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1601/1997

リーザが飛び込んできました



「とにかく、足跡を調べる班と、他の場所を調べる班で別けるように。足跡の方は少数でお願いします。もちろん、どちらにもフェンリルを連れて行く事」

「はっ、承知いたしました。すぐに、調査をする者たちに周知して参ります」

「お願いします」


 そうして、調査隊を別ける事を決めて、執務室を出ていく女性近衛護衛さんを見送る。

 残ったのは、俺とエッケンハルトさん……それから、アルフレットさんとライラさんに、レオだな。

 アルフレットさん達は、報告を聞いて書き記す書記みたいな役割で、話には加わらず黙々とペンを進めてくれていた。

 あ、俺がもう少し自信をとか、命令口調でとかは、書き残さなくていいですからね?


 レオは、リーザがデリアさんとお勉強中のため、暇だから執務室で丸まって寝ている……昨日は遅くに寝て、今朝は早く起こされたから眠いんだろう。

 どうせ寝るならここじゃなくて、寝室でも良かったんじゃないかと思うけど、人の声や俺の声を聞いている方がいいらしい。

 寂しくないという意味では気持ちはわかる。

 とはいえ時折耳がピクッと動いているから、完全に寝入っているわけでもなく、報告とか俺達の話を聞いているのかもしれないが。


「最後のは、中々悪くなかったな。もう少し命令口調で『やれ』と言った方が、喜ばれたのだろうが」

「そこはまぁ、まだまだ慣れていませんから……」


 頑張るとは言ったものの、すぐにはできないのが俺の情けないところだ。

 いずれ、エッケンハルトさんが納得する程の言い方ができればいいけど。

 ……まぁ、調査隊に指示するような事は、そうそう起こらないだろうしこれっきりくらいで勘弁して欲しくもあるが。

 なんて、エッケンハルトさんと雑談していると、レオの耳がピクピクっと動いた。


「ワウ?」

「どうしたレオ?」


 閉じていた目を開けて、小さく声を出すレオ。

 何か聞こえたんだろうか?


「ワフ? ワウフワフ」


 顔を上げたレオが、扉の方を見て鳴く。


「え、リーザの足音が聞こえる? でも、まだ勉強中じゃ……」


 リーザの足音だと断定して、それが近付いてくると言っているようだ。

 勉強中のリーザが? とは思ったけど……その通りというべきか、にわかに廊下が騒がしくなった。

 というより、ばたばたとした足跡が近付いてくるようだ。

 さすがに俺にはリーザの足音かどうかはわからないが、子供らしい軽快な音のように聞こえる。


 マルチーズの頃ですら、外から帰って来る俺の足音を聞き分けて帰って来たとわかっていた節のあるレオだ。

 シルバーフェンリルになった今なら、確実に聞き分ける事ができるんだろうな。

 ともあれ、慌てている感じではないけど……どうしたんだろう?。

 そう考えていると、近付いて来た足音が執務室の扉の前で止まる。

 エッケンハルトさんや、アルフレットさん達もレオと俺の会話を聞いていたため、そちらに注目していると、扉が大きく開いた。


「パパ、ママ―! これ見て―!」

「本当にリーザだったな」

「ワッフ」


 開いた扉から入って来たのは、レオが言った通りリーザだ。

 やっぱり足音を聞き分けることができたみたいだが、靴でもなんでもだけど、特にスリッパを履くようにしている屋敷内で、足音を聞き分けられるのはすごいな。

 さすがの聴力だ……もしかしたら、リーザ自身も、それからフェンリルとかもできるのかもしれないが。

 ともあれ、入ってきたリーザだが、何やら一枚の紙を持って誇らし気にしている。


「リーザちゃん、タクミ様はまだお仕事中で……!」


 と、デリアさんが慌ててリーザを追いかけて執務室に入って来る。

 この間にも、リーザは俺とレオのいる大きな机の方まで来ていた……相変わらず素早いなリーザ。

 というか、ブレイユ村近くの森でアウズフムラを簡単に追い詰めたデリアさんを置いて来れるなんて、まだスリッパに不慣れというだけかもしれないが。


「ねぇねぇ見てみて、パパ、ママ!」

「リーザちゃん……申し訳ありません、タクミ様。こ、公爵様も」

「ははは、こちらこそリーザがすみません。重要な話とかをしていたわけではないので、大丈夫ですよ、気にせずに」

「はい……」


 俺やレオに向かって、持っている紙を見せようとするリーザ。

 もう部屋に入ってしまっているからと、肩を落としながら謝るデリアさんに苦笑する。

 エッケンハルトさんに対してまだ直接話すのは緊張するのか、長い尻尾を足に巻き付けながらだが。


 そのエッケンハルトさんも、リーザの方を微笑ましく見ながらデリアさんに手を振っているから、気にしていないようだ。

 ともあれ、リーザが何を見せようとしているのか……パッと見、なんの変哲もない紙で、何か文字が書かれているようだけど。


「ワゥ?」

「んー?」


 リーザが誇らし気に、耳を忙しなく動かしながら、二本の尻尾もブンブン振って見せてきている紙を、レオと一緒に覗き込む。

 そこには、拙くてお世辞にも綺麗とは言えないが、はっきりと「タクミ」と「レオ」という文字が書かれていた。

 頑張って書いたんだろう、他の場所には何かが書かれた後上からぐしゃぐしゃな線を引いて消しているのもあった。


「これは、俺とレオの名前かぁ……」

「えっとね、えっとね、デリアおねえちゃん……じゃなかった。デリア先生に教わって、パパとママの名前を書けたの! えへへ!」


 読んでもらえたと、嬉しそうに笑うリーザの顔は紅潮しているようだ。

 よっぽど嬉しいんだろうな……うんうん、笑っている顔も凄く可愛いぞ。


「そうかぁ。練習したんだな?」

「うん!」

「ワッフワフ!」


 笑顔で頷くリーザに、レオも嬉しそうに鳴いてリーザの顔を舐める。

 レオが文字を読めているようなのはまぁ今更として、わざわざ書いてくれたのが嬉しかったんだろう。


「リーザちゃん、少しずつ文字を覚えていくうちに、タクミ様とレオ様の名前を文字として書きたいって言っていたんです。それがやっと書けたから……」

「こうして見せに来てくれたんですね。――ありがとうな、リーザ」

「ワッフ!」

「うん、頑張ったんだよ!」


 デリアさんの言葉を受けて、頑張って書いてくれたリーザの笑顔に俺も嬉しくなる。

 初めて文字を習って、なんとか書こうとしているのが、リーザの頑張りが、書き損じて消されている紙の他の場所から、伝わってきた――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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