定期的にブラッシングが行われる事になりました
「はい。別邸にいた頃よりは。人によるとは思いますが……」
アルフレットさんとか、ほぼ俺について薬草畑に関連する業務を手伝ってくれている人はまだしも、他の人達はそうでもないみたいだ。
ライラさんとゲルダさんは、別邸にいる頃はほぼ俺達のお世話専属みたいになっていたから、大きく変わっていないとは思うけど。
でも、新しく雇った人達は別として、元から別邸にいた人達はそちらはそちらでの仕事もあったわけだから、それが規模が小さくなったこちらの屋敷に移動して、仕事が減ったという事なのかもしれない。
クレア側の使用人さんもいるし、今は別邸からの使用人さんもいるってのもあるか。
「本当に負担になったりしませんか?」
一応、念のために聞いておく。
「はい。私などは特にですが、もっとお世話がしたいと思うくらいです。これは別邸にいた頃からではありましたが……チタさんなどは、もう少し仕事がしたいとも漏らしていましたよ」
「そうですか……」
お世話好きの気質が大いに見え隠れするライラさんはともかく、チタさんとかもか……。
まぁチタさんは主にフェンリルのお世話をお願いしているけど、あちらはあちらであまり手間がかからないからな。
一番手間がかかるのは、フェンリル達がどこに割り振られてお手伝いをしているかの把握や、散歩をする時と食事の時くらいか。
食事は、他の人達も一緒に用意するから、大量に食べるので大変ではあるけど、チタさん一人の負担はあまり多くないはずだし。
「それなら、日頃の仕事とかに差し支えない範囲で、お願いできますか?」
「ワフゥ?」
「はい、お任せください!」
ライラさんへのお願いに、少し不満げな声を出すレオとは別に、ライラさん自身はむしろ嬉しそうに頷いてくれた。
どうやら、何かを任せる、頼るなどをされる方が嬉しい人みたいだ、わかっていたし折に触れて言われてはいたけど。
あと、俺がブラッシングをするとなれば、夜の鍛錬が終わった後になるわけで、そうなると睡眠時間を削るからな。
無理しないように、と皆に言っているのに俺が無理をして以前別邸で、微熱を出したみたいな事になったらいけない。
使用人さん達に余裕があるのなら、俺が鍛錬をしている時にやってもらう事もできるからな、
「レオとリーザは、俺に余裕がある時にな。まぁ、さっき言ったように二日に一回か、時間に余裕を見て数日に一回ってところかな。とりあえず、俺がやらないって事はないから、安心してくれ」
「ワッフ」
「うん、わかった!」
納得してくれるレオとリーザ。
まぁ、多少時間の調整をすれば……夜の鍛錬の時間を短くとか、早めにやり始めるとかで対応すれば、なんとかなるだろう。
レオもリーザも喜んでくれるなら、これくらいはな。
それから、少しの間マッサージをするようにレオのブラッシングを続ける中……。
「ある意味で、これも使用人達への報酬になるかもしれませんね」
そう、レオの毛をブラシで撫でつけながら、優しく微笑んで呟くライラさん。
ポーカーフェイスなライラさんが微笑んでいるのは、少し珍しい。
「報酬ですか?」
お金とか発生しないんだけど……いや、ちゃんと給金は払っているけど、それとは別にブラッシングをする事で、って意味だ。
「レオ様やリーザお嬢様に触れられる事が、ですね。こうしてブラシで撫でているだけでも、こちらが気持ちよく感じるくらいですから」
「それは……確かに」
触り心地の良い毛並みは、使用人さん達に人気だし、もちろん俺も好きだ。
リーザとレオだけでなく、シェリーやフェンリル達、さらにはコッカー達やラーレまで、使用人さん達に請われて撫でられているのをよく見かける。
時折、そこに護衛さんとかも混じっているけど。
キョロキョロと、誰かに見られていないか確認しつつ、ヨハンナさんがフェンリルを撫でているのを見かけたりもしたなぁ……油断してしまったんだろう。
一応その場は、ヨハンナさんにバレないようすぐに離れたけど、フェンリルにはバレてそうだった、と言うのはまた別の話だな。
「ですので、この機会にレオ様やリーザお嬢様と触れ合える事を喜ぶ者は多いかと。それが、報酬になりそうだなと」
「ははは、皆が喜んでくれるなら負担にも感じませんか。それなら安心ですね」
「はい」
まぁなんにせよ、ブラッシングも含めてレオやリーザと触れ合う機会が増えて、喜んでくれるなら何よりだ。
ふむ……それなら、子供達にも教えて、フェンリル達のブラッシングを任せてみるのもいいかもな。
子供達、よくフェンリル達に抱き着いたりしているからな。
レオもそうだけど、お風呂が苦手なフェンリル達もいるし、ブラッシングをすれば体を洗う頻度を減らせるってのもある。
「んー? リーザの尻尾、皆喜ぶの?」
「そうだぞー。ははは」
キョトンと首を傾げるリーザが、少しだけおかしくて笑ってしまう。
リーザ自身も寝る時は自分の尻尾を抱き枕みたいにしているけど、あまり自覚はないみたいだ。
使用人さん達、よく視線が揺れているリーザの尻尾に向かっていたりするんだよなぁ。
レオとはまた違った、細くて柔らかい毛を持つリーザの尻尾や耳は、撫でていてすごく気持ちいい。
そんな話をしつつ、ブラッシング自体はちょっと大変だったけど、のんびりとした空気の中で終わらせ、ライラさんにリーザと一緒にお礼をした。
「いえ、楽しい時間を過ごさせてこちらこそありがとうございました」と言うライラさんが退室するのを見送って、上機嫌のレオやリーザと就寝。
お風呂に入らなくて良かったのもあるけど、ブラッシングして綺麗な毛並みになったレオの機嫌の良さを見るに、できるだけブラッシングをするという案は悪くなかったようだ――。
「えーっと……」
「これは、凄いね」
「さすがレオ様、という事でしょうか」
ブラッシングをした翌日、執務室にて俺とユートさん、クレアが集まって机の一点を凝視している。
そこには、布の上に置かれたレオの毛……毛玉を解くためにダガーで切った後の毛が載っていた。
これは、切った後ゴミ箱に入れていたんだけど、朝食後に部屋へと戻ってきた時、ぼんやりと発光しているのを発見。
レオに聞いても、首を傾げるだけだったので、とりあえずこういう事に詳しいと思われる気がするようなしないような、のユートさんを呼び、執務室に持っていく前に合流したクレアと一緒に見ている、というわけだ。
クレアには、コカトリスの事で話をしようと思っていたからちょうどいい――。
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