レオとリーザのブラッシングを開始しました
「ふっふっふ、リーザはライラさんに捕まった。後はお前だけだぞレオ……」
「ワ、ワウゥ……」
ライラさんに連れて行かれたリーザを横目に見つつ、期待からかパンティングをしているレオににじり寄る俺。
……俺とレオの演技力はともかく、リーザとライラさんはそのままでも十分演劇とかできそうだな。
なんて感心してしまっているのは、表に出さないよう気を付ける。
「ほぉらレオ、おとなしくお腹を見せるんだ。おとなしくしていれば、レオもリーザも、ただ満足するだけだぞ?」
「ワウ、ワフ……」
不敵な笑いを続け、レオに近付く俺に対し、抵抗するように鳴き声を上げながらも、レオは床に転がってお腹を見せた。
うむ、欲望には素直なレオだ。
「そら、こうして……無意味な抵抗が馬鹿らしくなるだろう?」
「ワ、ワフ……ワフゥーーー!」
持っているブラシを、レオのお腹に当ててゆっくりと撫でおろすように動かす。
大好きなブラッシングに、レオは抵抗する演技も忘れて大きく吠えた。
いや、まだ吠え方がまだ演技に入っているな……まぁ、気持ちよさそうだからいいか。
なんて、即興の茶番をやったけど実際は、ただレオとリーザをブラッシングするというだけの話。
レオは俺が、リーザは尻尾をライラさんにやってもらう事になったんだけど、鍛錬が途中で元気が有り余っていたのもあって、レオと目配せしたらこうしようと閃いたわけだな。
なんとなく、レオももっと遊びたい雰囲気だったし……多分、穴掘りが楽しかったからまだまだ遊びたい気持ちが残っていたとか、そんなところだろう。
さすがに、リーザだけでなく巻き込んだライラさんが、ちゃんと乗ってくれたのは内心驚いたけども。
まぁできるだけ表情や声は悪そうな雰囲気を出そうと努力はしたけど、レオは喜んでいるのが尻尾でわかりやすかったし、本気じゃないっていうのは伝わっていたからだろうと思う。
「にゃー、ちょっとくすぐったいー」
「失礼しました」
尻尾の片方を、ライラさんにブラッシングされているリーザは、少し身をよじっているようだ。
力加減を間違えると、結構くすぐったいらしいからな、尻尾のない俺やライラさんにはわかりづらい感覚だし、慣れないと難しいだろう。
レオもそうだけど、無遠慮に尻尾を掴まれるのはあまり好きじゃないみたいだし。
嫌がる程じゃないし、慣れた人には気にせず触らせてくれるし、撫でるのも喜んでくれるけど。
「ん、ちょっと複雑に絡まってるな。痛くないか、レオ?」
「ワウワフ~」
「むしろ気持ちいいのか。そこらへんは結構変わった事と言えるなぁ」
お腹の毛が絡んでいて、ブラシで念入りに梳かす。
少し毛を引っ張る感じになっても、レオにとってはそれも気持ちいいらしい。
マルチーズだった頃はもう少しデリケートで、強く引っ張るようになると痛がって、猫パンチならぬ犬パンチが飛んできたものだが……大体は身をよじって逃げ出すとかだけど。
ちなみに小型犬なのと、痛い以外はブラッシングを続けて欲しいという気持ちもあったのか、犬パンチが俺に届く事はほぼなかった。
大体は、仰向けになったまま前足と後ろ足を上下に動かすくらいだったな。
まぁ、今痛がって足を上下に動かされて俺に当たると、吹っ飛ばされそうだから注意しなければ。
レオの事だから、そこまでの事はやらないだろうけども。
「んー、やっぱり足は他よりもさらに絡まるか。仕方ないけど……どうするレオ?」
お腹から、足へとブラッシングが進むと、さらに絡まっている毛に引っかかる。
足の、特に爪に近い部分は穴を掘ったのもあって絡み合ってしまっていて、簡単にはいかなそうだ。
念入りに、少しずつ解くように梳かさないといけないため、ちょっとだけ時間がかかるし集中しないといけない。
手っ取り早いのは、毛玉になった部分をハサミとかで切る事だけど……。
以前はトリミングサロンに頼む事もあったけど、この世界はないから、やるなら俺がやるしかないが。
「ワウ……ワッフワフ?」
「触っている分には柔らかいのに、そうなのか……」
レオは毛を切るられるのに抵抗はないようだけど、切れるかどうか疑問なようだ。
ふわっふわの毛は、かなり柔らかくて簡単に切れそうではあるけど……刃が通るのはまた別らしい。
そういえば、剣などが当たっても毛の一本も切れないんだったか。
「一応、試してみよう。ちょっと動かないでくれよ……?」
「ワウ」
ハサミを取り出し、レオに動かないように言って毛玉に取り掛かる。
毛玉の根本を切る程ではなさそうなので、絡まっている端にハサミを近付ける。
少し切れば、後はブラシで梳かしていけば良さそうだからな。
そう思ったんだけど……。
「やっぱり、切れないな。ハサミの切れ味が悪いとか、そういう事じゃなさそうだけど」
「ワッフ!」
「そこは自信あるのか……」
ガキッとハサミの刃を通さないレオの毛、何故か誇らし気に鳴くレオ。
どうやら、いくら感触がふわふわで柔らかいとしても、シルバーフェンリルの毛をハサミで切るのは難しいようだ。
ハサミが錆びていて、切れ味が悪いからとかではないようだ。
「申し訳ありません、旦那様。リーザ様の尻尾の毛も……」
「あぁ、はい。使ってください」
「ありがとうございます」
ライラさんに声を掛けられ、そちらにハサミを渡す。
リーザの方も、大分尻尾の毛が絡んでいたようだ。
特にリーザは、むずがるのもそうだけどレオとは違って、毛を引っ張られるのが気持ちいいというわけじゃないだろうから、リーザ自身の許可を取ってライラさんが少し切る事にしたようだ。
少し観察していると、リーザの方は問題なくハサミで毛が切れている様子……まぁ以前に、髪を切ってもらった時にリーザの髪や尻尾の毛を整えるのに切れていたから、わかっていた事だけど。
「仕方ない、こっちは念入りに梳かして……待てよ? もしかしてあれなら……」
「ワウゥ?」
「ちょっと待っててなレオ」
ふと思いつき、仰向けのまま器用に首を傾げるレオに待ってもらい、部屋の壁に向かう。
そこには、剣とダガーが交差するように飾られている。
エッケンハルトさんからもらった、シェリーの抜けた歯というか牙を使った物だな。
ハサミどころか、そこらの刀剣とは比べ物にならない程の切れ味だったし、これならもしかするとレオの毛を切る事ができるかもしれない――。
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