ニャックを求める声が増えました
「お味噌汁が気に入ったんですか?」
「えぇ、少々濃く感じますが……なんと言いますか、体に染み渡るような、そんな優しい味ですね。濁ったスープというのも珍しいですね」
マリエッタさんに聞いてみると、そういう答えが返ってきた。
コンソメスープのような、色も味も澄んでいるというわけではなく、どちらかというと主張が強い味のような気がする、そんなお味噌汁……味噌の味を気に入ってくれたのは、日本人として少し嬉しい。
塩分で言うと、コンソメの方が少し多いから優しい味、という表現になったのかもしれないが。
「いやいや、マリエッタちゃ……マリエッタ。そうじゃなくてね? 確かにお味噌汁も美味しいんだけど、女性にはニャックの方がいいと思うよ?」
なぜそこまでニャックを売り込もうとするのかわからないけど、とにかくニャックを勧めたい様子のユートさん。
もしかすると、ルグレッタさんが少しニャックが苦手、と言っていたからかもしれない。
なんでも、味が薄く独特な食感が苦手みたいだ……というより、食卓を一緒にしてから見た限りでは、基本的に肉系の料理ばかり食べている気がする。
野菜類にはあまり手が伸びていないから、偏食なのかもな。
それでもパッと見スタイルが良く見えるのは、運動をしているからかもしれない。
まぁ、ずっとルグレッタさんを見ていたわけじゃないから、知らない所で野菜類も食べているのかもしれないが。
「……何やら妙に押されている気がしますが……そのニャックが、何故女性にはいいのですか?」
「ふっふっふ、それはね……」
ユートさんの不自然とも言えるニャック推しに、ジト目で返しながらも一応聞くマリエッタさん。
何故か得意げに胸を逸らして、ニャックの事を話し始める。
内容は大体、俺がクレア達にも話した事のある、ダイエットに向いている食材というのだ。
食物繊維豊富でお通じが良くなり、カロリーが低くお腹にも溜まるので、食べ過ぎて太る事が少なくなる等々だ。
ただまぁ、お通じ云々の部分は皆食事中なため、ルグレッタさんの肘鉄で詳細な説明を止められていたけど……マリエッタさんの時とは違い、物理に訴えているのもあってか、肘鉄を受けたユートさんは嬉しそうだった。
……これはどうでもいいか。
「つまり、ニャックを食べ続けていると、簡単に痩せる事ができるんだ!」
「な、なんですって……!!」
ユートさんの結論に、大袈裟な驚きを発するマリエッタさん……意外とノリがいいんだな。
「簡単に、とユートさんは言っていますけど……食べ続ける、それだけで痩せるわけではありませんからね? ニャックと一緒に、他の物を多く食べてしまえば当然効果は薄くなります。補助程度に考えてもらった方がいいかと」
一応、フォローするように付け加えておく。
ニャック……つまりこんにゃくを食べ続けるだけで、簡単に痩せるのならこんにゃく好きは、全員細身になるからな。
それに、食べるだけで痩せるなんて、そんな怪しいサプリみたいな事があるわけない。
あくまで、食べた時に体内の働きで余分な物が排出されるとか、お腹が膨れる分余計なカロリーを摂取しなくて済むとかで、結果的に痩せやすくなるというくらいのものだ。
怪しい飲料やサプリなどに興味を持ってしまったら、いったん落ち着いて、何故痩せられるのか、その効果は本当に得られて、それが自分に適しているのか、などを考えるといいかもしれない。
全てが嘘というわけではないだろうが、大袈裟に効果を喧伝している物もあるので、衝動的にではなくよく考えてみる事が重要だ、と思う。
それはともかく、今まさに衝動的に飛びつこうとしている人がいるんだが……。
いや、人達というべきか。
「ほ、本当にそれだけで痩せられるんですか!?」
「旦那が、最近太ったって言ってきまして……痩せられるのなら、いくらでも食べます!」
「不思議な食感と見た目だと思っていましたが、そのような効果が……! んぐ、んぐ!」
訂正、飛びつこうとしているではなく、既に飛びついている人もいた。
ほとんどが従業員さんやその奥様方だ……ウラさんもいるな。
どの世界でも、痩せたいというのは女性の願いなのか、とちょっとだけ諦観の念が湧いた。
「えーと、さっきも言ったように、ニャックだけですぐに痩せられるわけではありませんからね? 食べないよりは食べた方がいいとは思いますけど、食べ過ぎてはいけません」
豊富な食物繊維も、摂取し過ぎれば害になる。
特にニャックに含まれる、水溶性食物繊維は人間の消化酵素で消化できないから、お腹を壊してしまう事だってあるから。
行き過ぎた人は、それすら体重を減らす手段として考えているみたいだけど、体に悪いので絶対にお勧めはできない。
「成る程、ユート閣下はこれが見たかったのですね?」
さっき大袈裟に驚いて見せたマリエッタさんだけど、落ち着いた雰囲気に戻って問いかけた。
ダイエットの部分は、あまりマリエッタさんに響かなかったのかもしれない。
あ、いや違うな……表面に出さないようにしているだけか。
テーブルの上で組まれている両手は、かすかに震えているようで、組んでその震えを押さえているみたいだ。
他の奥様方のように、ニャックへと手を伸ばそうとする衝動を抑えているのかもしれない。
「いやーさすがに僕も、そんなに悪趣味じゃないよ? 実はルグレッタがね……」
頬を掻きながら苦笑するユートさん。
特殊な趣味をお持ちであるさすがのユートさんも、奥様方がニャックに群がる様子を見て楽しみたいわけではないみたいだ。
その奥様方は、ニャックのおかわりをお願いしている様子だけど、暴徒というか衝動任せにならずに一応体裁は整えようとしているのが見えるのは、近くに旦那さん達が苦笑しているからか。
はたまた、エッケンハルトさん達公爵家の方々がいるからか……何やら、誤魔化すようにウラさんを始めとした数人が「おほほほほ」なんて口元を手で隠して笑っていたりするけど。
「くっ……! 閣下に言われるのなら、そこからは私が……!」
「ルグレッタが、どうかしたのかしら?」
奥様方はともかく、ユートさんが話そうとするのを歯噛みをしたルグレッタさん。
マリエッタさんが興味深そうに問いかけると、話し始めた――。
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