マリエッタさんに見られていました
「レオやフェリー達を借りたい、というのは、あの時と同じ事をしたいってわけだね、クレア?」
「はい。レオ様やフェリーに乗って、散歩をするのがいいかと。タクミさんの言葉を借りると、荒療治、ですね。ふふ」
「あー、まぁ荒療治というのは言葉の綾というか……」
笑うクレアに、頬をかきながら答える。
言葉としては荒療治と言っていたけど、本気で嫌がる人にはやる気はなかったからな。
ヴォルターさんのみ、セバスチャンさんの意向で半ば無理矢理になっていた部分はあるけど……むしろ、それがトラウマになってより悪化した気がしなくもないが。
「ともかく、それならちょうどいいかな。今考えていたんだけど、もしかしたらマリエッタさん以外にも、フェンリル達を苦手に思っている人がいるかもしれない」
「あまりそういった声は聞こえてきませんが、言いにくいというのもあるでしょうな」
「そうね」
村長のハンネスさんと、子供達、それに村の大半の人が受け入れているんだから、そういった少数の意見は言いづらい。
誰からも言われないからといって、フェンリルを怖がっている人がいないと判断するのは早計だ。
「強制ではないけど、希望者を募って一緒にフェンリル達に乗ってもらい、村の周辺を散策というのはいいかもしれないね。今でも、使用人さんが交代しながらやってくれているのを、村の人達が背中に乗ってもらうだけの事だし」
「ありがとうございます。それで、フェンリル達の事をわかってくれる人が増えて、お婆様も慣れてくれるといいんですけど」
「ははは、多分それは大丈夫だと思うよ。第一印象を引きずっているだけな気もするからね」
クレアに笑いかけて、フェンリル達に乗る体験会の話について、セバスチャンさんも交えて詰める。
とはいえ、やっている事はいつものフェンリル達の散歩と変わらないので、多くの事を決めるわけではないけど。
一応、子供がいる人はその子供と一緒に家族で参加できるようにするとか、そのくらいだな。
安全面に関しては、村から離れて魔物と遭遇したとしても、乗っているのはフェンリル達……そこらの魔物に負けるわけもないからな。
他にも、話を聞いていたレオやリーザが参加を主張、外を走りたいとか、面白そうだからだろう。
リーザはまぁ、デリアさんとの勉強があるからそちらを少し調整して参加だな。
ティルラちゃんは、ラーレに乗って参加したがったので空を飛んでもセバスチャンさんみたいに、気持ち悪くならない使用人さんを選別し、空から見守る役になった。
楽しそうに地上を走るフェンリルと村の人達を見て、ティルラちゃんがそっちに参加したくならないかが少し心配だけど……まぁ大丈夫だろう。
「これで、お婆様にもフェンリル達の駅馬の事を話せます」
と意気込んでいるクレア。
そういえばその話はまだマリエッタさんにはしていなかったっけ……まぁ反対される事はないだろうけど、恐怖心のあるフェンリルに協力してもらうとなると、多少は忌避感が出るかもしれないからな。
マリエッタさんの精神衛生上、慣れてくれてからの方が話しやすいとクレアは考えたのかもしれないな――。
「ん、と。それじゃ、お休みかな?」
あれこれ話した夕食とティータイムの後、ティルラちゃんやリーザと素振りをして、お風呂で汗を流し部屋に戻る前。
待っていたクレアと、いつものハグ。
「そうですね。今日もお疲れ様でした、タクミさん」
「うん、クレアも……って、ん?」
体を離し、それぞれの部屋に戻って後は就寝するだけ……俺は、レオやリーザの相手もしないといけないが。
それは、クレアもシェリーがいるから大きく変わらないか。
ともかく、お互いに練る前の挨拶をして部屋に戻ろうとした時、廊下の向こうからこちらを見ている目に気付いた。
目というか、角から顔を半分だけ出している人……あれが使用人さんだったら、使用人は見た! とかタイトルが付きそうだけど、生憎と出ている顔の持ち主は使用人さんじゃない。
「マ、マリエッタさん……?」
「え……? お婆様?!」
俺の言葉に、振り返ったクレアがマリエッタさんを発見、驚きの声を発する。
「ど、どうしてそんなところにいるのですか、お婆様!?」
「ご、ごめんなさいね、クレア。タクミさんも。いえ、邪魔をするつもりはなかったのだけれど……この時間なら、クレアもタクミさんも部屋にいる頃だと聞いて、話をしに来たのだけれど……」
「えーっと、つまり、偶然……?」
「え、えぇ。まさか、クレアとタクミさんがあんな事をしているなんて、思っても見なかったから……」
俺達に見つかり、バツが悪そうに出てきたマリエッタさんは、嘘を言っているようには見えない。
「お父様であれば、覗き見というのもあり得ましたけど……実際にタクミさんといる時に、何度かありましたし」
「そんな事をしていたのね、ハルト……」
それで、クレアに見つかって怒られていたからなぁ、エッケンハルトさん。
ただ覗き見されていたのは、エッケンハルトさんだけでなく使用人さん達にも、だが。
そういう事をしないと気が済まない人達の集まりなのだろうか? 疑った事もあったけど、大体は見られてもおかしくない場所でイチャついてしまう俺とクレアが悪いな、と思い直したりもした。
一部、確信犯で覗き見されていた事はあったが、大体エッケンハルトさんが関わっている。
「えっと、それで……俺とクレアに話しというのは?」
「あ、そうです。お婆様、こんな時間にどうされたのですか?」
「いえ、特にどうしても話をしなければ、という程の事でもないのだけれど……なんとなく、話したくなったのよ。本当、ごめんなさいね? 二人の仲を邪魔するつもりはないのよ?」
「ん……?」
世間話、というかまだちょっと話足りないとか、そういう事でマリエッタさんは来たのだろう。
けどなんとなく、マリエッタさんの様子を見ていると、ちょっとだけ噛み合っていないようなそんな雰囲気を感じる。
「まさか、クレアとタクミさんがそこまで進んでいるなんて。気付けなくてごめんなさい。若い人たちの邪魔をしちゃいけないわね……話は、また明日でいいから、私の事は気にせずゆっくりね?」
「えーっと……?」
話しているうちに、段々と焦り始めた様子のマリエッタさん。
やっぱり、何か勘違いしているような……? いや、ある意味勘違いじゃないのかもしれないが――。
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