雑談をしながら情報を探しました
「一応、あちらに記入用紙がありますから、部屋から持ち出す場合は記入しておいて下さい」
「はい」
ヴォルターさんに言われ、示された所は出入り口の扉に向かって右横、椅子が備え付けられておらず、長机が壁にくっ付くように置かれていて、そこに用紙が置いてあるのが見えた。
借主、貸出本の題名、作者名、写本者名を書くようになっていて、誰がどの本を持ち出したかわかるようになっている。
また、持ち出した本を戻した時に、チェックを入れる項目もあって、ちゃんと図書室に本が戻されたかの確認もできるようになっていた。
「……要は、本の管理リストみたいなものだな。貸出カードみたいな」
日本の図書館で作る貸出カードとかはないけど、自分で記入する管理用の物ってわけだ。
こういう事もちゃんと案内してくれるヴォルターさんは、もう完全に司書みたいになっているな。
本人も、本に関する事なら喜んでやってくれるだろうけど……まぁ、今は特に必要ないからどうでもいい事か。
「えっと、今昔従魔の歴史……っと。これも、セバスチャンさんなんだよなぁ」
従魔関連の本で、俺の知っている写本者名は全部セバスチャンさんだった。
クレアがシェリーを従魔にしたからなのか、多分かなり勉強と研究したんだろうというのがわかる。
いつの間に……とも思うが。
セバスチャンさん以外の人は、知らない人物名だったのでヴォルターさんに確認すると、本邸の使用人さんらしい。
本邸の方に、従魔に興味のある人がそれなりにいるようだ。
ともあれ、記入するべき事を記入して漏れがないかを確認して完了、とりあえず従魔関連の本はこれで大丈夫だろう。
不足なら、また探しに来たらいいからな。
しかしセバスチャンさんの名を何度か書くのは、ちょっと不思議な感じがしたなぁ……意外と、近しい知り合いの名前を書く機会って、多くないよな。
「ヴォルターさん、従魔の本はとりあえずめぼしいのを見つけたので、そちらを手伝いますよ」
「わかりました。ではタクミ様はこちらから。私はこちらを調べます」
「はい」
持ち出す本を机に置いて、ヴォルターさんの手伝い……というか、俺が手伝ってもらっているんだけど。
とにかく、魔物図鑑の中からコカトリスを調べる作業を開始。
魔物図鑑壱から拾をヴォルターさんが、俺は拾壱から弐拾だな。
巻数はまだまだあるけど、とりあえずそこまで調べて見つからなければ、続けて調べるってとこだろう。
「……んー、これにはなさそうだ。鳥型の魔物はいるんだけどなぁ」
「魔物の種類別にまとめた方が、わかりやすそうですね。いずれ、取り掛かってみます」
「かなり多いですけど、大丈夫ですか?」
「知識は読むだけでなく、まとめるのも面白い物ですよ」
勉強はあまり好きじゃないから、俺にはヴォルターさんの感覚はわからないけど、好きな人にとってはそうなのかもしれない。
今回はコカトリスだけを抜粋するために調べるけど、いずれわかりやすくヴォルターさんがまとめてくれるのを期待しよう。
「父にはよく、経験も伴うようにとは言われますが」
「そういえば言われていましたね……」
どれだけ本から知識を得たとしても、経験が伴わなければ自分の物になったとは言い難い……とかそういう意味だろう。
まぁ本に書いてある事全てを経験できるわけもなし、だからこそ書物として書き残してあるわけだから、経験が全てというわけでもないだろうが。
「あ、そうだ。ヴォルグラウの事なのですけど……」
「ふむ、そうですか。それじゃあ、フェンリル達とも仲良くやっているんですね」
「そう見たいです。私はあまり近寄れませんが、その代わりに呼んだら来てくれるのは可愛いものです」
「ははは、そうですね」
などなど、この屋敷にいるフェンリル達に混じって、唯一のウルフであるヴォルグラウの様子を話しつつ、コカトリスの情報を調べていく。
調べる邪魔になるかな? と思ったけど、ヴォルターさんは熟読する時を除けば、こうして雑談をしながらでも構わないらしい。
本の世界に集中しなくていいからだろう、それでいて、調べる速度は俺より早いのはさすがと言うべきか。
俺が一冊の魔物辞典を調べる間に、ヴォルターさんは二冊を終えているくらいだし。
ちなみにこの魔物辞典に限らずだけど、多くの本には目次がない。
目次を設定しておけば、内容などもわかりやすく探しやすいと思うけど……特に、魔物の種類別にあればそれを見て、コカトリスの情報があるかをすぐに判断できるのに。
なんて思ってもないものはないので、仕方なくページをパラパラとめくりながら、コカトリスに関する記述がないかを探していく。
一応、絵や文章も確認しないといけないため、一冊当たり体感で二、三十分かかるのが辛いところだ。
「それにしても、魔物もかなりの種類があるんですね。一冊で大体十体以上書かれているのに……それが数十冊も」
「そうですね。それに、この魔物図鑑だけで全ての魔物を網羅しているわけではないみたいですから、世の中にはもっと多くの魔物がいるのでしょう。あぁ、コカトリスは間違いなく書かれているはずですので、ご安心ください」
「……良かった。これで書かれていない魔物の中にコカトリスがいたら、どうしようかと」
十体以上の魔物の記述に対し、本が数十冊だから単純計算で数百種もの魔物がいる事になるからな。
それなのにまだ書かれていない魔物がいるなんて……。
とりあえず、ヴォルターさんがコカトリスの情報はあると言ってくれたので、安心して調べを進める。
お、ニグレオスオークを発見した……何々、通常のオークから変異したのが元で、そこから新しい魔物の種別として繁殖した、と。
見た目の差異以外には、食糧としてはオークとは違う……というのは、調理して食べた時の味の事か。
オークよりも数が少ないためか、群れていても三体程度の事が多く、五体以上の群れを発見した場合はその周辺で何か異変が起こっている可能性があると書かれている。
ふむ、異変か……以前狩りに行った時は一つの場所に五体もいなかったから、ニグレオスオークの数からみる異変はないみたいだ。
っと、ニグレオスオークの事を調べているわけじゃないからな、脱線はここまでにしよう――。
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