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エッケンハルトさんは地雷を踏み抜く質のようでした



「はっはっは、冗談だ冗談。クレアの幸せそうな様子を見ていれば、タクミ殿がそういったつもりがないのはわかっている。タクミ殿が誠実な人間である事もな」

「は、はい……すみません」


 何事かと、再びティルラちゃん達からの視線を感じ、小さくなりつつ謝る。

 くぅ、完全にエッケンハルトさんに遊ばれているし、楽しませてしまった。


「まぁなんだ、先程も言ったように一つの案であって、タクミ殿が他に良い案を思いつくのならそれでも構わん。さすがに領民を傷付ける事は歓迎しないし、止めさせてもらうが、タクミ殿がそうしたいわけではないのはわかっているし、今の話でも明らかだ」

「それは、はい」


 誰かを傷付けるような案は、絶対に避けたいからここはしっかりと頷いておく。

 というか、急にキリッとして真面目な話に戻さないで下さい……頭がちょっとだけ混乱しそうですから。


「とにかく、クレアともよく話し合う事だ。ここはタクミ殿とクレアに任せている地とも言える。タクミ殿がしたいように、クレアとも話して決めるのがいいだろう。もちろん、場合によって必要であれば注意くらいはするがな」

「わかりました。よく話し合って、決めさせてもらいます」


 この地、というのはさすがに大袈裟だけど、この屋敷の事や薬草畑はクレアとの共同だから、俺が一人で考えて、悩んで決める事じゃないとエッケンハルトさんに言われてハッとなった。

 そうだよな、俺一人で悩む必要はなかったんだ。

 それに、ここでエッケンハルトさんに相談したのは間違いではないと思うけど、まず先に相談する先はクレアだったと気付かされる。


「うむ、それがいい。もしそれを怠っていたら……父上のようになってしまうからな」

「それは、笑ってもいいのか反応に困りますね……」


 再びニヤリと笑うエッケンハルトさんに、苦笑する事もできず顔を逸らし、素振りに打ち込むふりをする。

 言いたい事はわかるし、エルケリッヒさんがマリエッタさんに怒られているのを見たけど……今それに同意するのは命取りになるから。


「存分に笑っていいのだがな? あれで仲が良い事はわかっているのだが、やはり母上が強すぎるとおもうのだ……」

「いや、えっと……そ、そうなんですかね?」

「うむ。父上は謙遜するように、母上がいたからと言うが……私が思うに、あれは母上に言わされている気がするのだ」

「ま、まさかぁ……えっと、とりあえずエッケンハルトさん、その話題は……」


 愚痴と言う程ではないかもしれないが、両親に対する話を続けるエッケンハルトさん。

 それをそのまま続けたら、エッケンハルトさんの身とか精神が危険と、やんわりと止めるよう言ってみるが。


「いやいや、まさかなんて事はなくてな? 時折母上の頭に、角でも生えているのかと思う事があるぞ?」


 それは、鬼のように見えるとかでしょうか? こちらの世界にも角が生えた鬼がいるのか、それとも似た魔物がいるのか。

 ともかく、これ以上は危険なので口を閉じて素振りに集中した方がいいと思います、エッケンハルトさん。

 ……もう遅いかもしれませんが。

 何せ、その角が生えたかのように幻視してしまう程、ゴゴゴゴゴ……という音すら聞こえてきそうな空気が、屋敷の入り口から発せられているから。


 そこには、赤鬼が手に腰を当ててズンズンとこちらに近付いて来ていた。 

 これ、口に出したら俺も危ないな。

 エッケンハルトさんの不幸は、屋敷に背を向けて俺の方へ体を向けている事だろうか……レオとリーザは、尻尾を巻くようにしつつ、ライラさんに促されて屋敷の中に入って行った。

 屋根の上にいたラーレ達は、気配を察知してかこちらからは見えない所へと移動。


 エッケンハルトさんにとってはあまり意味はないが、俺にとって唯一の救いは、屋敷の入り口には他に、クレアやセバスチャンさんが出て来ていた事か。

 とりあえず、始まったらあちらに避難しようと思う。


「でだな、母上の口から牙が生えたように……」

「私が、なんだって。ハルト?」

「っっっ!!」


 エッケンハルトさんの背後から、底冷えする声が発せられる。

 それと同時、体を跳ねさせて直立不動になったエッケンハルトさん……一瞬にして状況を察したのか、だらだらと顔から汗を流し始めた。

 明りはあれど、薄暗いからよくわからないが、おそらくエッケンハルトさんの顔は今、血の気が引いて青くなっている事だろう。


「ハ、ハハウエ……コノヨウナバショニナニヨウデショウカ……?」


 カチコチに固まったエッケンハルトさんが、ぎこちない動きで振り返る。

 口から出た声も、片言っぽくかなり緊張しているのがわかる。

 エッケンハルトさんの後ろには、マリエッタさんが満面の笑みを湛えて立っていた。


「なに、我らが婿殿が剣の鍛錬をしていると聞いたのです。どんなものかとクレアと様子を見に来たのですが……まさか、愛息子に私がどう見られているか知る事ができるとは思いませんでした。新しい発見です」


 笑顔のマリエッタさん、底冷えするような声でありながらも丁寧な口調に、迫力を感じる。

 あと、目の奥が笑っていない。


「ワ、ワタシモハハウエノコトハ、アイシテソンケイデキルハハダトオモッテオリマス……ヨ?」


 エッケンハルトさん、そこで疑問形になっちゃ駄目だと思うんです。


「……ティルラちゃん」

「は、はい……!」


 これはもう避けられないなと思った俺は、できる限り気配を殺しながら、そっとティルラちゃんに声をかけ、一緒にその場を離れた。

 ……気配の消し方なんてわからないから、上手くいっているのか知らないけど。

 とりあえず、クレアやセバスチャンさんが溜め息を吐いているところまで辿り着けたので、俺の事は見逃してくれるらしい。

 なんというか、マリエッタさんがこの屋敷を訪ねて来てから、怒っている声や姿を見てばっかりだなぁ。


 クレアやセバスチャンさんと一緒に屋敷の中に入り、外から響く声を聞きながらそう思った。

 原因はエルケリッヒさんとエッケンハルトさんなんだけども……まぁ今回は、昨日や早朝のような怒号じゃないようなので、怒っているよりも叱っている方かもしれないが。

 とにかく、マリエッタさんの血を引いてるクレアから、同じように怒られないよう俺は細心の注意を払おうと心に決めた――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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