調査の方針を考えました
「つまり、その森に入った何者かは魔物とは戦っていない、となりますね?」
「はっ、現状ではそうとしか考えられません。何かしらの方法で、痕跡を消すなどの隠ぺいを図っていなければ、となりますが」
「隠蔽したとなると、尚更怪しいですね……そういった痕跡は?」
「いえ、隠蔽したような痕跡すら発見できませんでした。通常、魔法などを使えば痕跡はある程度残りますし、残滓の魔力などもあります。それは、十日程度で消えるようなものではありません」
「必ずしも、魔法を使ったわけではないでしょうが、それにしたって武器を使っても、もう少し何かしらの痕跡や、隠蔽の跡が残るものなんですけどね、タクミ様」
俺の質問に、女性近衛護衛さんとフィリップさんが交互に答えてくれる。
魔法でも剣などの武器などでも、森という場所で戦えば痕跡は残りやすいはずなのに、それがないという事は戦闘はなかったとなる。
「もちろん、我々が発見できないような隠蔽法でなければ、という条件が付きますが」
「だが、さすがにフェンリルの鼻をごまかせるとは思えないぞ?」
「公爵様の仰る通りです。フェンリル達は我々が驚く程、見つけられないような細かな痕跡も発見してくれます。足跡なども、古い物はフェンリルがいなければ見つける事は敵いませんでした」
「もしかしたら、新しい足跡の方も難しかったかもしれませんね。どちらも、フェンリル達が見つけてくれたものです、旦那様」
「そうか……」
「フェンリルさえも誤魔化す隠蔽、というのはあまり考えられませんね」
調査隊には、人もフェンリルも両方とも、感覚強化薬草を食べてもらっている。
通常でも鋭い嗅覚を持つフェンリル達が、さらに強化されているんだから、それを誤魔化すのは不可能に近い気がするな。
つまり、森に出入りしていた人達は魔物と戦ったりはしていないという事になる。
まぁ、森の奥に行けば絶対魔物と遭遇すると確定しているわけでもなし、隠れてやり過ごすとか、本当に運が良くて遭遇しなかったなど、戦闘しなくても奥へ行けないわけじゃないか。
女性近衛護衛さんが言うように、違和感というか不自然さは感じるけど……ただそれくらいだ。
こういった人の勘や感覚は馬鹿にできないけど、だからといって全てが当たるわけでもないからなぁ。
「フェンリルに頼った調査になっているが……協力してくれているわけだし、私も含めて、人にはわからない何かを探すのにはいいのかもしれんな」
「フェンリル達はとても協力的で、獰猛だと言われているのが嘘のようです。いえ、我々人が勝手にそう思い込んでいただけなのでしょう。力不足は感じますが、調査を効果的に、短期間で進めるにはありがたいと思っています」
「うむ。――して、タクミ殿。どうする?」
「そうですね……」
エッケンハルトさんに問いかけられて、これからの調査方針のようなものを考える。
調査をすると決めた時からだが、全体の指揮とか方針に関しては、エッケンハルトさんやユートさんとかではなく、俺が決めなければならないようだ。
まぁ、もし何かまずい事を言ったり、やろうとしていたら止めてくれるんだろうけど……そのために、今ここにエッケンハルトさんがいるわけだからな。
ともあれ、このままフェンリル達に協力してもらって調査をするのは、皆受け入れてくれているようだからこのままでいい。
肝心なのは、森の異変と発見された足跡などが関係しているかどうかだ。
もし全然無関係だったら、調査しただけ無駄になる。
森には魔物がいるし、自然に群生している薬草なんかもあるわけで、異変とは全く関係なく森に人が入る事が絶対にないとは言えない。
それなのに、近いランジ村に誰も来ていないというのは不自然だけど……拠点としてとか、いったん休むためとかで近くの街や村に寄るのは、むしろ当然の事だろう。
食糧とかその他諸々あるわけだし。
だから、その足跡は怪しいのは間違いないんだが、とはいえ十日の間新しい足跡がなく、もう近付かないのかもしれないし、そこにばかり調べ続けても意味があるのかどうかだな……。
うーん……。
「エッケンハルトさん、お願いがあるんですけど」
「なんだ? タクミ殿からのお願いであれば、大抵の事は聞けるぞ? 多少無理もしよう」
「いえ、無理にという程ではないんですけど……ランジ村の近く、ラクトスとかその他の村や街で、森に入ったような人がいないかとか、探せませんか?」
魔物なり薬草なりが目的で森に入ったのなら、それを運び出してなんらかの行動をしているはずだ。
それ以前に、移動に数日はかかるはずだから、前もった準備も必要だし、ランジ村に来ていなくともどこかの村や街で間違いなく補給とかをしているはずだ。
そちらの方で出入りとかを調べれば、何かわかるかもしれない。
こういった事は、俺とか調査隊の人達ではなく、領地を治めているエッケンハルトさんに頼むのが適任だろう。
「成る程な……人の出入りを調べるか。村の方は少々心もとないが、街であればある程度記録しているだろう。村だと、誰かが覚えている可能性もないわけではない。わかった、調べさせよう。フィリップ、至急手配しろ」
「はっ!」
「ありがとうございます」
フィリップさんが、エッケンハルトさんや俺達に一礼して、執務室を出ていく。
足跡を残した人達は、必ずどこかの村や街に出入りしているはずだし、なんの目的で森に入ったのかはわからないけど、何かを森で得たのならそれを村や街で売っている可能性も考えられる。
それこそ、森の魔物を倒してその報酬を得るとか、ニグレオスオークなどの食べ物になる魔物を狩って売るとかな。
目的がそういった物なら、基本的に悪い事ではないし、そもそも森は立ち入り禁止とかでもないからな……魔物がいるから危険だけど、そこは自己責任だ。
村や街の調査の方はエッケンハルトさんに任せるとして、調査隊の動きだな……。
「日数があいていますが、それでもまた来ないとは限りません。一応、足跡の方も調査を続けるべきかと。再び人が来ないか見張るのと、もう一度調査をして何か新しい情報が得られないか、ですね。それと同時に、足跡のある場所にこだわらず、他の場所も調べるのがいいと考えます」
「ふむ、調査隊を分ける、という事か?」
「はい。聞きますが、フェンリル達に多くの人が向かったとして……フェンリル達の方に危険はありますか?」
エッケンハルトさんに頷きつつ、女性近衛護衛さんに視線を向けて問いかけた――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。







