土いじりのお手伝いをしました
「むしろ俺より、ずっとやっていたペータさんの方が心配です」
「私も慣れておりますから。とは言いましても、やはり年には勝てませんな。少々痛みがあります」
苦笑して腰に手を当てつつ、正直に話してくれるペータさん
俺達が来る前からやっていたようだし、近くに俺がいる事であまり休めず集中していたから、ってのもあるかもしれないな。
単純に、年齢的な事もあるかもしれないが……確かペータさん、セバスチャンさんより少し上の年齢だったはず。
「やはり、若い方には勝てませんなぁ」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。やっぱり、年齢による経験とかもありますし、まだまだ教えられる事もいっぱいありますから」
セバスチャンさんもそうだけど、ペータさんにもこうして畑作りに関して色々教えてもらっているからな。
こればっかりは、経験則とかこれまでペータさんが培ってきた事に、素人の俺が敵うわけがない。
もっと、畑の準備は楽な物だと思っていたくらいだ。
ペータさんがいなかったら、さて薬草畑をと思った時に使用人さん含めて多くの人で、人海戦術よろしく一気にやるしかなかっただろうな。
というか、元々アルフレットさん達はそうするつもりだったらしいし。
今は他の事で忙しくていないが、使用人さん達も時折手伝っているみたいだ。
ペータさんのおかげで、準備も予定までゆっくり進められると喜んでいたっけ。
「あ、そうだ。ペータさんの腰に負担を掛けないように、こうしましょう」
「はて……?」
作業の効率化と、ペータさんの腰を労わるために一つの提案をした。
石などを拾っても、全てを持ったままというわけにはいかないため、一か所に集めているんだけど、二人で拾っているとわざわざそこまで移動するという作業が発生する。
それなら、俺が土からごみを拾ってペータさんに渡し、ペータさんがそれを集めている場所に持っていく、またはある程度いっぱいになるまで、ゴミ入れに使っている袋に入れる、という案だ。
これならペータさんは何度もかがむ必要はないし、移動する必要はあるけど、腰への負担は少ないだろう。
微妙な大きさの物はまだ俺自身も判断できないため、ペータさんに確認してもらわないといけないし、その手間も省ける。
作業的にも効率が良くなるわけだな。
「では、よろしくお願いします」
「はい、お任せください」
提案した時は、むしろペータさんが拾う役目をやると言っていたけど、そこは何とか説得して、運んでもらう役目を任せた。
そうして、途中から手の空いた使用人さん達も加わったりもしつつ、しばらくの間集中してゴミを拾い続ける。
遠くではレオやリーザ、フェンリルの楽しそうな声、ガラグリオさん達の方からは、木を植える際の掛け声なんかも聞こえた。
ゆっくりとした時間が流れているようで、腰はちょっと辛かったけど、それを我慢するだけの価値はある、のんびりした作業ができた気がするな。
さすがに畑全体のゴミ拾いを終わらせるのは、今日だけで終わる気は全くしないけど。
「タクミ様、これをお使いください」
「ありがとうございます」
日が少し傾いた頃、手伝いに来てくれていたウィンフィールドさんが持って来てくれた手袋を受け取って装着。
石や枝ならまだしも、錆びているとはいえ金属片やら陶器の欠片など、気を付けないとちょっと危ない物もあったからな。
レオやフェンリルは豪快に掘っても大丈夫だし、リーザもその辺りは感覚的なのかわかるらしく、怪我とかは一切しないらしいと、様子を見に行った使用人さんが言っていたんだけど、俺が何度か手を切ってペータさんを慌てさせてしまったからなぁ。
ちなみに、手の傷はすぐにロエで治療……と思ったけど、なんとなくもったいない気がしたので、ミリナちゃんが作ってくれていた傷薬で治療した。
ほんの少し血がにじむ程度の切り傷だからな。
思わぬところで、傷薬の効果を確かめる事ができた。
塗った傷薬が乾く十数秒程度で、小さな切り傷がなくなる……大きな怪我にはもちろん、即効性も含めてロエには及ばないだろうけど、コスパも含めて素晴らしい。
「っと……うぇ……またかぁ」
「どうされましたか?」
「いえ、また虫がいて……」
掘った土から、石などではなく虫を発見して思わず嫌な声を出してしまう。
そんな俺に、様子を窺うペータさん。
虫は苦手な方で、できるだけ見なくて済むなら見たくないんだけど、土を掘る以上どうしても見つけてしまう。
土や植物と関わる以上、虫は避けて通れないのはわかるけど……虫を見たり触ったりするなら、シェリーがやってしまった粗相の掃除を素手でやる方がずっといい。
……これまでにほんの数回程度しかないし、最近は全くしなくなったけど。
ちなみに小さい頃から苦手で、やんちゃな同級生からカブトムシの裏側を見せられたのは、ちょっとしたトラウマになっていたりする。
一応一人暮らししていたから、水場付近でよく見られるあの黒光りする奴を、なんとか退治する事はできるけども。
ただ、まだ拾って少しくらいのレオが、外から返ってきた時におもちゃ代わりにして遊んでいたのを発見、バラバラになったのを見た時には立ち眩みがしたが。
無邪気さは、時に残酷さと同義なんだなと学んだ……。
大きな音が苦手で、掃除機に対してひたすらレオが吠えるのを聞きながら、隅々まで部屋を掃除したけど。
「ふむ。これはゾウネムシの幼虫ですね」
「……そ、そうですか。よく触れるなぁ」
俺が昔の事を考えている間にも、土の中を覗き込んだペータさんが摘まみ上げて観察していた。
白い芋虫のようで、ぶよぶよしていて先端が青いそれは、よく見なくてもなんとなく幼虫だというのはわかる。
セミとかもそうだけど、土の中で成長する幼虫って詳しくない俺からすると大体同じに見えるけど。
「これは土の害虫と呼ばれていますね」
「土の……ですか?」
できるだけ見ないようにしながらペータさんに聞く。
害虫と言えば、植物を病気にさせたり葉や実を食べたり、という認識だったけど……土に対しても害虫っているのか。
植物に対して被害をもたらすと言えば、代表的なのはモグラとかネズミを俺は想像するけど……まぁあちらは害獣か。
俺が、虫を想像したくないってのもあるだろうけど――。
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