ニャックはよく食べられているようでした
「私事過ぎて恐縮なのですが、実は……」
ルグレッタさん曰く、ここ最近というかこの屋敷に来てからの食事が美味しかったらしく、食べ過ぎてしまっていたらしい。
しかもこの屋敷内では、外を動き回る事も少なく、鍛錬はやるにしても運動量が少ないと。
そのため、まぁ俺が言うのもなんだけど……普段以上に食べて、普段よりも運動が減るとどうなるかは、簡単な話で体重が増えたのだとか。
実は脂肪より重い筋力が付いたから、という事ではない。
その事でちょっとだけ悩んでいたルグレッタさん、ユートさんからお肉ばかりではなく他の物も……特にニャックを食べれば、少しは改善するんじゃ? と勧められた。
だけどルグレッタさんはニャックが苦手。
それならば、女性にとってニャックがどれだけ有益かを広め、ルグレッタさんが食べざるを得ない状況にしてしまえ、というのがユートさんの言い分。
マリエッタさんに勧めたのは、そうして外堀を埋めようとしたタイミングで、偶然屋敷に来訪したからというだけらしいが。
「う、うぅ……こんな、自らの自制不足を、皆様の前で言う事になるとは……」
なんて、全てを話した後に落ち込んでしまうルグレッタさん。
とりあえず、ユートさんには反省の意味も込めて、ルグレッタさんを慰める役目に任命した。
というか、マリエッタさんを含め、女性のきつい目が向いたのでそうせざるを得なかった、という方が正しいか。
おそらくユートさんなりに、ルグレッタさんの悩みに向き合ってみたのかもしれないが、ちぐはぐというか、雑で浅い外堀の埋め方をしたのが悪い、多分。
ユートさん本人は、そんな目で見られて喜んでいたけど、さすがにそれは表にあまり出さなかった。
とりあえず、こういったデリケートな話は、皆の前でする事ではないとユートさんを見て、俺も気を付けようと肝に銘じておく。
エッケンハルトさんやエルケリッヒさんは、何故かユートさんから視線を逸らして、親子らしくこめかみから汗を流していたりもした。
もしかしたら、思い当たる節というか二人共似たようなデリカシーのない事、言動をした覚えがあるのかもな。
「ルグレッタは、ちょっとくらいお肉を付けた方がいいと、僕は思うよ?」
なんて慰め方をするんだユートさん。
確かに、男性の思う理想的な細身の女性と、女性の思う理想的な細身では、かなりの違いがある事は明白なのだけど。
お肉を付けるなんて、気にしている女性に言ったら駄目に決まっている……それくらいは、女性の機微に詳しくない俺でもわかるっていうのに。
案の定、ルグレッタさんはさらに落ち込み、奥様方のみならず、庭にいる女性陣からの目線がきつくなっていた。
レオや、フェンリルの一部もジト目で見ている……そっちも気にするのね。
「……ユート閣下の事は置いておきましょう。それでタクミさん、ニャックの事ですが本当ですか?」
「ははは……まぁ、ユートさんの言う事は一部大袈裟なので、真剣に受け止めなくてもいいと思います。ですけど、ダイエット、つまり痩せるというか痩せやすくなる効果はあるはずですよ」
脂肪燃焼効果があるとかじゃないけども。
「お婆様、タクミさんの前で話すのは少々恥ずかしくもありますが……私も、使用人達の間でも効果があると評判になっていますよ」
え、そうなの?
確かに、ダイエットに関して女性使用人さん達が興味津々だったりするのは知っているけど、効果出ていたんだ。
そういえば、お通じがとかそれらしい事をなんとなく聞いた覚えがある気がする。
けど、実感できるほどの効果がもう出ていたとは。
……肉メインの食事が多いから、これまで不足していた食物繊維が取れたから、実感しやすいのかもしれないな。
サラダとかで野菜類はよく出て来るけど、やっぱり量としては控えめで、肉類かパン、パスタがメインだし多めだから。
エッケンハルトさんが好きそうだから、そういう方針かもと考えた事はあるけど、ラクトスの屋台などでも肉類を扱ったものが多いから、全体的にそうなんだろう。
オークやアウズフムラ等々、魔物のお肉が多いからかもな。
「クレアがそういうのなら、そうなのでしょうね。他の使用人達も、頷いているわ」
「はい、マリエッタ様。私もそうですが、他の使用人達……特に女性達の間では、使用人のみならず護衛兵の方々もこぞってニャックを食べるようになっています」
「そこまでなのね……」
視線を向けられたライラさんが、クレアの言った事を証明するように頷く。
それを受けて、ちらりと視線を従業員の奥様方へと向けるマリエッタさん。
ちょっとだけ、羨ましそうに見ているのは気のせいだろうか……?
というか、使用人さんだけじゃなく護衛さん達もこぞってって、そこまでなのか。
ラクトスでカナートさんからニャックを買った後、ブレイユ村からも仕入れていたのに、残りがあまり多くないとヘレーナさんから聞いた事があるくらいだから、本当なんだろう。
確かに、ニャックに関してはほぼ毎食何かしらの形で、料理の具材の一つとして出て来ていたけど。
もしかすると、女性陣のリクエストなのかもしれないな。
俺が考えた、タピオカならぬニャックドリンクは不評で、あまり使われなかったって言うのに……悔しくなんてないぞ、うん。
なんて事を考えていると、食事を終えたクレアが立ち上がる。
少しだけ誇らしそうにして胸を逸らしているけど、何かあったかな?
「そのニャックを見出したのは、タクミさんなんですよ、お婆様! タクミさんが、ニャックをもたらして下さったのです」
「え、あー……そうとも言う、のかな? ちょっと大袈裟な気もするけど」
何を言うのかと思えば、ニャックを俺が見つけたと言いたかったらしい。
確かに、ニャック……というかこんにゃくをダイエット食品として話したのは俺だけど、ラクトスにあるかもしれないから探してみよう、というのはユートさんから聞いた事だ。
そもそも、俺が見出さなくてもカナートさんはラクトスに来て売っていたわけだし、ブレイユ村で作っていた物だからな。
ただ、俺の事を誇らしげに言うクレアは……なんというか、可愛らしく見えて強く否定できなかった。
これが惚れた弱みというやつか? 違うか――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。







