昨夜切ったレオの毛が不思議な事になっていました
「シルバーフェンリルの毛、切れたんだ。偽物……じゃないのは、これを見ればわかるけど。切った後の毛が発光するなんて、他じゃ考えられないからね」
「まぁ、ハサミじゃ切れずに、シェリーの牙を使ったダガーで切ったんだけど」
「シェリーのですか……」
薄っすらと発光しているレオの毛を見つつ、驚いている様子のユートさんは、レオの毛が切れた事その物に対する感情みたいだ。
「僕、これまで何度も魔法も含めて、切ろうとしていたんだけど……絶対無理だったのに。あの努力はなんだったのか」
「魔法もって、そんなに? というか、なんで切ろうとしていたんだ……」
「だって、シルバーフェンリルって凄く毛並みがいいじゃない? だから、それで枕とか布団とかぬいぐるみとか……それこそクッションだけでも凄く気持ちよさそうだし」
「確かにそうだけども」
俺だって、似たような事を考えなくはなかった。
レオの毛が詰まったクッションなりなんなりがあれば、なんて。
ユートさんは、俺と似たような事を考えたうえで実行しようとしたみたいだけど。
ちなみに、毛を切ろうとしたシルバーフェンリルはレオではなく、初代当主様のジョセフィーヌさんと一緒だった、別のシルバーフェンリルに対してらしい。
許可は取ってから試したらしいけど、絶対に切れなくて煽られたくらいだとか……ジョセフィーヌさんといたシルバーフェンリル、結構いい性格をしていたのかもしれない。
国の紋章に関して、ユートさんと賭けをするくらいだからな。
「それにしても、シルバーフェンリルの毛を切れるなんて、想像していたよりも物凄い切れ味だったみたいだね。シェリーの牙を使った物って」
ユートさんの関心としては、レオの毛だけでなくフェンリルダガーにも向いているようだ。
まぁ、木の板をほとんど抵抗がなくスパッと切れたくらいだから、切れ味に関しては凄いとはわかってはいたけど。
「多分他に類を見ないような切れ味なんじゃないかな?」
「そこまで?」
「うん。だって、物にもよるけどそこらの金属……鉄とかだったら、スパスパ切れると思うよ? それこそ、地面に突き刺したらそのまま斬り裂きながら倒れるくらいに。って、それはさすがに無理か」
「ま、まぁそれは言い過ぎだと思う。地面を斬り裂くなんて……」
いくら切れ味がいいと言っても、そこまでの事はないと思う。
鉄をスパスパ切れるというのも、大袈裟に言っているだけだろうし。
「嫌々そうじゃなくてね。あれって使い手を選ぶでしょ? 地面を斬り裂きながら倒れるって事は手を離すって事だから、その段階で切れ味が発揮できないってだけの事。持ったままならそれくらいできるよ」
「えっと……」
「そんなに、なのですか? でもそれだと、鞘に収まる事もできないと思いますけど」
よくわからない切れ味に、どう答えていいのか迷っていると、俺の代わりにクレアが疑問を呈してくれた。
そうだ、鉄もそうだけどそこまでなら鞘すら切ってしまうから、収める時に危険だ。
それこそ収めようとした瞬間、鞘がパカーンと割れて、というか切れてしまうのも考えられる。
我ながら、想像力が貧困な想像だけど。
「うーん、ハルトは言っていなかったけど、鞘にも牙が使われているんじゃないかな? だから切れない。鞘にも少しだけ魔力があったから」
魔力視、だっけ。
あれで剣やダガーにシェリーの魔力があるって、ユートさんは教えてくれていたから、それは信じていいんだろう。
つまり、鞘も同じ物で作られている……含まれているから、丈夫で壊れないと。
「ちなみにだけどね、タクミ君、クレアちゃん。鉄よりも硬い金属が切れるような物でも、シルバーフェンリルの毛を切る事はできなかったんだ。さっき言ったように、地面を斬り裂けるような物でもね。つまり、そういう事だよ」
「できなかった事ができたから、あの剣やダガーはそれ以上と……」
「そんなに、なのですね……」
試した事のあるユートさんが言うんだから、そうなんだろう……嘘や冗談を言っている雰囲気でもないし。
というか、フェンリルの牙でなくても金属をスパスパ切ったり、地面を斬り裂いたりできる物が、他にもあるのに驚きだ。
「タクミ君は馴染みないと思うけど、フェンリルに限らず魔物の体の一部を使った物っていうのは結構あるんだよ。えっと……そうだね、ちょっとこっちに」
「あ、うん……」
クレアを置いてちょっとだけ離れ、ユートさんと内緒話……というか小声で話しを聞かされる。
それによると、魔物の体の一部、多くは牙とか爪とからしいけど、何かしらの道具に使われる事が結構あるらしい。
毛皮とかも。
特にユートさんが言い淀んで、クレアと距離を取った内容としては、よく漫画やアニメ、ゲームなどにある魔物の素材を使ったアイテムがある、と言えば伝わりやすい、という事らしい。
クレアは漫画やアニメ、ゲームとか知らないし、言葉にするとユートさんと俺の共通点に気付く可能性もあって、離れて小声で話す事にしたみたいだ。
ちょっと面倒だし、元々そうするつもりだったのでついでにユートさんから、前に誰かに話してもという許可をもらっているのもあって、改めてその承諾を得ておく。
後で話さないとな。
ともあれ、魔物由来の道具があるというのは納得した。
食糧なんかにもなる魔物がいるわけだから、道具に加工できる魔物がいてもおかしくないだろう。
ちなみに魔物素材と聞いて頭に浮かんだのは、モンスターを倒して剥ぎ取る有名なゲームだった。
あれだって、魔物の素材を使って色んな装備品だとかを作ったりするからな……他にもそういった話は、地球にはありふれていたし。
「それで、タクミ君が達人級というわけでもないし、状況的にそういった力を発揮する場面じゃなかったんだろうけど……どうだった?」
「確かに達人なんて程遠いけど……どうだったって何?」
俺とユートさんの話が気になる様子のクレアの所に戻り、まだ発光を続けるレオの毛を見ながら、話しを戻す。
剣の鍛錬はしているけど、エッケンハルトさんにも程遠いくらいで、俺自身が達人とは口が裂けても言えないけど……まぁ毛玉の一部を切るという状況で、そんな技術の発揮もしようがないというのはわかるが――。
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