ギフトかもしれないしそうではないかもしれませんでした
「それはもちろん、わかっています。まったく同じではなくとも、タクミさんと同じくギフトを持てた、という事が嬉しいのですから」
初代当主のジョセフィーヌさんから受け継いだギフトだとすれば、ティルラちゃんと近い能力……じゃないか。
ただ人を見抜く力なのだとすると、どちらも人を対象にした能力ってところは同じと言えるかな。
ティルラちゃんの方は、人限定ではなくフェンリルなどの魔物も含めてで、言葉がわかる副効果はともかく、自身が発した言葉への強制力が加わる主効果を考えると、能動的な能力だ。
対してクレアは、人の内面を見てわかるというくらいで働きかけるわけじゃないから、受動的な能力なのかもしれない。
まぁでも、まだはっきりと発現したわけではないからなぁ……そもそもそれ自体が、主効果なのか副効果なのかもわからないし。
「とにかく、すぐにでもギフトの詳細を調べなきゃ……」
「落ち着きなさい、クレア。もしかしたらギフトが自分に、と考えて急く気持ちもあるのでしょうけど、まだ確定したわけではないわ」
慌てて立ち上がるクレアを、マリエッタさんがたしなめる。
クレアにギフトがある前提で話していたけど、そうだ、まだ本当にそれがギフトなのかという事はわかっていない。
そのために魔法具で調べるのも重要だとは思うし、だからいてもたってもいられずに落ち着かない、という気持ちはわかるけども。
「あ、そ、そうですよね……私ったら……申し訳ありません」
「まぁ、気持ちはわかるけどね。――でもマリエッタさん、まだクレアにギフトが発現していないと?」
「えぇ。まぁ私自身はギフトを持っていないので、感覚などは一切わかりませんが……クレアが、これまでとの違いを感じていないのよね? 誰かを見た時、ある程度わかるとしても」
「そ、そうですね。感覚としては、以前から何かが変わったという事はありません、お婆様」
俺からの問いかけに頷き、改めてクレアに聞くマリエッタさん。
そうか……もしかしたらギフトと関係がある可能性が、クレアの能力にはあるのかもしれないけど、それは昔からの事。
感覚的にも変わっていないという事は、ギフトがまだ発現しているわけではないか。
何せ、昔から人を見る目というのはあって、でも魔法具で調べた時にギフトが判明したわけではないんだから。
「なら、もしかしたらそれはギフトではないのかもしれない。でも発現しかけているギフトが、何らかの作用を及ぼしているのかもしれない。どちらでも考えられるわ」
「でも、人を見るだけで相手の事がある程度わかる、というのはそれだけで凄い能力だと思います。それを、ギフトではないとは……」
言いながら気付いたけど、凄い能力はつまりギフト、とは限定されないか。
ユートさんから話を聞いて、ギフトを持つ人の条件など、ある程度わかっている事はあれど、完全に解明されてはいない能力だ。
ちょっと人とは違う能力とかを持っているからって、それが全てギフトであると断言できるものではないだろう。
さっき、クレアの喜び方を見ていて、俺のためと考えてくれていたのもあってか、できればクレアにもギフトがあれば……というのは俺の希望にもなっていると感じるけど。
能力の有用性とかそういうのは二の次で、単純に「ギフトを持っている」という仲間を得られるってのも、俺としては歓迎したいのもあるかな。
どうしても、ギフトを持っているかいないかで感覚的な違いはあって、だからこそクレアにもと思ったけど……。
「ギフトでないのであれば、私の能力は一体、なんなのでしょうか?」
「持っている本人であるクレアがわからないのであれば、誰にもわからないわ。ハルトなら、多少はわかるのかもしれないけれど、あの子はどういう能力と考えるよりも、それを使う方に関心があるようだし、クレアの問いかけには答えられないでしょう」
能力がなんなのか、ギフトでなければ一体どういう事なのか。
もしかしたらそれは、ギフトという特殊な能力が今のように知られていない頃に、異世界から来た人やその周囲の人達が、疑問に思った事と似ているのかもしれない。
まぁ、俺からすると魔力と魔法があるこの世界では、ギフトも一緒くたに考えて、不思議ではあるけどそういうものと受け入れるしかない、とは思うが。
この世界で生まれた人にとっては、魔力があるのは当たり前で、魔法も当然の物であり、逆にそこから外れた能力は不思議に思うものなのかもしれない。
「魔法ではなく、ギフトでもない力。名称はないけれど、そういう特殊な力を持つ者もいないわけではないわ。もしクレアの能力がギフトでないとしたら、そういった能力なのかもしれないわね……」
第六感、シックスセンス……超能力、はどちらかというと魔法に近いかな?
ともかく、真偽はともかく地球にもそういう話はあった。
ギフトではなくそういった特殊な能力という可能性もあるか……シックスセンスは勘とか洞察力のようなものであると言われている。
そこから考えるとクレアの人を見る目は、直感とかそちらに近いのかもしれない。
「……ギフトではない可能性も、あるのですね」
「えぇ。ぬか喜びさせてごめんなさいね、クレア」
「いえ。子供の頃から……それこそ、生まれた時からあるこの感覚がなんなのか。今まで疑問に思う事はあれど、そういうものと受け入れていましたが」
「まぁハルトも同じようなものね。役に立つ能力だけど、どうしてその能力があるのかとか、考えてもわからないし、自分にとっては自然にあるものだから。なら、考え過ぎずに受け入れるしかないでしょう」
エッケンハルトさんやクレアにとっては当たり前の能力だからこそ、疑問を差し挟むよりも、そういうものと受け入れていた方が精神衛生上楽だとか、そういう事だろう。
それこそ、二人の出生に秘密が……なんて物語であるような事でもなく、間違いなくマリエッタさんとエルケリッヒさんの息子で、孫なんだから。
「とにかく、現状何も変化がないのであれば、ギフトではない。少なくとも発現しているものではないという事。可能性としては、ギフトではない別の能力かもしれない。それらを考えて、振り回されないようにしなさい」
クレアに言葉をかけるマリエッタさんの声には、口調は厳しいながらも、どこか優しさがこもっている気がした――。
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