作業は予定よりもかなり進んだようでした
「リーザちゃん。レオ様はあそこですか?」
レオがはしゃいで巻き上げている土を見て聞くティルラちゃん。
「うん、そうだよ! まだ遊んでる」
「遊んでる……まぁ、大きく違いはないか」
仕事というより、レオやリーザにとっては遊びの範疇だろうからな。
「おぉ~土が空を舞っていますね~!」
「凄いんだよ、バーッて上がった土が、ドバーッて降って来るの!」
両手を使って楽しそうにティルラちゃんへと話すリーザ。
リーザにとっては、それも楽しい事なんだろう……いや、ティルラちゃんもか。
「近くで見てみたいです!」
「うん、じゃあティルラお姉ちゃんも一緒に行こう!」
「はい!」
「キ、キィ……?」
目を輝かせたティルラちゃんが、リーザに手を引かれてレオの方へと駆けていく。
残されたラーレは「あ、あれ?」とでも言うように鳴いて、首を傾げる。
「キィ……」
「まぁ、派手な方が目を引くし、楽しそうだったんだろうな……でもラーレが協力してくれて、助かっているから、うん」
か細く鳴いて、寂しそうに駆けていくティルラちゃんを見るラーレ。
ティルラちゃんにいいところを見せられなかったのが残念なんだろう、さっきも慰められるばかりだったし。
とりあえず、ポンポンとラーレの体を軽く叩いて、俺が慰めてやる事にした。
俺も、リーザがこちらの作業に興味を持ってもらえなくて、寂しいとかじゃないぞ、本当だぞ。
「……とりあえず、今日はこんなところですかね?」
「そうですね、そろそろ日も暮れますし……タクミ様のおかげで、予想よりも作業が進みました。ありがとうございます」
「いえいえ、任せっきりなのも悪いですからね。それに、色々と教えてもらって勉強になりました」
ラーレやコッカー達が虫の駆除担当、俺や使用人さん達は邪魔になる石などを取り除く担当と、役割を別けてしばらく。
遠くにリーザやティルラちゃん、レオやフェンリル達の楽しそうな声を聞きながら、日が傾いて暗くなり始めた空を見上げながら、作業を切り上げる。
作業していた近くには、土の中から出てきたゴミがそれなりに積み上がっていて、整備していない場所って色んな物があるんだなぁと感心しきりだ。
ガラグリオさん達の方も、ある程度植樹を進めてくれていて、気付けば数メートルにわたって人の身長より低めの木が並んでいた。
段々とらしくなっていくのは、やっぱり楽しいな。
特にこうして、自分のやった事などが目に見えてわかるのは……成果としては、最終的に薬草を栽培して収穫する事なので、まだあがったとは言えないが。
「おーい、レオー! フェンリル達やリーザとティルラちゃんも! 今日は終わりにするぞー!」
「ワフ!? ワッフワフ!」
「はーい!」
「わかりましたー!」
「ガウー!」
大きな声で、まだ穴掘りを続けていたレオ達の方へと声をかける。
掘った穴に顔を突っ込んでいたレオが、顔を出してこちらを見て首を傾げた後、威勢のいい返事が返って来た。
レオに続いて、リーザ達からも同じく元気な声が返って来る。
存分に楽しんだみたいだな。
しかし……レオもフェンリル達も、基本的には穴を掘って埋めるだけなのによく楽しめるなぁ。
……確か、ただ意味もなく穴を掘って埋める作業は、人にとっては一種の拷問になるとか聞いた事があるけど、レオ達には違うのかもしれない。
埋めなければ巣穴作りと言えなくもないけど……まぁ、深い場所の土を表面に出すという意味はあるから、無駄ってわけでもないが。
「ワッフワフ!」
「おぉ、楽しめたみたいだな」
「ワッフ。ハッハッハッハ!」
尻尾を大きく振りながら、フェンリル達を引き連れ、リーザとティルラちゃんを背中に乗せて俺の元へと駆けて来るレオ。
舌を出してパンティングしつつ、口角を上げて目を細めて笑顔に見えるのは、凄く楽しめたからだろう。
フェンリル達も同様みたいだ。
リーザとティルラちゃんが背中から降りて、興奮気味にいかにレオやフェンリル達の穴掘りが凄かったかを伝えて来る。
ただ、レオやフェンリル達はもちろんの事ながら、リーザやティルラちゃんも全身が泥だらけだ。
髪の毛にも絡まっているのを見るに、やっぱり頭からレオが巻き上げた土を被ったんだろうな。
「さてレオ、屋敷に戻ったら夕食だとは思う」
まだ少し早いので、すぐにというわけじゃないだろうけど。
「動いてお腹も空いているだろうが……残念ながら、お風呂に入って綺麗にしないといけないわけだ。汚れたままだと、一緒に食べる皆にも悪いからな」
「ワ、ワフ……」
俺の言葉を聞いて、レオが少しだけ後退る。
汚れたらお風呂、という事実を思い出したみたいだ。
今のままだと、尻尾を振るだけで絡まった土が飛んでいたりするからな……無意識に動く事が多いみたいだし、すぐ近くで食べる他の皆が不快にならないよう、洗い流さないといけない。
料理に土が入ったら、せっかく美味しく作ってくれているヘレーナさん達にも悪いし、食べる人達にも申し訳ない。
「だから、作業をしていた皆でお風呂に行こうか!」
できるだけ笑顔で、レオにそう言う。
とはいえ、特に汚れているリーザやティルラちゃんもいるので、別れて入るか俺を含めて男性陣は別になるだろうけど。
作業をしていた人達は汗をかいているし、手も汚れているのは俺も同じ。
美味しい料理を食べる前には、まず体を綺麗にした方が気分よく食べられるはずだ。
「ワゥ……ワッフワッフ!」
「ん? どうしたレオ?」
てっきり、お風呂と聞いてしょんぼりすると思っていたら、何やら得意げな鳴き声を上げた。
そういえばさっきも、後退りはしていたけどいつもとちょっと反応が違ったな。
いつもならお風呂の事を思い出して、驚くはずなんだけど……忘れていたわけじゃなかったのかもしれない。
「ワフ……ワウー!!」
「ガウ!」
「ガウガウ!」
「ガウゥ!」
「レオ、フェンリル達も……いったい何を……?」
俺達から離れ、フェンリル達に向かって吠えたレオ。
作業していた畑からも離れた、何もない場所に移動して一塊になる。
「レオ様、どうしたんでしょう?」
「集合! って言ってたけど……よくわかんないね?」
顔を見合わせるティルラちゃんとリーザ。
フェンリル達に吠えたのは、集合させるためというのはまぁわかるんだけど……。
俺やペータさんも含め、片付けをしてくれていた使用人さん達も、何事かとレオ達の方に注目した――。
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