水浴びで汚れを洗い流したようでした
「ガウゥ……アオォォォォォォン!!」
「「「「ガオォォォォン!!」」」」
空に向かって大きく吠えたレオと、それに続くフェンリル達。
遠吠えか? と思ったら、レオ達が顔を向けた先の空中に、大きな水の塊が出現した。
「え、まさか……」
「魔法ですか!?」
「お水だー!」
「こ、これはまた……」
水の塊は、人どころか大きな体のレオやフェンリル達数体を、簡単に包み込める程の大きさになり、驚く声を上げる俺達の見ている前で、バシャァァァン!! と大きな音を立ててレオ達の所へと落ちた。
「ワフ!」
「ガウ。ガウゥオォォォン!」
当然水浸しになるレオとフェンリル達、さらに続いて、レオがフェンリル達に鳴き声で合図を送ると、今度は弾けた水が溜まっていた地面が凍る。
これはフェンリル達が凍らせたのか。
そしてさらにさらに、再びレオが空に向かって吠えると、さっきと同じ大きさの水の塊が出現。
今度はそれを、凍った地面に仰向けになったレオやフェンリル達が豪快に浴びた……。
「えっと、まさかあれで全部洗い流すって事か……?」
呆然として、レオ達の様子を見守るしかない俺達。
別の場所では、ガラグリオさん達植樹担当の人達もポカーンとしながら見ているのが、視界の隅で見えた――。
「ワッフワフ!」
数分後、何度か水の塊を出現させ、冷たいはずの氷の地面を転がりながら、大量の水を浴びたレオが体を振るった後に戻って来る。
完全に水気は取れていないから、いつもより毛がしなっとしていて少し小さく見えるが、それはともかくだ。
「もしかして、風呂に入らないように自分達で体を洗ったって事か?」
「ワウワフー!」
つまり、レオ達は……というかレオ限定だろうけど、汚れたらお風呂に入らなきゃいけない、というのをちゃんとわかっていて、その対策をしたらしい。
確かによく見てみると、湿った毛は先程ドロドロに汚れていたのは見る影もなく、綺麗になっていた。
フェンリル達はそれぞれで、お互いの体を舐めたりして毛づくろいと共に、綺麗にしている。
しかも水気は体を震わせて大まかに飛ばした後、残った水分を凍らせて仲間のフェンリルが取ってやったりもしているようだ……毛が抜けたり、寒くないのかは心配だが、元気にじゃれ合っているようにも見えるので、大丈夫なんだろう。
見る限りでは、抜け毛とかなさそうだし……というかフェンリル達って、そうやって体を洗うんだな。
森には川が複数あるらしいので、そこで泳いだりして綺麗にしているもんだと思ったけど……。
ちなみに後で聞いた話、というかティルラちゃんとリーザに通訳してもらってフェリーから聞いたんだが、森などに棲む魔物は基本的に川に入る事はあっても、汚す事はしないらしい。
飲み水としての水源は大事、という不文律があるとかなんとか言っていた……不文律という言葉は、通訳された内容から俺がそう考えただけだけども。
種族も違い、互いに争ったりする事もある魔物だが、森での掟みたいなのは本能的に守られているとか。
それを聞いて、自然を壊す、川を汚すのは人間ばかり……と頭に浮かんだが、それはともかく。
この世界での野生の本能みたいなのがあるのかもしれない。
まぁ確かに水は生き物にとって最重要とも言えるから、誰に言われたわけでもなく、また決められたわけでなくても、大事にするのは当然なのか……な? と、納得する事にしておいた。
「ワッフー!」
得意げにお座りの体勢で胸を反らして鳴くレオ。
水浴びした場所が、ものすごい事になっているけどまぁ、畑とは別の場所だしその辺りもちゃんと気を遣っているようなので、そこはいい。
けど……。
「ちゃんと考えていたんだなぁ。お風呂に入りたくないからっていうのはどうかと思うが……でも」
「ワフ?」
濡れたレオの体を撫でながら、途中で言葉を止めた俺に首を傾げるレオ。
「完全に汚れが取れたってわけでもないみたいだな。うん、これはやっぱりお風呂に入らないとな」
「ワフ!? ワ、ワゥ、ワウワゥ……」
「ちゃんと綺麗になっているって? まぁ酷い汚れとかはほとんどないと思うけど……」
口を大きく開けて、人がやるみたいな驚きをしたレオが、訴えるようにか細く鳴く。
全身くまなく確かめたわけじゃないけど、土はお腹の方も含めて洗い流されてはいると思う。
でも、お風呂上りで綺麗になった時と比べたら、やっぱり毛の輝きが違うのがわかる。
さらに毛が絡まっているのもあり、ダマになっていて奥の方にジャリッとした物が残るのを、撫でている途中に確認した。
まぁ、水を被っただけだから完全に汚れを落とすのは難しいし当然か。
フェンリル達の方も確認したが、凍らせたのは乾かす意図もあったのはともかく、やっぱり絡まっている毛もあって、完全にという程でもない。
森で暮らしているのなら、それでも十分過ぎるくらい綺麗だけど。
「少なくとも、毛を梳かすのは必要か」
「クゥーン……キューン……」
結局お風呂を避けられず、落ち込みつつも甘える声を出すレオ。
毛を梳かすイコール、ブラッシングでもあるけどそれでもやっぱり避けられるなら避けたいんだろう。
「ははは、まぁこれくらいなら今日すぐにじゃなくても大丈夫だろうけどな。レオがもっと綺麗になりたい、と言うなら別だけど……?」
「ワフ!? ワッフワフ!」
しょんぼりしかけていた顔を輝かせ、大丈夫、問題ないと主張するレオ。
穴掘りを頑張ってくれた結果だし、尻尾とかは土が残ってないみたいだから、急いでお風呂に入る必要はないだろう。
ただまぁ、屋敷に戻る前に絡まった毛を梳かして、細かな砂や土を取り除く必要はあるけどな。
ブラッシングは好きだから、レオにとってはご褒美だからこちらは大丈夫だろう。
「それじゃあ、とりあえずお風呂はまただな。今日じゃないってだけだからな?」
「ワッフ……」
ホッとした様子のレオ、お風呂に入らなくていいとなって安心したらしい。
いやまぁ、近いうちにはちゃんと洗わないといけないんだが……。
「あと、手伝ってくれたご褒美に、ブラッシングもしようか。そうすれば、絡まった毛を梳かせるし、残った砂や土なんかも落とせるだろ?」
「ワフ! ワフワッフー!」
さらにブラッシングというレオにとってのご褒美があると伝えると、喜んで尻尾をブンブン振った。
……ちょっと喜ばせるのが早かったかもしれない、尻尾に残っていた水気が、周囲というか俺やリーザ達にかかっているから。
ほんの少しの飛沫だから、別にいいんだけど――。
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