屋敷の図書室に行きました
「だからえっと、ジョセフィーヌさんはあのフェンリルの森で……俺と同じように……」
などなど、油断するとクレアに対して鼻の下を伸ばしそうになる無自覚な攻撃をなんとか耐え、まだ話していない事なども伝えていく。
ちゃんとコカトリスの事も相談した。
まぁ本題はコカトリスに関してのはずだったのに、ついでになってしまったのは、仕方ないか。
ちなみに話した内容は、主にユートさんから伝え聞いたジョセフィーヌさんの事。
ユートさんが初代国王だというのは伝えていない……こちらは、クレアの興味の多くがジョセフィーヌさん、つまり初代当主様とシルバーフェンリルに向いたからだけど。
クレアなりに考える事もあるだろうし、今全部詰め込んでもいっぱいいっぱいになりそうだから、改めてでいいだろう。
長くなりそうだったし、話すとテオ君たちの事にも繋がるから――。
「さてと……クレアと話せてすっきりしたし、調べておかないとな」
話が終わり、俺は一人で屋敷の廊下を歩く。
クレアは、俺から聞いた話……主に、ジョセフィーヌさんの事やギフトの事などで考えるらしく、別行動。
ちょっと寂しいけど仕方ない、俺といると絶対話が別方向に行ってしまうからな。
あと、ジョセフィーヌさんとシルバーフェンリルの関係を話した時に、ギフト『疎通言詞』の効果も話すと驚くだけじゃなくて、凄く納得していた。
俺のようにレオとこちらに来てシルバーフェンリルになったから、一緒にいるのではなくギフトのおかげだとわかったからだろう。
最強の魔物であり、誰にも従わないとされているらしいのに、どうしてジョセフィーヌさんを助けていたのか、クレアにとってはずっと謎だったみたいだから。
「んっと……これは中々壮観だ」
そんな事を考えつつ、屋敷内を移動して辿り着いたのは書庫。
屋敷内に作られた、大型の部屋に本を集めた場所だな……所狭しと並ぶ棚に、分厚い本がずらりと並べられていて、小さな図書館みたいだ。
大型の部屋とはいっても、日本にある図書館とかの方が大きかったりするけど、目に入る文字が全てこの世界の文字なので、異世界にいるんだという実感が凄く湧く。
ここにある本は、別邸にあった物を移して保管している物だけど、中にはセバスチャンさんやヴォルターさんとか、他の人達が書き写した物もあるらしい。
写本、という勉強法が一部の人達にとっては最良の勉強と言われているとか。
書き写すのは確かに記憶する手助けにもなるし、一定以上の勉学は独学になる事が多いらしいから、よく行われているらしい。
活版印刷みたいな印刷技術もあって、紙も作られているから本その物は一般の人には手が届かない物ではないんだけど、まだまだ高価な物という位置づけ。
勉強ついでに写本した物を売って、日銭を稼ぐというかちょっとした収入にする人とかもいるらしい。
そこらへんは、機械技術が発達していないこの世界ならではかもな。
著作権とかどうなっているんだろう、というのはちょっと気になるけど……本を出す予定の一切ない俺が考えても仕方ない事か。
「あれ? ヴォルターさん?」
「おや、タクミ様。こんな所にどうされましたか?」
独特な香り……集まった本、古い紙などの匂いだろう。
その香りに包まれた図書室の、本棚近くに設置してある机につき、本に没頭している人、ヴォルターさんを発見。
声をかけるとようやく俺に気付いたようで、読んでいた本から顔を上げてこちらを見た。
「俺はちょっと調べたい事があって……」
調べたい事、というか図書室まで来たのはコカトリスに関して調べるためだ。
コカトリスの生態とか、あと従魔に関してとか色々だな……クレアと相談して、調べてみようとなったわけだ。
あと、お馴染みの説明お爺さん、セバスチャンさんに聞けば色々説明してくれそうだけど、誰かに聞くだけじゃなくたまには自分で調べて知識を得る、という事もしておかないとと思ったからだったりもする。
ティルラちゃんが別邸に戻れば、セバスチャンさんもついて行くわけだし、いつまでも頼ってばかりではいられないからな。
「成る程、調べたい事ですか。ここは知識の宝庫、きっとタクミ様の知りたい事もあるでしょう。本邸や別邸と比べると、少々知識量は足りないかもしれませんが」
知識というのは、書物の事だろう。
ヴォルターさんが、いつもより生き生きしている様子なのはきっと、図書室で本に囲まれているからかもしれない。
近くにフェンリル達もいないし。
言ってみれば、ここはヴォルターさんにとってホームみたいなものだ。
「それは仕方ないですよ。でも、ここも十分広くて多くの知識があると思いますけどね」
本邸は知らないけど、別邸の図書室はこの屋敷のものと比べると倍以上の広さがあった……それこそ、図書室ではなく図書館と言える程に。
そんな広い場所に、みっちりと本が並べられて、さらに積み重なってもいたから、ここと比べるべくもないだろう。
「私としては、本に埋もれられるのは嬉しいのですけど……まぁそうですね。もっと部屋を増やすか……いやそれだと一つの部屋とは違うし……」
何やら、ヴォルターさんが考え込みながら後半は小さく呟いているのが聞こえた。
部屋を増やすのは、空き部屋とかもあるしできなくはないけど……本を運び込むのも大変だし、どうなんだろう。
ヴォルターさん自身も、広い部屋で多くの本に囲まれたいようだから、要望にはならなさそうではあるけど。
というか、この部屋だけでも運び込んでくれた使用人さん達には感謝だな、本ってまとまるとかなり重いから。
さすがに一度には持ってこれなかったので、何度かに分けて別邸から馬車で運んで来たらしい。
あと、エッケンハルトさんも本邸から持って来ていたとか。
俺達がこの屋敷に来た後の事だけど。
「えぇっと……さすがにこれだけあると、どこになんの本があるかわからないな」
ブツブツと思考に耽っているヴォルターさんはそのままに、目的の本を探すけど、すぐには見つからない。
図書室には入った事があるけど、本を探すのは初めてだからな……多分分類別にしてくれているとは思うけど、どこにどの分類の本があるのかわからない。
日本の図書館みたいに、どこにどんな本があるって案内があるわけじゃないからなぁ――。
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