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1581/1997

マリエッタさんはニャックを仕入れたいようでした



「大袈裟ではありませんよ。カナートも、ブレイユ村の者も喜んでいるという話を聞きましたし……タクミさんのおかげです。――そうよね?」

「え、あ、は、はい! そ、その通りでございます!」


 急にクレアから話を振られたカナートさんが、一瞬戸惑った後、体を硬直させながら肯定する。

 ニャックの話題だし、なんとはなしに聞いていたんだろうけど……いきなり注目されたらびっくりするのも当然だ。

 クレアもそうだけど、俺達の近くにはマリエッタさんとかエッケンハルトさん達もいるんだから。

 まぁ、話は聞いていたけど、カナートさんの関心はニャックを求める奥様方へと向かっていたから、油断していた部分もあったみたいだけど。


 デリアさんと顔を見合わせつつ、ブレイユ村で作ったニャックがここまで人気になっているのを、不思議そうに見ていた。

 カナートさん達にとっては馴染み深く、そこまで求められる物だとは思っていなかったからだろう。

 元がただの非常食だからなぁ。


「そう、タクミさんが。そのニャック、ここで作っているの?」

「いえ、ニャックの原料はここでは作っていないので、別の村です。ブレイユ村という、ラクトス近くにある村ですね。そこで……」


 フンス! とばかりに鼻息の荒いクレアはちょっとだけ置いておいて……マリエッタさんにニャックに関する話をする。

 時折カナートさんに確認を取りつつ、生産量なども気にしていたのは、元公爵家当主様の奥さんだからだろうか。


「ニャックの原料が芋……他の村で作っている芋では、できないのかしら?」

「いえ、そういった話は……少しだけ他とは違う芋を、私どもの村では栽培しておりまして」

「なら、その芋からしか作れないと考えられるわね。少し確かめる必要があるけど……あなた!」

「は、はい!? あ、む……ど、どうしたのだ、マリエッタ」


 いくつかカナートさんと話しをして、思案顔になりつつエルケリッヒさんを呼ぶマリエッタさん。

 完全に油断して、ダンデリーオン茶を啜っていたエルケリッヒさんは、鋭い呼びかけだったせいかまた怒られると思ったんだろう、反射的に返事をした後、すぐに気づいて言い直していた。

 俺達と話したり、怒っている時はユートさんと同じくエルケと呼んでいたけど、普段本人を呼ぶ時はあなたと呼ぶのか。

 俺もいつか、クレアに……なんて、そんな妄想をしそうになったので、すぐに振り払っておく。


「ニャックの効果があるとすれば、もっと広く食べられるべきだと思うわ」

「ま、まぁそうだな。効果の程は、クレアやその使用人達が実感しているようだが」

「えぇそうね。だからこれは、私達の所にも是非持って帰るのがいいと思うのよ」

「う、うむ……それはそうなのだが……」


 エルケリッヒさんに言い募るマリエッタさん、要はここだけでなく自分達が住んでいる場所でも食べたい、という事だろうか。

 ただなんだか歯切れの悪いエルケリッヒさん。

 まぁ、エルケリッヒさんとしてはあまりダイエットには興味がないだろうからなぁ……一応、カナートさんを交えた、この屋敷と別邸、それから本邸に卸すニャックの量の調整の話し合いには参加していたみたいだけども。

 ただ、キースさんからの報告で、本邸と別邸に卸す量はそこまで多くないと聞いている。


 特にニャックを食べたがる人が多く、常に消費されているこの屋敷やランジ村に、多くを卸すという話でまとまったんだとか。

 本邸はともかく、別邸にいる使用人さん達もニャックを食べた事がある人がほとんどだが、人数はこちらより少ないため、少なくなった。

 ティルラちゃんは剣の鍛錬をしているし、わざわざ食べ物でダイエットの効果を欲しがるわけでもないからな。

 本邸はまだ食べた事がない人がほどんどなため、一番少ない。


 ちなみに、エルケリッヒさんはティルラちゃんと一緒にラクトスのスラムへ対処する、と本人が決めているため、話し合いはティルラちゃん側だったらしい。

 ただこちらもエルケリッヒさんが、ダイエットにあまり興味がないため数を増やす方向ではなかった、と聞いている。

 多分マリエッタさんに答えるエルケリッヒさんの歯切れが悪いのは、決まった事なのと別邸に行く事をまだ話していないからだろう。

 ブレイユ村でのニャック生産量には当然限りがあるため、ここでマリエッタさん達の住む所に卸す、というのも無理があるからという理由もあるかもしれないが。


「ブレイユ村でのニャックは、どれくらい作られるのかしら? それと、どれくらいの数を分配……いえ、ここで食べられていてクレア達もよく知っているという事なら、別邸やここでも購入している事よね?」

「……マリエッタ、言いにくいのだが、既に作られているニャックの出荷できる物は、既に行き先が決まっているのだ。このうえ、さらに増やす事は難しい」


 あれこれ考えているマリエッタさんを止めるためか、意を決して言うエルケリッヒさん。

 俺達の他にも、ラクトスでもそれなりに売れているらしく、そちらに出荷するのもあるから、さらに量を増やすのは確かに難しいだろうなぁ。


「それはつまり、私達の所には回って来ないという事かしら?」

「そういう事になるな」

「……こればっかりは、後から知った事で機を失ったと言えるわね。悔しいけれど、仕方ないわ」


 おや、マリエッタさんが意外とすんなり納得した。

 食い下がるとまでは言わなくとも、何かエルケリッヒさんに言うと思っていたけど。

 いや、エルケリッヒさん達に向けていた怒りを見た、そのイメージに引きずられているからかもしれないが。


「あなたが、私も一緒に連れて来ていればもっと早く交渉できたのに」

「いや……まぁ、そうかもしれんが……先に目を付けていたのは、クレアとタクミ殿だ。そもそもニャックは、ブレイユ村の非常食として作られていた物で、生産量が少ない。そうだな、タクミ殿」

「え、あ、はい。そうみたいですね」


 俺ではなく、カナートさんに聞けばいいのに、と思ったけどとりあえず頷いておく。

 カナートさんも、隣に座っているクレアも同じく頷いた。

 売れるようなら、増産というか芋の方を多く栽培する、というような話をブレイユ村の村長さんがしていたような、していなかったような……というくらいだけど、ともかく元々が非常食だ。


 村一番の収入源というわけではないから、芋の収穫量は多くなく、ニャックを増産するにしてもすぐにとはいかない。

 もしもに備えて、出荷する分以外にも村での備蓄とする物くらいは、あるだろうけど――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
[良い点] 醤油や味噌も入手しやすくなってきたんだから、刺身ニャックや田楽を提示すれば、酒の当てにもいいだろうにタクミさんよーー。 栽培地拡大してくれるかもしれんぞ。
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