妙案を聞きました
「だが、ふむ……その心配はもっともだ。魔物である以上、人の考えとは違う考えを持っているものだろう。人だって、全て同じ考えというわけではないがな。たとえ有用であっても、人に害をなす可能性があればと考えるのもわかるな」
「レオやリーザ達のおかげで意思疎通ができるとはいえ、絶対はありませんからね……」
村の子供達も、屋敷に出入りしてもらっているから、コカトリスに対処できる人ばかりではないし。
フェンリル達にも同じ事が言えるけど、レオに対して見せた服従のような意思とかもあって、甘く見ている部分はあるか。
鳥型と獣型……というか狼や犬型と言えるかもしれないけど、どうしても獣型の方を楽観的に見てしまう。
日本でも危険な獣はいたし、数はかなり少ないけど野犬とかも安全とは言い難いんだけどな。
「それこそ、力で押さえつけるようなやり方をしなければ、隙を狙ってという事があるかもと考えてしまって」
「だがそれでも、絶対じゃない。力で押さえつける者は、力によって反抗される事だってある」
そうか……力で押さえつけたって、反抗的な考えが絶対浮かばないとは限らないんだよなと、エッケンハルトさんに言われて気付く。
俺なんかは、力で無理矢理というわけではなくても、仕事で上司に色々と言われて押さえつけられた結果、反抗する考えが浮かばなくなっていたけど。
……心を折られていたのもあるだろうけど、あれは一種の洗脳だったのかもな。
「うーん、それならどうしたらいいのか。でもコカトリスがいてくれたら、確実に皆の手間が省けるんです」
「話を聞いている限りでは確かにな」
もちろん全てをコカトリスに任せるわけにはいかないが、それでも薬草の世話をする人達が楽になるのは確実だ。
便利になる、楽になる事が全てじゃなくても、手間がかからなくなるように考えるのは当然だと思う。
「……一つ、解決法と言えなくもない手がある」
「ほんとですか!?」
少しだけ考えて、エッケンハルトさんがそう言った。
思わず、ちょっと大きめの声を出して反応してしまい、ティルラちゃんの手を止めさせてしまった。
俺達の様子を見守ってくれていた、庭にいるリーザやレオ、ライラさん達も何事かとこちらを見ていた。
クレアはマリエッタさんやエルケリッヒさんに捕まって屋敷の中だけど、それはともかく。
「その反応を見るに、かなり悩んでいたんだな。ふむ、解決法だが……連れてきたコカトリスと、従魔契約すればいい。交渉なりなんなりでも、連れて来れたのならその方法が取れるだろう?」
「それは……確かに……」
従魔契約は、人と魔物がお互いに受け入れて名付けをする事で成立するもの……らしい。
だから、交渉にしろ無理矢理にしろ連れてきている時点で、従魔契約をする事は可能だろう。
それが納得したうえでか、押し付けるかの違いはあるだろうが。
「従魔契約をして、人に害を加えないように言っておけばそれに従うだろう。もちろん、主人となった人間は確実に害を加えられない」
従魔という言葉ではあるけど、言い聞かせる事に強制力自体はほぼないらしい。
だけど、契約をした人に対しては絶対に危害を加えられなくなるみたいだから、その点は安心だし、基本的に言う事は聞いてくれる。
シェリーやラーレを見ていてもそうだし、ヴォルグラウだってあれ程の酷い扱いを受けておきながら、周囲の人に危害を加えたりしていなかったくらいだからな。
「タクミ殿は力で押さえつけるやり方を嫌うのは、私から見ても好ましい部分ではあるのでそちらは除外してもいい。コカトリスがどう受け止めるかまではわからないが……」
おそらく、交渉するにしてもレオなりフェンリルなりを見て、コカトリスがどう思うかという事だろう。
明らかに魔物として上位の存在がいる事で、何もしなくても威圧になる可能性はあるため、そこは仕方ない部分でもある。
「交渉して連れてきたとしよう。それから誰か相応しい者と従魔契約をしてもらえば、そのコカトリスは安全と断言できるのではないか?」
「そう、ですね……確かに」
従魔契約をしておけば、コカトリス側との意思疎通だってやりやすくなる。
ティルラちゃんは別邸に戻ってしまうので、さすがに通訳してもらうわけにはいかなくなるが、レオやリーザ、デリアさんなどに頼らなくても良くなるのは大きいな。
レオ達がいない時でも、話をしながら仕事ができるという事でもあるわけで……。
少しだけ、悩みの先が明るく照らされているような感覚になった。
「交渉と、従魔契約ならコカトリス側にも拒否権があるし……成る程……」
「まぁ私が言ったのは一つの案、解決策だ。もちろん、他の方法をタクミ殿が考えるのであればそれでもいいだろう」
「いえ、ありがとうございます。妙案だと思います」
レオ達がいる時点で、コカトリスは拒否権があると考えるかはともかく、共存的な方向にはなると思う。
あとは、交渉の時にどうするかだな……まぁこちらは仕方ない部分と、この方法ならというのがないわけじゃないが。
とにかく、案を出してくれたエッケンハルトさんに対し、素振りの手を止めてお礼を言って頭を下げる。
やっぱりこういう事は、誰かに相談するのが一番だな……特にエッケンハルトさんは、こういう話に慣れているのもあるし、魔物がって部分じゃなくな。
「タクミ殿の悩みが晴れそうなのなら、義理の息子の役に立てたと私も嬉しく思う」
「ぎ、義理の息子って……!」
「んん? タクミ殿にはそのつもりはないのか? んん?」
「い、いえそういうわけでは……」
ニヤリと笑ったエッケンハルトさんの言葉に、戸惑っていると圧を掛けられる。
真面目な話をしていたはずなのに、急にそちらの方向に話を持って行こうとするんだから……。
そりゃまぁ、クレアとこのままと考えれば、その父親であるエッケンハルトさんは義理の父になるわけで、なんて考えないわけじゃないけど。
「まさか、クレアとの事は遊びだと言うわけでは……」
「そ、そんな事は絶対にありませんから!」
食い気味に、エッケンハルトさんの言葉を否定する。
さっき従魔の事を聞いて驚いた時より、大きな声が出てしまった。
ついつい、クレアとの事を否定されている気がして、熱くなりすぎたかもしれない。
エッケンハルトさんの言葉も、冗談だと頭ではわかっているんだがなぁ――。
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