エッケンハルトさんに相談しました
――屋敷に入る前にレオの足を洗ったり、絡まった毛を重点的にブラッシングして、こびり付いた土などを落とす。
それから、クレアやマリエッタさん、疲れた様子のエルケリッヒさんや何故かいつもより機嫌がいいエッケンハルトさんと合流して、畑の事などの話をしつつリーザとティルラちゃんがお風呂を上がるのを待ち、夕食。
エルケリッヒさんが疲れた様子なのは、早朝にマリエッタさんから怒られた事が影響しているんだろう……マリエッタさんも別邸に行くようにと、色々調整もしていたらしい。
あと、エッケンハルトさんに関しては、今日は森の調査に参加していなかったフィリップさんなど、公爵家の護衛さん達と訓練をしていたからみたいだ。
ニコラさんは満足そうにしていたけど、フィリップさんやヨハンナさんを含めた護衛さん達のほとんどが疲れ果てていた。
ルグレッタさんも疲れているようだったけど、訓練に参加したのか。
ユートさんはそれを見て笑っていたが、日中それなりに忙しそうにしていたみたいだ……やるべき事はやっている、とはエッケンハルトさん談。
ちなみに、森の調査に関しては特に進展はないみたいだった。
「ふぅむ、コカトリスか。作物などに関して、私は明るくないが……それ程か?」
「そうですね、移り変わりを見ていないとわかりにくいとは思いますが、植物を作る事に関しては間違いないと思います」
「タクミ殿がそう言う程か……」
夕食後、庭で素振りをしながらペータさんの提案にあったコカトリスに関して、エッケンハルトさんと話す。
別邸で育てていた景観用の花など、植物の様子を見ていればコッカー達コカトリスの有用性とかは、わかりやすい。
ただエッケンハルトさんは、経過も含めて見ていないからな。
コカトリスの有用性、害のある虫を食べてくれるから植物が良く育つ、というのは間違いない。
「とはいえさすがにコカトリスだけで、全ての植物が健やかに育つ……というわけではないですけど。でも、綺麗に育つ上に病気になりにくいみたいなんです」
「植物にも病気があるのか?」
「はい。俺がいた場所では一般的に知られていましたけど……」
農作物はもとより、花など、種類によってかかりやすいかどうかというのはあるが、植物も人間のように病気になったりもする。
虫が原因だったり、カビや水、土の状態や日照時間などなど、要因は様々だけど……。
とにかく、病気になる事でちゃんと育たなかったり、枯れてしまう事だってある。
「成る程な……作物の収穫量が違うのも、そういった理由があったりするのだな」
俺の話を聞いて頷くエッケンハルトさん。
あまり農業というか、植物に関しては詳しくないようだ。
まぁ領主貴族のエッケンハルトさんが、絶対に作物の生育状況を全て把握して、詳しくなければいけないって事はないか。
それでも、どこでどんな作物を作っているのか、とかはちゃんとわかっているようだし。
「まぁ全て病気が原因でというわけじゃないと思いますけど。とにかく、コカトリス……コッカー達が見回って虫を食べていた植物は、これまでより病気にならない可能性が高いんじゃないかって。虫がいないからでしょうけど、少なくとも別邸の植物達はコッカー達が来てから、そうなっていませんでした」
「ふむ」
これは、使用人さん達にも確認を取っている事でもある。
コッカー達が来る前は、屋敷の敷地内にある植物でも、一部が枯れてしまったり、葉におかしな模様が付いていたり……病気じゃないけど、わかりやすいのは虫食い状態になっていたりとかだな。
そういった事が、ほとんどなくなっていたし俺も確認した。
さすがに別邸の敷地は広いので、全てが病気にかからないとかではないけど。
使用人さん達も驚いていたっけなぁ……手入れする人はいるので、その人達が喜んでもいたし。
という事を、エッケンハルトさんにも伝える。
「であれば、タクミ殿はコカトリスをこの屋敷に?」
「ちょっと悩んでいます。まぁ便利というか助かるのは、当然なんですけどね。でも、コカトリスを連れて来る事が本当にいい事かどうか……」
「何か、気になる事が?」
素振りの手を止めて、俺を見るエッケンハルトさん。
俺の方は素振りを続けながらだけど、考えている事を口に出す。
「強制的に従わせる事になるのかも、と引っかかっています。あとそれ以外にも……」
無理矢理というのは、たとえ相手が魔物であったとしても嫌だという事。
それ以外にも、他の魔物は食べるためなどで狩っているのに、そんな事を考えている意味はあるのかとか。
まぁ俺の考えだけでなく、魔物を増やす事を村の人達が受け入れてくれるのかなどもある。
「フェンリル達は、レオがいてくれるのでおとなしくしてくれています。生来のおとなしい性格もあるように思いますが」
「私から見ると、レオ様だけでなくタクミ殿も慕われていると思うがな」
「ははは、そうだといいんですけど。コッカー達は、ラーレもいますし……まぁ今のうちはほぼ害はありません」
成鳥になっていないコッカー達だからこそ、ほぼ無害だし今のうちから親しくしていれば、人にも慣れてくれるとも思っている。
そのコッカー達は、俺やエッケンハルトさんと並んで素振りをするティルラちゃんを、ラーレの隣で見つつお互いの羽をつつき合って毛づくろいらしき事をしているけど。
「コカトリス自体は、あまり強くない魔物だと聞いています」
「そうだな。基本的に臆病だし、近付けば逃げる程だ」
「石化能力はありますけど、それだって解除のための薬は簡単に作れますし、強い能力とも言えません」
一瞬で体の一部が完全に石化する、とかだったら別だけど……数センチ程の肌の表面が石化するくらいらしいからな。
内部まで石化しないので動かせるし、『雑草栽培』で解除できる薬草を作っているうえ、安価だからなんとでもなるとは言える。
「でも、やっぱり魔物なんですよね。もしどこかで、コカトリスが村の人達に牙を向けたらと思うと、連れて来るのが正しいと言えるのかなって」
「……タクミ殿は、立派に上に立つ者の考えを持っている気がするな」
人の上に立つ考えというのか俺にはわからないが、共同とはいえ屋敷を任され、使用人さんや従業員さんを雇った。
村の人達とも協力しているし、親しくさせてもらっていて距離が近い以上、そちらに迷惑が行かないように考えるのは当然かなと思っている。
それで、色々悩んでどちらにかじを取ればいいか決められないのは、いい事ではない気がするけど。
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