一足先に部屋に戻る事にしました
「申し訳ありません、私では力不足でした」
「いえ、アルフレットさん達に懐いていないとかではないと思いますから、そんなに落ち込まなくて大丈夫ですよ?」
「ワフ」
これがライラさんだったら、上手くやってくれた可能性もあるし、特に懐いているリーザは一緒に寝たのかもしれないが、とはアルフレットさんには言わないでおこう。
結構、落ち込んでいる様子だったから。
……同じ獣人で家庭教師の先生でもあるデリアさんにも、結構懐いているからデリアさんでも……いや、読み書きを教えるようお願いはしたけど、使用人じゃないからな。
デリアさんは喜んで引き受けてくれそうだけど、さすがに迷惑が掛かりそうだ。
「すみませんマリエッタさん、クレアも。俺はこれで……」
ともあれ、リーザもほとんど寝ているような状態だし、呼びに来てくれたんだからと、立ち上がって謝りつつ、この場を辞するように言う。
話も、ほとんど終わってただ雑談していただけだからな。
「えぇ。むしろ、こんな老人の話に長く付き合わせて申し訳ありませんでした」
「いえ、色々と話が聞けましたし……クレアの事もありましたから。有意義な時間でした」
クレアやエッケンハルトさんの能力だとか、これまでちょっとした話にはなる事はあったけど、はっきり話せていなかった事も話せたからな。
少しくらいはマリエッタさんの人となりもわかったし、初対面の時よりは緊張も解れて、とても有意義だったと思う。
レオ達から文句が出そうだから、夜遅くにというのはあまりできないだろうから、昼などで時間がある時にお茶を飲みながらのんびり話すのもいいかもな。
……その時には、エルケリッヒさんやエッケンハルトさん、ユートさんが混ざりそうだけど。
「タクミさん、レオ様、リーザちゃんも、おやすみなさい。私はもう少しお婆様とお話していますね」
「うん、わかった。それじゃクレア、マリエッタさん。おやすみなさい。――ほらレオも。リーザ……無理そうか」
「ワッフ!」
「おやふみ……ふみ……」
俺に促されてクレアやマリエッタさんに挨拶の鳴き声を上げるレオ。
それに続いて、もう目も開いていないリーザが、二本の尻尾を振りつつ挨拶……しようとしたが失敗した。
半分どころか、もうほぼ寝ている状態だな。
「あらあら、もう寝言みたいになっているわね。ふふ、可愛らしい子」
「あー、そういえばリーザの事を詳しく話していませんでしたね……」
微笑むマリエッタさんに、そういえばと思い出す。
一応名前とか獣人だ、という事は話しているしリーザとも挨拶くらいはしたんだけど、どういういきさつでここにいるのか、とかはまだ話せていなかった。
まぁ、一応エッケンハルトさんの方から、ラクトスで見つけて引き取ったなどの事は聞いているらしいけど。
レインドルフさんの話はまだらしいからな。
「今日はもう遅いですし、明日以降で構いませんよ。こうして見ていると、レオ様やタクミさんが可愛がっているのがよくわかります」
「私も、ですよお婆様。ティルラなんて、妹なのか友人なのかわからないくらい一緒にいます。――あぁタクミさん、ある程度の事は私からお婆様に話しておきます」
「ありがとう、お願いするよ。それじゃ……」
「ワウ~」
リーザを見て顔を綻ばせ……というか、ちょっとデレっとした感じの表情になるマリエッタさん。
子供好きなのか、リーザが特別可愛いからか……両方かな。
ともかく、ある程度の事はクレアに任せて、俺は寝息を立て始めたリーザを乗せたレオを連れて、客間を出た。
「……エルミーネさんの声が聞こえますね」
客間を出て扉を閉めてすぐ、中からクレアさんやマリエッタさんだけでなく、エルミーネさんの笑い声が聞こえてきた。
「あの人は、昔からマリエッタ様と仲が良かったので、話が弾んでいるのでしょう」
俺達について同じく客間を出てきたアルフレットさん。
アルフレットさんもそうだけど、エルミーネさんも長年公爵家に仕えてきた使用人さんだし、マリエッタさんとはそれなりの付き合いになるのか。
どうやら、俺達がいなくなった事で、早速とばかりに女性同士の話に花を咲かせ始めたらしい。
マリエッタさんと仲がいいエルミーネさんか……恋愛とかの話が好きそうな事をさっきマリエッタさんが話していたから、クレアがからかわれていないか少しだけ心配だ。
けど、俺にはもう止められないし、女性同士の話に割り込むのもな……と諦めてそのまま部屋へと向かう。
からかわれている時のクレアのいろんな表情を、俺も楽しみたかったなぁ、なんてほんの少し後ろ髪を引かれながら。
まぁ、本当にクレアがからかわれているのか、話の内容まではわからないけども。
「ん、よいっしょ……っと」
「んー、ふみぃ……」
「おっと。ゆっくり寝ていていいからなー」
「わうぅ……」
「ワフ?」
「大丈夫だ。ちゃんと寝てくれているよ」
使用人控室に入るアルフレットさんと別れ、自室に戻ってレオの背中からリーザをベッドに移す。
ちょっとだけリーザが薄く目を開けて起きそうだったけど、頭を撫でつつ声をかけたら、安心したのか犬っぽい声を出して寝息を立て始めた。
起きた? と首を傾げつつ、ベッドを覗き込むレオに大丈夫だと体を撫でる。
「ふわぁ……本当に、結構話し込んでいたんだな。もう眠い」
リーザを見ていて俺の眠気も刺激されたのか、思わず出たあくびを噛み殺しつつ、置いてある時計を見る。
針は一時を少し越えたあたりを指していた……思った以上に長話をしていたみたいだな。
クレアとマリエッタさん、まだ客間に残ってエルミーネさんと盛り上がっていたけど、寝不足にならないかな?
「ゥワ~フ」
「ははは、レオも眠そうだな」
「ワウ、ワッフワフ」
「ごめんごめん。ちょっと色々と面白い……っていうのとは違うか。興味深い話があってな。まぁそれは明日にでも話すよ」
俺のあくびがうつったのか、レオも大きく口を開けてあくびをしたのを見て、ちょっと笑うと注意するように鳴かれた。
こんな時間まで話し込んでいた俺が悪いな、ごめん。
ともあれ、クレアの能力の話とか聞いておいて良かったと思える事も多かったし、レオには謝っておく。
レオに隠す事でもないけど、詳細は明日にしてとりあえず寝る事にした――。
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