レオとリーザが迎えに来ました
「マリエッタさん、もしかして……?」
俺が声を漏らすと、マリエッタさんはゆっくりと口元に人差し指を当てて、柔和なほほえみを浮かべた。
やっぱりか……もしかしたら、マリエッタさんはこれが言いたくて夜であるにも関わらず、俺とクレアに話しをしに来たのかもしれない。
いや、さっき話していたように緊張しているとかそれもあって、雑談に花を咲かせたいというのも本音かもしれないけど……嘘を言っているようには一切見えなかったし。
ともかく、マリエッタさんとしては、クレアの能力がなんであれ可愛い孫娘である事に変わりなく。
けど、これから先の事を考えるといい悪いはあれど、様々な人が俺やレオ、クレアと出会う事になる。
その時、自分の能力に戸惑わないよう今のうちに考える機会を与えたってところだろう。
マリエッタさんが、どこまでエルケリッヒさん達から聞いているかはわからないけど、特にクレアはこれから外に出ていく事が多くなる。
その時、自分の能力を疑わないようにと、マリエッタさんなりの親心……祖母心? なのかもな。
仕事に関してだけでなく、ギフトを持っている俺や、シルバーフェンリルのレオと一緒にいれば、他にも色々と関わる人も増えるだろうし。
事実、ユートさんだけでなくテオ君やオーリエちゃんとかとも、直接かかわるようになっているから。
「あ、これは俺もか……」
「ふふ……タクミさんは自分の事よりも、クレアの事の方が鋭いようですね。――なんにせよ、クレアのその人を見る力は、これから先も必ず役に立つと私は信じています。そしてそれを、タクミさんやレオ様のため、自分のために使いなさい。願わくば、あなたと周囲の皆が笑っていられるように」
「お婆様。はい、わかりました。これまでは漠然としていましたが……この能力、タクミさんやレオ様、お父様やお爺様。ティルラともちろんお婆様も。それに、使用人達や公爵家とそれに関わる人達のために」
力強くマリエッタさんに頷くクレアからは、これまでにない決意のようなものを感じた。
やんわりとだけど、しっかりクレアにこの先の道を示す……これが年の功ってやつかな?
ちなみにだけど、別に俺はシックスセンスを信じないわけじゃないが、クレアの能力はギフトかそれに近い何かだと思っている。
言葉にはしづらいし、感覚的な事でしかないんだけど……ほんのりというか、本当に微かに俺の中にあるギフトが、『雑草栽培』がこの話題に反応しているような気がしたから。
いや、だからそうという事ではないんだけど、ユートさんと初めて会った時に不思議な感じがしたのと、ちょっとだけ似ている感覚があった。
ただクレアと付き合う事になってすぐの頃、レオやフェンリル達から祝福を受けてから、クレアと糸のような細さながらも感覚を微かに共有している感じもあって、それかもしれないためはっきりと口には出せなかったけど。
少し前に俺のトラウマの話があったけど、多分、この釣り糸よりも細い糸のような繋がりがあったからこそ、クレアも気付いたんだろうな。
いや、それに関わらず、クレアが俺を見てくれているからかもしれないが。
「ん?」
それから、本当に雑談をしに来たと示すように、しばらくマリエッタさんとクレアを交えて話していたら、客間の扉からカリカリという音が響いた。
何だろうと思ってそちらに顔をやる俺と同じく、マリエッタさんやクレアも顔を向けた。
エルミーネさんが調べるため、扉へと近づいていく。
「……ワフ、ワフワウ?」
「あ、レオか?」
「ワウー」
扉の外から、カリカリという音と共に聞こえたのは間違いなくレオの声。
俺が思わず声を出すと、扉の外からこちらを呼ぶ鳴き声を出していた……大きな声じゃなかったのに、レオには聞こえたのか。
「レオ様でしたか。ただいま扉を……」
「ワッフ!」
レオだとわかって、エルミーネさんが扉に手を伸ばし、開ける前に外側からドアノブが動いて開かれた。
背中にリーザを乗せたレオが、前足で器用に開けていた。
多分、俺の声が聞こえたから開けてもいいと思ったのかもな。
「レオ、どうしたんだ? それにリーザも……って、寝そうだな」
「ワッフワフワフ。ワウー」
「んに……パパ、遅いから……んん……」
客間に入ってきたレオは、俺に顔を向けて尻尾をゆっくり動かしながら近づく。
どうしたのかと聞くと、どうやら戻りが遅い俺を迎えに来たらしい。
背中に乗っているリーザは、乗っているというよりもはや乗せられている状態というか、レオの背中がベッドみたいになって半分以上夢の世界にいるようだ。
「あら、話し込んでしまって、随分と長い事タクミさんを引き留めてしまいましたね。――レオ様、申し訳ありません」
「ワフ。クゥーン、キューン……」
「ははは、わかったよレオ」
「ふふ、レオ様はタクミさんと一緒がいいんですね。リーザちゃんも」
マリエッタさんが謝ると、レオが頷き俺に近付いて口先で服の袖を引っ張る。
こちらの世界に来てから俺と離れて寝る事も結構あったと思うけど、リーザがいるから一緒にという事なのかもな。
マルチーズの頃は、俺がいる時もいないときも、俺のベッドに潜り込んでいる事が多かったし、大きくなってもその辺りはあまり変わっていないんだろう。
まぁ、本当に寝る時は時折ベッドに少し体を乗せる事もあるけど、レオの大きさもあってほぼ別々なんだけどな。
「申し訳ありません、旦那様。クレア様もマリエッタ様も。お話の邪魔をしてしまったようで……リーザお嬢様もレオ様も、やはり旦那様と一緒がいいと求められまして……」
レオ達の後から入ってきたアルフレットさんが、深々と頭を下げる。
相手をしてくれって頼んでいたけど、結局俺達の所に来たからだろう。
まぁ、リーザとレオが寂しがったんだろうし仕方ない。
「いえ、いいんですよ、アルフレットさん。……あれ、ゲルダさんも一緒だったのでは?」
「ゲルダはフェヤリネッテを寝かしつけて来ると……」
レオやリーザの事を、アルフレットさんとゲルダさんに頼んだ時、フェヤリネッテもいたからか。
今のリーザのように、半分寝ているような状態になって、ゲルダさんが連れて行ったらしい。
レオの毛に紛れている事が多いフェヤリネッテだけど、寝る時はゲルダさんと一緒だからな……俺とレオのように、ゲルダさんとフェヤリネッテも仲良くやっているようだ。
ゲルダさんもいなくなって、レオとリーザはちょっと寂しくなったのかもしれないな。
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