庭の様子を見てみました
「エルケは元とはいえ公爵家の当主だったんだ! もっと皆の見本にならなきゃいけないだろうが! それを、興味から私を置いて一人で来るなんてどういう了見なんだい!!」
「いや、決して興味からというだけではないのだが……それに、一人ではなくちゃんと護衛も連れていたぞ?」
「護衛がいるからなんだってんだい! あんたの口答えは聞いちゃいないんだよ!」
「そ、それはあまりにも理不尽ではないか……?」
土の地面に正座するエルケリッヒさんの言う通り、あまりにもな物言いをするマリエッタさん。
了見を聞いておいて、口答えを聞かないなんて……それだけ、怒っているという事ではあるんだろうけども。
「相変わらず、離れて見ているだけでも恐怖が湧き上がりますな」
「そうね……」
「フェンリル達も、驚きからだろうけど近付こうとしていないし……」
「ワフ……」
屋敷から出て、庭に植えられた木に隠れながらマリエッタさん達の様子を窺う俺達。
まぁレオの体が大きくて隠れ切れていないんだけど、それはともかく。
木から顔を出しているのは、上からレオ、セバスチャンさん、俺、クレアの順だ。
中腰なのでちょっと体勢的に辛い。
リーザは尻尾を丸め、テオ君とオーリエちゃんはそんなリーザと一緒に、屋敷から出て来なかった。
よっぽど怒っているマリエッタさんが怖かったんだろう。
見れば、並んで正座させられているエルケリッヒさんとエッケンハルトさん達とは別に、フェリーなどのフェンリル達は、尻尾を垂らしてマリエッタさんから距離を取るようにしていた。
迫力に押されたのか、怒号に怯えたのか……あ、シェリーがフェンの背中で伏せて頭に前足を乗せているな、耳を塞いでいるつもりなんだろう。
フェンは、シェリーが頼ってくれたことが嬉しいのか他のフェンリル達と違い尻尾を振っていて、隣にいるリルルが溜め息を吐いているように見えた。
まぁフェンにとってはエッケンハルトさん達が怒られている事よりも、娘のシェリーの方が大事だよな。
「ん……ラーレも避難しているみたいだ」
「ですな」
「ワフ、ワフワフ」
「あぁ、コッカー達も一緒か」
空では、村の方に飛んで行くラーレが見えた。
遠かったから俺にはわからなかったけど、レオによるとコッカー達を乗せて避難しているらしい……よく見えたな、ラーレがかなり小さく見えるくらい離れているのに。
「ティルラちゃんは、巻き込まれたのは最初だけみたいだね」
「そうですね。ちゃんとフェンリル達と一緒にいて、少し安心しました」
「大奥様は、クレアお嬢様やティルラお嬢様には加減しますが、大旦那さまや旦那さまには容赦がありませんからな。あれに巻き込まれると、大変です」
最初、エルケリッヒさん達と一緒にいたためか、マリエッタさんの襲来に悲鳴のような声が出入り口にいた俺達まで届いたティルラちゃんだけど、フェリ―達に身を寄せていたのを見て少し安心した。
さすがに、ティルラちゃんはマリエッタさんに怒られる対象ではなかったようだ。
まぁ、何も悪い事はしていないからな、当然か。
その他、ガラグリオさん達従業員さんや、カナートさん達もいたけど、こちらは使用人さん達と一緒に俺達の近くに避難して来ていた。
あ、デリアさんがリーザと同じく、尻尾を丸めて震えている……魔物相手でも恐れず立ち向かう人なのに、それだけマリエッタさんの迫力が凄かったんだろう。
もしかしなくても、俺達は出入り口にいてマリエッタさんが怒号を発する時の形相を見ていないから、大分助かっているのかもしれない。
デリアさん達、庭にいる人達は全員出てきたマリエッタさんに注目しただろうし、怒る瞬間も見ただろうからなぁ。
「ハルト! お前はエルケの行動を止める立場だろうが!! どうして一緒になってここにいる!!」
「母上、お言葉ではございますが……」
「黙れ! お前の反論なんてどうでもいい!!」
「えぇ……」
庭の様子を窺っているうちに、マリエッタさんの標的はエルケリッヒさんから、エッケンハルトさんに移ったようだ。
ちょっとだけホッとした様子が、離れていても見えるエルケリッヒさんとは違い、エッケンハルトさんの方でも理不尽に詰め寄られていた。
多分、二人に反省させるとかよりも、溜め込んでいたのを爆発させているんだろうなぁと思う。
「結構、長くなりそうですか?」
「これまでと同じであれば、大奥様がお怒りになった時は勢いに任せて言い募り、長引かないうちに落ち着く事が多かったかと。一時間以上続いた事もないわけではありませんが、極稀にですな」
だとしたら、マリエッタさんにとってのストレス解消みたいなものなのかもしれないな。
なんの相談もされず、エルケリッヒさんに置いて行かれてたわけだから、言いたい事などは色々あるだろうし、長引かないようならエッケンハルトさん達は甘んじて受けるしかないか。
というか、止めようにも止められない勢いどころか、怖くて割って入れないし。
「私が生まれてから、少し丸くなったと聞いた事があります。話に聞いただけですが、長引いたのは確か……お父様がお母様に会った時の事だったと。烈火の如くとか、雷が落ちたようだとも聞かされました」
クレアの母親という事は、初対面でプロポーズしたらしいというあれか。
その頃はまだエルケリッヒさんが当主で、マリエッタさんは公爵夫人だったわけで……現役だったから、さぞ凄まじかったんだろう。
こちらからはマリエッタさんの背中しか見えないが、その背中に仁王が付いているように見えるくらい、怒りの雰囲気が伝わってくる。
いやまぁ、実際にいるわけではなく、ただの錯覚なんだろうけど。
あれでもまだ丸くなった方だ、というのはちょっと想像しづらいな。
「あの時は、人の怒りというものは際限がないのかもしれない、と思わされた程です……」
中腰になっている俺の頭上から、マリエッタさん達の様子を見ているセバスチャンさんの方から、諦観の念のようなものが感じられる……。
実際に見た事のあるセバスチャンさんからすると、あまり思い出したくない事なのかもしれないな。
それはともかく、そんなに長くならないのなら、しばらく見守るか放っておくしかないかな……。
「あ……」
そう考えたところで、ふと思い出して声が漏れた。
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