毛玉を切るのに少し苦労しました
壁に飾ってあるシェリーの牙を使った剣とダガー、そのうちダガーを手に取る……さすがに剣だと長すぎるし。
鞘も含めてこしらえが豪奢で見栄えが良く、一部の人しか使えない事もあって、インテリア的に飾ってある。
森に入る時など、必要な時は外して持って行ったりもするけど。
普段使いの剣や、あまり大っぴらに使えない刀などは、別の場所にしまってあったりする。
ともあれ、ダガーを鞘から抜き、綺麗な剣身をあらわにしつつレオに近付く。
「ハサミより危ないから、慎重に……動かないようにな、レオ」
「ワッフ」
ダガーが近付けられても、レオは特に怖がる様子などはない。
俺を信頼してくれているのか、それともこのダガーでは傷付けられないからだろうか。
ともあれ、ダガーの刃で毛玉の所へ持っていき……。
「お、これなら切れるな。ちょっと使いづらいけど……」
エッケンハルトさんからもらった時、試しに使った時より強い抵抗を感じたけど、それでも目的の毛玉の端を切る事に成功した。
ハサミより、細かい作業が向いていないのでちょっと難しいけど、このダガーを使えばレオの毛の手入れができそうだ。
あまり多く使う機会があるわけじゃないし、シェリーというフェンリルの牙を使った刃物で、シルバーフェンリルのレオの毛の手入れ、というのもおかしな感じがするけども。
用途としては間違っている気がしなくもないが、まぁ別にこうして使っちゃいけない、という物でもないだろう。
ただ、切れ味が良すぎるので俺自身が怪我をしたり、レオの肌を切ってしまったりしないよう細心の注意が必要だな。
まぁ今回のような毛玉への対処とか、どうしてもの時に使えば頻度はあまり多くないか。
「よし、毛玉も解れたし、次は……」
毛玉の一部を切って、後はブラシで梳かしていく。
足が終われば、次は仰向けのレオに動いてもらい、お座りの体勢で首から下の胸部分。
さらに、伏せをしてもらい体全体から尻尾、それと細心の注意を払いながら顔周り……というかノズル部分だな。
「おっと、くすぐったかったな。ごめんごめん」
「ワウゥ」
耳周りの毛を梳かしてやっていると、ブラシの毛先が耳を刺激したのか、レオが顔を振ったので謝る。
人間で言うと、こよりで耳を刺激されたような感じだろうか……そりゃくすぐったいよな。
そうしながら、最後の仕上げにもう一度伏せをしたレオの体全体に、ブラシを滑らせる。
大きな体のレオに対し、俺一人で全部をやるのは大変なので、リーザの尻尾や耳、それから髪を梳かすのを終えた二人も一緒に強力してくれる。
「ワウ~、ワフフ~」
「ご機嫌だなぁレオ」
「ママ気持ちよさそう」
「ここは、これくらいでよろしいでしょうか?」
などなど、尻尾を揺らして気持ちよさそうにしているレオに、俺やリーザ、ライラさんでブラッシングを進める。
まぁもうほぼ終わっていて、今はマッサージしているような感じになっているけど。
絡んだ毛に引っかかる事などもなく、ふわふわさらさらなレオの毛をブラシで滑らせる俺の方も気持ちいくらいだ。
そういえば、ブラッシングはマッサージ効果もあるんだったか……。
あと、お湯や石鹸で洗うのとはまた別の、汚れや毛に付いた埃などを落とす事で綺麗に保つ効果もあったりだな。
「んー、レオ。毎日はさすがに難しいけど、二日に一回くらいブラッシングするか?」
「ワフ? ワッフワウワフ!」
「いや、毎日はさすがになぁ……」
レオを喜ばせる意味もあって、時間的な事も考えての二日に一回の提案だったんだが……レオとしては毎日して欲しいらしい。
とはいえさすがに、毎日というのは時間があるかどうか。
今でも、途中からライラさんやリーザに手伝ってもらっても、始めてから一時間以上かかっているし。
……ブラッシングを始める前の茶番があったりしたけど、それは誤差という事で。
「あと、大体寝る前になるだろうし、余裕があるかどうかにもよるからなぁ」
今日は、エッケンハルトさんの失言が聞かれた事により、夜の鍛錬が早く終わって時間があったからというのもある。
これから、薬草畑なりなんなりで今まで以上に時間の余裕がなくなる可能性を考えると、毎日は厳しい。
一応畑の方は、『雑草栽培』というこれまでやった事がない方法で、薬草を栽培するわけで……最初は二十四時間体制になるだろうからな。
もちろん、そうはいって夜は人員を少なく、常に俺が起きて稼働できるように、とかではないけど。
基本的に俺は、いつもとあまり大きく変わらない過ごし方の予定だが、それでも夜中に動く事だってあるかもしれないし、畑の様子を見て寝る時間が遅くなる可能性もある、と考えての事だ。
「でしたら、旦那様。私達使用人が毎日レオ様の手入れをいたします」
「うーん、それでもいいんですけど……使用人さん達の負担にもなりますし」
ライラさんの提案に、そのまま受けず考える。
使用人さんの仕事の多くは、俺の補助だったりレオやリーザも含むお世話だったりするけど、そこにブラッシングを追加するのはどうなんだろう?
今でも、ライラさんがいつ寝ているのかわからない、とちょっと考えてしまうくらい、いつも動いてくれているし。
……ちゃんと、交代で休みの日を作るようにしているから、いない日もあるんだけどな。
「ワッフ、ワフワフ」
「リーザも、パパにやってもらう日が欲しいなぁ」
「まぁ、俺とライラさん達で、特に変わるという程でもないだろうけど……」
レオとリーザは、俺にやってもらう方が好きらしい……ライラさん達にやってもらうのが嫌い、というわけではないし、それは俺への信頼みたいなのもあるからなんだろうけど。
「私達は、旦那様が思う程負担には感じないでしょう。少なくとも私はそうですし……他の者もそうだと考えます。その、こちらに来てからの方が、実はやる事が少ないのです」
「え、そうなんですか?」
結構忙しく働いてもらっている感覚があったから、これ以上負担を掛けちゃいけない、と思っていたんだけど。
実はそれでも、仕事自体は少なくなっていたみたいだ、知らなかった。
俺なんかは、楽になるならそれでもいいと思うが……ライラさん達はそうでもないのかな、働き者だ――。
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