エッケンハルトさん達が連れて行かれました
「食後のお茶がまだなのですが……せっかく酒が飲めるというのに」
話をするためこの場を離れようとするマリエッタさんに対し、渋るエッケンハルトさん。
でもエッケンハルトさん、それは食後に出て来る薬酒が飲みたいだけでしょう……まぁランジ村だから、ワインも出てきたりするけど。
お酒に関しては、ランジ村に到着後ハンネスさんや村の人達からの差し入れやら何やらで、夕食時か夕食後に限り皆に振る舞われるようになっている。
一部の人はそれ以外でも飲みたいと要望したが……主に、フィリップさんとエッケンハルトさんが。
昼間っからお酒を飲むのは、とセバスチャンさんやエルケリッヒさん、クレアからの反発もあり、夜だけとなった。
まぁ、飲もうとすればそれ以外でも飲めなくもないし、絶対ダメというわけではないんだけども。
自費で村の人達から買い取ったりとか。
ただ、クレアがお酒に酔ってしまうと色々と大変な事になるため、できるだけ自重するようになっていたりもする。
ユートさんだけは、こっそり買って飲んでいたりもするんだけど……一応、ギフトを使う力にもなるらしいので、こちらは強く止められない。
止められるとしたらルグレッタさんくらいだけど、今ならマリエッタさんもかな? ともかく、それでもギフトを出されたら、持っていない人にはわからない事が多過ぎてどうにもできないとか。
ユートさん以外にギフトを持っているといえば、俺とティルラちゃんだけど……ティルラちゃんには難しいだろうし、俺はまぁ常識的な範囲というか酔って暴れるとかでなければ、と考えている。
なので、実質止める人がいない状態だ。
……問題が起こらなければ、目くじらを立てるような事でもないからな、ユートさんは自由でやらなければいけない仕事とかもないわけだし。
エッケンハルトさんが羨ましそうにしているから、誘い込まれないかが心配だけど、そこはセバスチャンさんに見張っていてもらおう。
「そちらも公爵家としては重要ですが、今日くらいは問題ないでしょう。今はそれよりもブレイユ村に関してです」
食後のティータイム、公爵家では初代当主様……つまりジョセフィーヌさんの決めた事の中に、食後はゆっくりお茶を飲む時間を設けるとあるらしい。
他にも、人の出入りに際して声を揃えて送り迎えをする、というのもあるらしいけど。
それはともかく、朝食でも昼食でも夕食でも、食後は慌てずゆっくり落ち着いて過ごす事が重要とされ、公爵家の人達が代々守っているしきたりのようになっているんだとか。
ともあれ、絶対そうしなければいけないという程でもないらしいから、今回のようにマリエッタさんは一度くらいは問題ない、という主張みたいだな。
「それはそうだが……はぁ、仕方ない。こうなったらマリエッタは止まらないからな。ハルト、行くぞ?」
「うぅ、せっかくの酒が……」
溜め息を一つ、エルケリッヒさんが渋々ながら立ち上がり、エッケンハルトさんを引っ張る。
夫婦だけあって、マリエッタさんの事をよく知っているんだろうな。
「ではタクミさん、クレア。それから皆さんも、申し訳ありませんが私達はこれで離れます。こちらの事は気にせず、会食をお楽しみ下さいね」
「あ、はい」
「わかりました、お婆様」
俺やクレアだけでなく、テーブルについている皆に対して足を引いて礼をするマリエッタさん。
その綺麗な所作に圧倒され、俺だけでなく他の皆もただ頷くだけだった。
クレアとか、慣れている人は圧倒はされていなかったようだけど。
「あ、そうそう。こちらでの話がまとまり次第、カナートにも相談させてもらいます」
「は、はい! か、畏まりました!」
屋敷の中に戻ろうとする途中、思い出したように振り返ったマリエッタさん。
交渉の途中から、緊張がほぐれていたように見えたカナートさんだけど、さすがに急に声を掛けられて驚いたのか、体を硬直させてコクコクと頷いていた。
「ふふ、あなたや村の不利益になるような事はしませんので、そこまで緊張なさらなくても結構ですよ」
と微笑みかけて、今度こそ屋敷の中へと入って行ったマリエッタさん。
エッケンハルトさんの背中を、何度か叩いていたようにも見えるけど、多分お酒への未練で渋っていたからだろうな……。
「……はぁ、怒涛の勢いって感じだったなぁ」
嵐のよう、とまではいわないがマリエッタさんの独壇場のようになっていた。
従業員さんや使用人さん達は、それぞれ思い思いに雑談を続けてはいるけど、それでもマリエッタさんがいなくなって静かになった気がして、思わず息を吐く。
「申し訳ありません、タクミさん。お婆様が……」
「あぁいやいや、悪いとかそういう気はしていないから大丈夫だよ。勉強にもなったからね。クレアもそうだったんじゃない?」
謝るクレアと、その後ろでセバスチャンさんも頭を下げているのに、首を振る。
マリエッタさんの勢いに気圧される事はあったけど、嫌な気分じゃないからな。
「そうですね……まだ私は、交渉事の経験があまりありませんから。お婆様の様子は、とても参考になります。とはいえ、すぐに真似ができるとは思えませんし、いつも使えるものでもありませんけれど」
「ははは、確かにね。限定的に使えるくらいかな? まぁ、交渉ってそういうものだから」
俺自身も経験はほとんどないので、偉そうな事は言えないが……交渉はその時その時でこちらも相手側も状況が違うからな。
その時の状況を考えて判断して、できるだけ良い条件を引き出せるように頑張るしかない。
エッケンハルトさんも言っていたけど、マリエッタさんのように勝てるとわかっている状況でしか出ない、というわけでなければ、百戦錬磨なんてほとんどあり得ないからなぁ。
あくまで、対等な関係として交渉をすれば、だけども。
「そういえば、マリエッタさんは重要な話みたいにエッケンハルトさん達を連れて行ったけど、クレアはいかなくていいのかな?」
食後のティータイム中、ふと疑問に思った事を口に出す。
テーブルには、皆それぞれにワインやジュース、ダンデリーオン茶等々が出されていて、希望者がそれぞれ好みの飲み物を飲んでいる。
ティルラちゃんやリーザなどの子供達は、さっさと飲み終わってレオやフェンリル達とじゃれ合っているけど――。
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