ほんの少しだけ違和感を感じたようでした
「私は……いえ、多分ですけどお婆様は、これからの事に集中しろという事なんだと思います」
何かを言おうとして、言い換えたようなクレア。
誤魔化された気がするけど、隠し事というより少し言いにくい事があるのかもしれない。
気にはなるけど、なんとなく突っ込んで聞くのが躊躇われて、そうなんだとだけ頷いた。
他の皆が多くいる場所だし、あまり言いたくない事だってあるよな……俺に言いたくない、とかだとちょっとショックだけど。
ちなみに、先程の交渉で備蓄食糧の交換をマリエッタさんが主導して話していた事に関しては、本来当主のエッケンハルトさんがするべき事だったらしいけど、マリエッタさんが動かせる範囲での事だったので問題ないらしい。
領内の各所でもしもに備えて食糧を備蓄しているのは、領主として当然の事らしいが、ある程度それぞれでも保持しているんだとか。
それはマリエッタさんだけでなく、クレアもそうで、別邸で周辺の街や村に何かあった時に使う備蓄を持っていたと。
まぁ今後は、その役目はティルラちゃんに受け継がれるらしいし、クレアはランジ村周辺に移り変わるらしいけども。
領内全体を賄うための備蓄を当主のエッケンハルトさんが管理して、マリエッタさんやエルケリッヒさん、それからクレアはそれぞれ所在地周辺のための備蓄を多少管理している、といったところだろうか。
ただこれまで、不作や飢饉などがおこる事はほとんどなく、備蓄した食糧が役に立つ事は少なかったらしい。
公爵領だけでなく、この国全体で気候が安定していて豊かな土地が多いためだと、後でユートさんに教えてもらった。
それでも、魔物による被害などで必要になる事もあるため、備蓄する事は必要不可欠であり、領民を治める貴族にとっては義務なのだとか。
「そうだ、タクミさん。明日……じゃなくてもいいのですけど、あまり急がないので。ともかく、レオ様やフェリー達を借りてもいいですか?」
「ワフ?」
「レオやフェリーを? 借りるって、いったい何をするんだい?」
話は変わって、何かを思いついたらしいクレア。
レオは、ティルラちゃんの顔を舐めていた顔をこちらに向けて、首を傾げた。
フェリーも、他のフェンリル達と甘噛みし合ってじゃれていたのを止めて、耳を立てつつこちらを見る。
「いえその、お婆様の様子がちょっと気になりまして。レオ様とは、先程話していたので大丈夫だとは思いますが、まだフェンリル達を警戒しているのではないかと」
「そう、かな?」
特にそんな様子は、食事をしている時もそれ以外でもマリエッタさんからは感じられなかったけど。
「おそらく、タクミさんや……セバスチャン達も、わからないくらい微かな違和感だと思います。お父様やお爺様達は、気付いているとは思いますけど」
「クレアお嬢様の仰る通り、私は特に違和感のようなものは感じられませんでしたが、はて……?」
「成る程、血の繋がった家族だけがわかる違和感、みたいなものかな」
近しい人だけが感じる違和感、とかそういう事かもしれない。
俺は特にそんな様子は感じられなかったし……まぁ、今日会ったばかりだからな。
セバスチャンさんも、クレアの言う通り特に何も感じられなかったようで、首を傾げている。
「血の繋がったとか、大袈裟な事ではないと思いますが……そういう事かもしれません。本当に微々たる違和感で……ティルラはどうかしら?」
「ふぇ?」
レオに舐められて、べたべたになった顔を拭いていたティルラちゃんが、急に呼ばれて驚いていた。
後で、ちゃんと顔を洗った方が良さそうだなぁ。
「お婆様、話している時にほんの少し違和感というか、何か様子が違う気がしなかった?」
「あ、はい、そうですね。ちょっとだけ違う気がしました」
「ティルラちゃんもそう感じたんだ……」
一族の間だけに通じる何かがある、とかだろうか? まぁ、似ている部分があるから感じられる事も、あるのかもしれないな。
「ほんの少し……視線ではないですけれど、目の色が気になりました」
「目の色?」
まさか、黒い目が赤くなったとか、本当に色が変わったというわけではないだろうけど。
ちなみにマリエッタさんもそうだけど、クレアやエッケンハルトさん、エルケリッヒさんも、瞳の色は綺麗なエメラルドグリーンだ。
公爵家だからというわけではなく、他にも同じような瞳の色をした人はいるので、珍しい色というわけではないんだろう。
「お婆様が、フェンリル達の方に視線を向けた時に少しだけ、怯えたような目をした……気がするんです。それから、できるだけあちらを見ないように……」
あちら、と言ってフェンリル達がいる方を見るクレア。
そちらでは、フェリーだけでなく他の全てではないけどフェンリル達が集まっていて、食後の満腹感からか思い思いに過ごしているのが見えた。
「要は、マリエッタさんがフェンリル達に恐怖感を持っているって事?」
「おそらく、ですけれど」
「ふむ……まぁ、ランジ村に来た時の経緯を聞くと、怯えてしまうのも無理はないのかな?」
最初は子供達が襲われている、と見えたらしいからなぁ。
多くのフェンリルが集まっているのを見て、腰を抜かしたのもあるし……慣れなければ、怖がってしまうのも無理はないのかも。
ヴォルターさんみたいに、どうしてもフェンリル達への恐怖心を拭えない人だって、当然いるわけだし。
子供達のほとんどは、一緒に遊んでくれるのもあってか無邪気に受け入れて、怖がっている子はいないようだけども。
いや、最初は遠慮がちというか、近付こうとしない子供も少ないながらいたんだけどな。
ただその子達も、他の子達と遊んでいるのを見て、仲間に入って一緒に遊ぶうちに慣れたようだ。
となると、ランジ村でも受け入れられていると感じていたフェンリル達だけど、村の人達……一緒に遊んだりじゃれあったりする機会の少ない、大人達には怖がっている人もいるかもしれないな。
「レオ様やシェリー。それにフェリー達とも先に会い、ある程度慣れていた私達ですら、多くのフェンリルが集まっている光景を見ると、恐れる心が湧いてきましたからな。それも仕方ない事でしょう。もっとも、今ではタクミ様のおかげで慣れていますが」
「そういえばそうでしたね……」
セバスチャンさんの言葉に、そういえばと思い出す。
フェリーが多くのフェンリル達を連れてきた時、俺やレオはともかく、これまでの事で慣れていたはずの使用人さんや護衛さん達も、怖がっていたっけ。
あの時、直に慣れてくれると楽観的に見ながらも、何かしたような……? あぁ、そうか――。
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