コカトリスが欲しいようでした
「リーザとティルラちゃんは、一緒にお風呂に入らなきゃね。そのままだと……」
「姉様に怒られそうですね」
「ティルラお姉ちゃんと一緒!」
苦笑するティルラちゃんは、自分がどうなっているのかよくわかっているようだ。
まぁクレアも口うるさいという程じゃないから、きつく怒るとかではないと思うが、泥だらけ、土だらけのままだと注意はされるだろうな。
似たような事は、別邸にいた時にも何度かあったし。
「それじゃあ……チタさん、ジェーンさん。リーザとティルラちゃんをお願いします」
「お任せください」
「畏まりました。さ、リーザお嬢様、ティルラ様」
「うん! パパ、行ってきまーす!」
ウィンフィールドさんと共に、手伝いの使用人さんとして加わっていたチタさん、ジェーンさんにリーザ達の事を任せる。
ティルラちゃんと一緒だからか、無邪気に喜びながらチタさん達に連れられて屋敷へと向かうリーザに手を振って見送った。
屋敷に戻ればライラさんやゲルダさんもいるし、お風呂や着替えなどは任せておけばいいだろう。
他には何か……と考えて、ふと視線を落とした時にレオの足下を見て気付いた。
「あー……ウィンフィールドさん、先に屋敷に戻ってお湯とタオルを用意してもらえますか? レオの足はこのままだとさすがに」
「はい、畏まりました」
「ワフゥ?」
ウィンフィールドさんへのお願いに、レオが首をかしげる。
被った水は体を震わせて大体は飛ばせているんだろうけど、さすがに足はそうじゃないからな。
濡れたままの足で土の上などにいるから、随分と汚れている。
水たまりになっているところも歩いたせいなのか、足だけ茶色くなっていて離れて見れば靴下を履いているみたいだ。
……実際は、土や泥が付いて汚れているだけなんだけどな。
「屋敷に入るなら、足はちゃんと綺麗にしないとな。そのままじゃ、廊下がレオの足跡だらけになっちゃうぞ」
「ワウ……ワッフ」
自分の足を見て、何やら納得したらしい。
まぁ、汚れじゃなければレオの大きな肉球の足跡は、ちょっと面白い気がするが……絨毯はともかく白い大理石のような部分のいたるところにっていうのは、景観として微妙だ。
「はっ……そうか。印章はもうクレアの承諾もあったし、決まって作られるのを待つだけだけど、レオの足跡というか肉球のスタンプなら唯一無二な……」
「ワゥ?」
なんて、馬鹿な事を思いついて一人呟く。
レオだけでなく、ペータさんや他の人達が不思議そうに俺を見ているので、とりあえず咳払いして誤魔化しておいた。
レオの肉球スタンプは確かに唯一無二だろうけど、大きすぎるから紙のほとんどを占めてしまうし、そのためのインクを付けてとかやっていたら、繊細な肉球に何か問題が起きそうだ。
肌荒れみたいな。
とりあえず、益体もない事を考えつつ、ラーレやコッカー達、それにレオやフェンリル達と一緒に作業した後片付けをする。
といっても、話している間にほとんど終わってしまっていたんだけども。
「キィ、キィ~」
「チチ」
「チィ」
「うん、ラーレもコッカーもトリースも、手伝ってくれてありがとうな。レオはやる事は違ったけど、助かったぞ」
「ワフ、ワフ~」
片付けが終了して後は屋敷に戻るだけになり、手伝ってくれたラーレ達にお礼を伝えながら撫でる。
相変わらず、ラーレの羽毛は触り心地がいいな……これを布団とかに使えば、快適な寝具ができるのかも? なんて考えていたら、顔か雰囲気に出ていたのかラーレが体をビクッとしていた。
さすがに、羽をむしったりはしないからな。
コッカーとトリースは、これまた違う触り心地だけどそれよりも、いつも体の大きなレオやフェンリル達を撫でているので、手のひらに収まる感じがちょうどいい。
感触は違うけど、マルチーズだった頃のレオを思い出すなぁ……大きさも近いし。
そういえば、ランジ村のマルチーズはどうしているだろうか? 時折、シェリーと一緒に村の中を駆け回っていると聞いたけど。
最初はレオに対抗心みたいなのを持っていて、何故か俺に一番懐いてくれたけど、今ではシェリーが一番で最優先なようだったし。
他の犬たちも気になるし、余裕がある時にでも様子を見に行くか、レオも会いたいだろうし。
「……」
「ん、どうしたんですかペータさん?」
そんな風に考えつつ、レオやフェンリル達、それにラーレ達を順番に撫でていると、作業を終えた畑予定地を見ながら何やら考えている様子のペータさんに気付く。
何か、気になる事でもあるのだろうか?
「いえ、やはりコカトリスは優秀なのだなと思いまして……」
「そうですね……今回は土の中にいる虫でしたけど、栽培している植物に付いた虫も食べてくれますし。それに、森が育つのも全てではないにしろコカトリスの功績と言えるみたいですから」
森の掃除屋とも言われるコカトリスは、植物を育てるうえでかなり優秀だというのは、別邸にいる時から実感していた。
あまり綺麗な話じゃないけど、コカトリスのフンは肥料にもなるらしく、森の木々が健やかに育つのもコカトリス達のおかげである部分が結構あるのだとか。
それでなくても、人の手作業だけでは確実にできなかったくらいの範囲を、今日のうちに進める事ができた。
別邸で俺が作った花など景観用の植物も見ているペータさんが、真剣に考えるのも無理はない。
「キィ、キィキィ?」
「あー、えっと……」
ペータさんと俺の話を聞いてか、ラーレが何やら翼を動かしながら主張。
ただ、リーザもティルラちゃんもいないので、何を言っているのかがわからない。
「ワッフ、ワフワウ」
「ありがとう、レオ。――ラーレ、それはさすがに駄目だろう」
「キィ……」
俺が困っていると、レオが代わりに通訳してくれた。
ラーレは、必要なら捕って来ようか? と言っていたらしい……いや、捕ってって。
つまり、コッカーやトリースの時みたいにほぼ攫うような形で連れて来るって事だ。
さすがに魔物とはいえ、無理矢理はなぁ……それじゃ、ヴォルグラウを強制的に従魔にして酷い仕打ちをしていた、デウルゴと変わらなくなってしまう。
いやまぁ、もし連れて来てもちゃんと満足するまで食べてもらって、怪我をしたりしないよう外敵から守るよう、丁重に扱わせてもらうけど。
……多分、実際に何かがあった時に守るのはフェンリル達になりそうな気がしないでもないが――。
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