奥様方の会話は深いかもしれないようでした
「お、お婆様、そのお話を続けるのですか!?」
「いえ……続けるべきではないとは思うのだけれど、他に話す内容が思いつかなくてね」
「お婆様もまだ、頭の中が整理できていないようです。ダンデリーオン茶を飲んで、落ち着いたと思ってたのに」
俺なんて、客間に来るまでの間で落ち着いたもんだと思っていたんだけど……どうやらマリエッタさんは、まだ戸惑いとかがあるようだ。
ほんのり頬に赤みが残っているクレアもだけど
まぁ俺もそうなんだけど……だからこそ、ダンデリーオン茶の事を考えて気を逸らそうとしていたわけだからな。
じゃないと、隣にクレアがいるうえにダンデリーオン茶の香りに混じって、お風呂上りの仄かな石鹸の香りを変に意識してしまいそうだったから。
ハグをする時は、できるだけ意識し過ぎないように気を付けているんだけどなぁ。
「んんっ! そうね、この話はとりあえずお終いとしておきましょう」
「とりあえず、なんですか?」
「ふふ、日を改めてね。伊達にタクミさん達より年を取っていませんから」
「お婆様の年齢が、何か関係あるんですか?」
表面上は落ち着いている様子のマリエッタさんは、笑って話を変えようとする。
とりあえず、と言うのは引っかかったけど……またどこかで蒸し返すつもりらしい。
いや、蒸し返すというより根掘り葉掘り聞こうとしているとか、そんな感じかもしれない。
「それだけ、色々な経験をしているという事よ、クレア。話を聞く機会も多いのもあるわね。女というものは、意外とそういう話を話題にする事が多いのよ」
「……そういった話を、お婆様にするのですか? 私は、女同士でも聞いた事がありませんけれど」
「クレアのように若ければね。年を取ると、下世話な話で盛り上がるのよね。楽しんでいる私も下世話と言えるのでしょうけど」
これを俺が聞いていていいのかはともかく、女性というのはそういう部分もある、と聞いた事がある。
大体は、引き取ってくれていた伯父さんと伯母さんの娘……要は俺の従姉弟なんだけど、その人から結構聞かされていた。
男からされる下ネタは避ける癖に、女性同士はそれ以上にエグイ下ネタで盛り上がるとかなんとか……まぁ、一部だけなんだろうと思って聞いていたけど。
ともかく、マリエッタさんやその友人? もその一部に属する人達なのかもしれない。
「貴族同士、それも当主の妻という立場ともなると、話題の矛先は自分達の旦那。それか子供達の話題になるのよね」
「えっと……旦那さんの愚痴とか、息子さんや娘さんの男女関係とか、そういう話って事でしょうか?」
「えぇ。まぁ愚痴はあまり外聞がよろしくないから、言いたがらない人が多いけれどね。でも、若い二人を前にして言うのもなんだけど、夜の……という部分に変えて愚痴を言ったり、称賛したりね」
恐ろしい……いや、俺が男だからそう思うのかもしれないけど。
ともかく、知らない所で女性同士でマリエッタさんが濁した、まぁ男女の夜の話を色々と言うわけだ。
しかも、マリエッタさんの様子を見る限り、結構な脚色を加えられている事もあるような気がする。
旦那への愚痴、妻への愚痴、というのは人間だからある事だろうと理解はしている……伯父さんや伯母さんからも、少しくらいは聞いた事があるし。
それはまぁある意味、日頃のストレスを溜め込まずに発散する手段で、だからと言って仲が悪いとかそういう事ではないんだろうけど。
ただ貴族の人達が、外聞を気にして言わない分を、夫婦生活の、男女の話に上乗せされているような気がして、それはそれは結構な内容が話されていると思われる。
……絶対、俺はその場にいないようにしようと、このとき心に誓った。
そういった場面に出くわす機会があるかはわからないが。
「まぁ、これまであまり関りがないのだから、今はクレア達が気にする必要はないわ」
「そ、そうですね……」
奥様方の集い、みたいなものだろうからまだ結婚すらしていないクレアには、早いんだろう。
クレアと結婚か……と考えて、ブワァっと頭の中で色んな想像というか妄想が広がりそうになったので、慌てて頭の隅へと追いやる。
今すぐの事じゃないし、ここで考えるのもな。
ただクレアも同じような感じなのか、落ち着いて来ていたはずなのに再び頬を赤くしていたりするのは……とりあえず見なかった事にした方が良さそうだ。
「……そういえば、このダンデリーオン茶ですけれど、タクミさんが作っているのですよね?」
「あ、はい」
いくつか、ゆったりとした時間が流れる中、奥様方の話は何処かへやって雑談をしている中、ふとマリエッタさんに尋ねられた。
セバスチャンさん曰く、どこかの国では栽培しているというか自然に群生しているところがあるらしいけど、この国というか公爵領内では栽培したり作ったりしているのは、ここだけ。
ギフトのおかげで俺が作っている物だけだな。
「そうですか……量産をするご予定はおありかしら?」
「今のところは、予定に入っていないですね。この屋敷と別邸で飲まれているくらいですし、薬ではありませんから」
薬草畑で優先されるのは、まず薬の材料となる薬草。
単体でそのままでも効果のある薬草も含めて、そちらの数を増やす事が目的だからな。
ダンデリーオン茶は細々と、好きな人が飲む程度に作ってはいるけど、数を増やす予定には入っていない。
地球ではコーヒーが薬とされていた時代もあったらしいが、ダンデリーオン茶はコーヒーではないし、そもそも薬じゃないから優先度は低いってわけだ。
「ふむ。できれば、私も普段のお茶としてこのダンデリーオン茶を頂きたいのですけれど……」
「それくらいなら融通できますよ。少し余るくらいに作っていますし、日持ちもしますから」
マリエッタさんは本当に、ダンデリーオン茶を気に入ってくれたみたいだな。
ダンデリーオン自体は何度も作っているからすぐにできるし、一つに対してそれなりの量のお茶にする事ができる……つまり、コスパがいいんだ。
例えば、一つのダンデリーオンの根からお茶を抽出したとして、俺が飲んでいる程ではなく、今マリエッタさんやクレアが飲んでいるくらいの濃さであれば、数リットルくらいになるみたいだ。
しかも乾燥させておけば長期保存もできる優れもの。
試しに初めて作ったダンデリーオンから取った根は、まだ保存できていて一切変化がない。
多分だけど、年単位で保存できるんじゃないだろうか。
コーヒー豆や茶葉もそうだけど、保存期間が長けれればそれだけ作り置きもできるわけで、余裕がある時に作ればいいからな――。
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