカに白い羽毛に包まれている。
鳥型の魔物の例に漏れず空を飛ぶ事ができ、好戦的で人だけでなく他の魔物も含め、目に入れば空から飛び掛かって来るらしい。
石化能力に優れ、飛ばす羽を受ければ途端に石化し動けなくなるうえ、蛇のような尻尾に噛まれても石になるらしい……って、ん?
「俺が聞いていたコカトリスの能力と、随分違いますね。確か、石化能力はそこまで強くないとか……あと、好戦的ではなく臆病だとも。見た目の特徴は同じっぽいですけど」
まぁ、コッカーとトリースを見ていたら、臆病というのは首を傾げてしまうが。
……ラーレに連れて来られた時は怯えていたけど、慣れた今となってはレオの傍だろうとフェンリル達の傍だろうと、気にせずトコトコ歩いたり飛んで跳ねたりもしているくらいだから――。
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