とんでもない勘違いをされていました
「そ、それじゃ私はこれで。あ、そうそう。クレア、男性との夜についても悩みがあれば、私やエルミーネに相談するのよ? 後タクミさんも、もしクレアに不満があるようなら……こちらは男性の事だから、私達にはわからない事も多いでしょう。ハルトやエルケには言っておくから、気負わず相談するのですよ?」
「お、お婆様……何を?」
「あー、えっと……」
クレアはまだわかっていない様子だけど、俺はなんとなくマリエッタさんの勘違いがわかってしまった。
なんだろう、止めようとされない分認められているとも考えられるけど、この間違いはそのままにしちゃいけない気がする。
「すみません、マリエッタさん。ちょっと待って下さい」
「え、な、何かしら? こんな老いぼれを呼び止めて……」
「いえ、マリエッタさんは十分若いと思いますけど、そうじゃなくて……その、言いにくいんですけど。多分、いえ間違いなく勘違いしています」
この場から足早に去ろうとするマリエッタさんを呼び止め、勘違いを正す。
部屋の前で抱き合っていた俺とクレア……使用人さん達、エッケンハルトさん達も、恥ずかしながらもう見慣れた光景ではあるけど、マリエッタさんは見るのが初めてだ。
そして、夜という時間、確実に風呂上りだとわかる髪が少しだけ濡れたままの俺。
お互いの部屋の前というのもあるだろうけど、マリエッタさんはこれから俺とクレアが一緒に……という勘違いをしたみたいだ。
話していると、間違いなかったようでクレアと一緒に顔から首あたりで真っ赤になって、平謝りされた。
まぁ、状況的に勘違いしてもおかしくないかもしれないけど……というか、好きな相手の祖母にそう勘違いされて、俺も恥ずかしいし同じく顔が熱くて真っ赤になっていたと思う。
ともあれ、マリエッタさんの誤解を解いた。
「もう、お婆様ったら……そりゃ、覚悟はできていますし、いつでもとは思っていますけど。タクミさんからでなければ、私からというのははしたない? でも、そうしないと……」
「クレア?」
「はっ! いえ、なんでもありません。ふ、ふふふふ!」
顔はまだ赤いままのクレアが、何やらごにょごにょと言っていたので、声をかけたけど首をブンブンと左右に振って、笑いながら誤魔化された。
なんだったんだろう? いつもと笑い方も違う気がするし、いつも以上に照れている……恥ずかしがっているような気もするけど。
「な、成る程、そうなのね。あなたたちはまだ……エルケは手が早かったし、ハルトもそうだと聞いていたからてっきり……」
「てっきり、なんですかマリエッタさん?」
こちらは、エッケンハルトさん達の知りたくない情報と共に、何を考えているのかわかってしまったので、ちょっとだけわざとらしく声をかける。
「はっ! いえいえ、なんでもないのですよ。おほ、おほほほほほ!」
ほぼクレアと同じような反応をして、笑って誤魔化すマリエッタさん。
血筋なのかな……。
「まぁともかく、ここでこのまま話しているのもなんですし……」
廊下で立ち話というのもな……というわけで、勘違いしたマリエッタさんと、その勘違いから照れや恥ずかしさやらが混在して顔を赤くしているクレアと一緒に移動。
俺かクレアの部屋で、と最初は考えたんだけど、俺の部屋にはレオとリーザがいて落ち着かないだろうし、夜クレアの部屋に入るのはなんだか気が引けたので、再び客間へ移動した。
まぁ、レオやリーザは言えばおとなしくしてくれると思うけど、気を遣わせるのも悪いからな。
一応ライラさん達に声をかけて、レオ達には部屋に戻るのが遅くなる事や、眠くなったら先に寝ていてもいいと伝えておいた。
常にライラさんばかりでも大変なので、日によって交代で、夜間の俺周辺の世話をしてくれる人は替わるんだけど、今日はアルフレットさんとゲルダさんがレオ達の相手をしてくれるようだ。
ライラさんは言伝をした後、休むみたいだな。
ゆっくり休んで欲しい。
「どうぞ、皆様」
「ありがとうございます」
「ありがとう、エルミーネ」
「頂くわね」
客間に移動してすぐ、どこでどう伝わっていたのか待機していたエルミーネさんが、俺達三人にお茶を出してくれる。
俺もそうだけど、気に入ったのかクレアやマリエッタさんもダンデリーオン茶だ。
味はコーヒーと似ているけど、カフェインがないので寝る前に飲んでも大丈夫か、という心配がないのはいいな。
あと、カフェインがない事で女性にもいい効果があったような気がするけど……なんだったかな?
「独特な味わいですが、なんでしょう……やはり、渋みが土の恵みを感じさせてくれますね」
「私は、少々癖のある苦みが面白いと思います。お婆様」
ダンデリーオン茶というか、タンポポ茶の事を考えている俺を余所に、一口飲んで微笑み合うマリエッタさんとクレア。
土の恵みを感じる渋みというのは、土っぽいという事かな……悪い意味ではなくいい意味としてだろう。
まぁ、コーヒー豆と違って根を使っているからな。
クレアの方は、苦みが好みに合ったのか……こちらは、豆や抽出の過程にもよるけど、本物のコーヒーでも好んで飲めそうだ。
俺はまぁ、カフェインが入っていないから実際にはあまり眠気覚ましの効果はないんだけど、濃く煮出した香りと苦みが好きかな。
余裕がある今とは全然違うんだけど、眠気覚ましに濃すぎるくらいのコーヒーを飲んでいた頃を思い出すんだよな……あまり良い思い出とは言えないが。
当然、濃いだけあってマリエッタさんの言う渋みも増していて、土どころか草っぽさも感じるんだけど、それもまた良しだ。
ちなみにダンデリーオンを作ってから、定期的に飲んでいるのでエルミーネさんも好みを把握しているらしく、俺の分はクレア達よりも色が濃い物を淹れてくれている。
「それでタクミさん、クレア。先程の様子を見るに、二人はまだと見受けられるわね?」
「ぐっ! ん……」
勘違いで慌てていたのから立ち戻ったマリエッタさんから、突っ込んだ事を聞かれる。
思わず、飲みかけのダンデリーオン茶が口から出そうになって、慌てて飲み込む……あぶないあぶない、こんなところで、しかもクレアやマリエッタさんの前で、吐き出すわけにはいかない。
だからエルミーネさん、いそいそとタオルとかの用意はしなくていいです――。
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