コッカーとトリースを呼びに行きました
「あ、そうだ。虫と言えば……」
害虫を手作業で取り除くのも手間がかかり過ぎるし、いい事を思いついた。
というか、さっきペータさんの話を聞きながら、任せられる相手を思い浮かべていたじゃないか。
「ペータさん、少し待っていて下さい」
「は、はぁ……」
かがんで土の中を見ていたのに、突然立ち上がった俺に不思議そうにしながらも、頷いたペータさんに見送られて、屋敷へと駆け出す。
同じ体勢ばかりで腰に負担がかかっていたから、ちょうど運動になって良かったな、なんて考えつつ――。
――屋敷を囲む塀の裏口から、庭に直接入る。
裏口は、いつも護衛さん達やフェンリル達が見張りを兼ねて集まっている場所で、正門というか屋敷の正面と真逆にある、庭に直接入れる入り口だ。
畑とか、フェンリル厩舎とか森方面から戻るのには、便利な出入り口だな。
「キィー?」
「あ、タクミさんです!」
「おやタクミさん、どうしましたか?」
庭では、ティルラちゃんとマリエッタさんが、ラーレと一緒にいた。
ラーレがまず俺に気付き、鳴き声と共に首を傾げたのを見て、ティルラちゃんとマリエッタさんも気付いたようだ。
「ちょっと、コッカーとトリースに用があって……どこにいるかわかるかな、ラーレ?」
「キィ? キィキィ」
「チー?」
「チチ?」
「あぁ、そこにいたのか」
ティルラちゃんやマリエッタさんに答えつつ、ラーレに問いかけると、地上に立っているラーレの左右にある立派な翼の内側から、コッカーとトリースが顔を出した。
ラーレの翼も触り心地がいいからな、内側に入ってくつろいでいたんだろう。
「お腹は空いていないか、コッカー、トリース?」
「チー!」
「チチー!」
もちろんと言うように、ラーレの翼から出て来て羽をパタパタさせるコッカーとトリース。
ちゃんと食事はしているはずなのに、いつもお腹を空かせているなぁ。
今回は助かるけど、コカトリスは食いしん坊なのかもしれない……成長期とかかもしれないが。
「それじゃ……」
コッカーとトリース、それからラーレとティルラちゃんやマリエッタさんに、畑での事を話す。
要は、土の中にいる虫をコッカー達に食べてもらおうってわけだ。
別邸でも庭の見回りをしてくれていたように、主食というわけじゃないけど、虫を食べてくれていたからな。
害虫駆除はお任せだ。
「チチ!」
「チー! チー!」
俺の顔くらいの高さで、一生懸命羽をパタパタさせて主張するコッカーとトリース。
どうやらやる気満々のようだ……お腹が空いているからだろう。
「コッカーとトリースのお仕事ですね。ん? ラーレもですか?」
「キィ、キィー!」
「タクミさん、ラーレも手伝いたいみたいです」
「ラーレも? でも、ラーレは虫を食べたりはしないだろう?」
何やらティルラちゃんと話していたラーレ、コッカー達と同じく俺を手伝いたいらしい。
ただこれまで、ラーレはフェンリル達とほとんど変わらない食事をしていて、コッカー達みたいに虫を食べているところを見た事がない。
てっきり、食べたりはしないと思っていたけど……
「キィ。キィキィ~……」
「えっとですね……」
ティルラちゃんによると、かなり昔……それこそコッカー達のように子供、というか鳥だから雛か。
その頃にはよく虫を食べていたらしい。
成鳥になってからはほとんど食べていないけど、懐かしいからって事みたいだ。
ラーレってユートさんがかなり昔、それこそまだこの国がなく魔境と呼ばれていた頃に、戦っておとなしくさせたって話だったっけ。
その頃既に成鳥だったと考えると、ラーレが雛だったのってもう何百年も前って事に……。
懐かしい、なんて言葉で収まる年数じゃないな。
まぁラーレにとっては、それで済むんだろうけど。
「それじゃ、ラーレも行こうか。――マリエッタさんは、どうしますか? って、すみません、ティルラちゃんと過ごしていたのを邪魔してしまって」
もし別邸に戻ってからの、ラクトスやスラムに関係した真面目な話をしていたら、申し訳ない事をした。
雰囲気から、深刻な話をしてそうではないとは思うが。
「いえ、いいんですよ気にしなくて。ただラーレを交えて談笑していただけですし。でもそうね……私は、クレアの方を見て来ようかしら。あの子の事だから、そろそろタクミさんを恋しがってそわそわしてそうだから」
マリエッタさんとラーレが仲良くなるための場、みたいな感じだったようだな。
お邪魔になってしまったわけじゃなくて、少しホッとした。
「ははは、それは俺も一度見てみたいですね」
そわそわしているクレア、というのもちょっと見たい気がするけど、ペータさん達を待たせているからまたいずれ見られる機会を窺おう。
マリエッタさんの言っている事が合っていればだが。
ちなみに、クレアは俺とは違って毎日執務室にこもってやる事が多いらしい。
公爵であるエッケンハルトさんに代わり、クレアがいる場所の周辺地域を見ているからだとか。
まぁ今ここにはエッケンハルトさんもいるんだけど、ちょくちょくエッケンハルトさんやエルケリッヒさんと相談しながら、名代として統治できるようにしているみたいだ。
俺なんかにはわからない、領主貴族としてやる事っていっぱいあるんだろうな。
これからはティルラちゃんが別邸に戻れば、元々別邸周辺でクレアが受け持っていた地域は引き継がれるみたいだけど、それも順を追ってでしばらく時間がかかるようだし。
ティルラちゃんも、まだ成長期で成人していないから当然だけど……その辺りは、付いていくと決まったエルケリッヒさんとマリエッタさんが、補佐してくれるらしいから俺が心配する事ではないか。
「私は、ラーレやタクミさんに付いていきます!」
「うん、わかった。レオやリーザも喜ぶと思うよ。そうだ、レオがね……」
「そうなんですか?! 見てみたいです!」
そんなティルラちゃんは、コッカー達が虫を取るのを見た事はあっても、ラーレがやるのは見た事がないため、興味をそそられて俺に付いて来る事にしたようだ。
マリエッタさんに会釈して、ティルラちゃんと話しつつ作業を続けている畑予定地へと向かう。
ティルラちゃんは、レオが土を巻き上げるように掘る事を教えると、目を輝かせていた――。
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