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1573/1997

エッケンハルトさん達の所に行きました



「……はい。私は幸い、タクミさんの人柄に惹かれましたが、そうではない人もいるというのは忘れません。……アンネとか」


 隣にいた俺には聞こえたけど、マリエッタさんに聞こえないくらいの声で、ボソッと付け加えるクレア。

 そういえば、次期伯爵……じゃなかった、次期子爵家当主でリーベルト公爵領の隣を治める事が内定している、縦ロールのアンネさんことアンネリーゼ・バースラーさん。

 あの人も最初会った時は、レオがいる事もあって自分と結婚してバースラー家を盛り立てる! と迫ってきたっけ。

 俺が『雑草栽培』のギフトを持っていると知ると、はっきりと結婚の申し出は断ったから直接ではないにしろ、時々俺を獲物を見る目で見ていたような気がしなくもなかったし。


 そうか、レオの事だけに限らず、俺にはギフトがあるからその利用価値を考えれば、恋愛感情が一切なくても結婚してでもと考える人は多くいておかしくないのか。

 この世界に来た直後はあまり想像できなかったけど、生活の基盤になってくれたし、薬草畑という多くの人が関わって、多くの人を助けられる可能性にもつながったくらいだからな。

 俺自身の魅力で、というわけじゃないのが切ないが……そこはクレアが好きでいてくれるだけで十分か。


「一つと言っておきながら、ついつい長くなってしまいました……年を取ると色々言いたくなっていけませんね」


 雰囲気を和らげて苦笑するマリエッタさん。

 亀の甲より年の功、という言葉があるくらいだし、俺では計り知れないくらい様々な経験をしてきたマリエッタさんの言葉だ、ありがたく受け取っておこう。

 クレアも俺と同じ気持ちらしく、表情を引き締めて頷いていた。


「タクミさん、孫娘のクレアの事、よろしくお願いしますね。もしクレアに不満があれば、すぐ私に。クレアに言ってもどうしようもない事ならば、別の女性を探してきます」


 再び、冗談めかして俺に言うマリエッタさん。

 別の女性を紹介される気はないんだけど……。


「また、お婆様ったら……お婆様に言われる、つまり注意されると考えるだけで身が縮む気がします。冗談とも本気ともつかないからかいは、そのくらいにして下さい」

「さて、本当にからかいかしら? そういえば、領地はここから遠いけど、男爵家に良さそうな女性がいたかしらね? あぁでも、少し年齢が……姉妹だったはずだから、上か下か、タクミさんに選んでもらうのも面白そうね……?」

「お、お婆様……?」


 なんて、しばらくマリエッタさんがクレアをからかったりした。

 上品な貴族の奥様という見た目や雰囲気なのに、こういったからからかいに関しては息子のエッケンハルトさんに似ているんだなぁ、と苦笑しながらその様子を眺める俺。

 女性を紹介という冗談の中で、時折本気のニュアンスが混じっているように聞こえるところが、エッケンハルトさん以上に怖いけど。

 ほんの少しだけ、お見合いとか男女の仲を取り持つのが趣味な、日本でいた近所のおばちゃん的なのも感じたけど……ある意味、親しみやすい感じがして良かったのかもしれない。



「成る程、庭ですか……ここにエルケとハルトが?」

「はい、大奥様。この屋敷の庭では、フェンリルやティルラお嬢様の従魔である、カッパーイーグルのラーレに、コカトリス達が自由に過ごされています」


 客間での話を終え、消耗した様子のクレアと共にマリエッタさんの本題、エルケリッヒさんの所へと一緒に向かう。

 ティルラちゃんやエルケリッヒさん達が、ラクトスの事などの相談をする時には、大抵屋敷の広間や他の空いている部屋を使うから、そこかと思ったんだけど……どうやら庭に逃げ込んだらしい。

 エルケリッヒさんを探しに客間を出て、ほどなくして合流したセバスチャンさんから、居場所へと案内されて今、屋敷の庭の出入り口付近まで来ている。


「大方、私が大量のフェンリルを見て腰を抜かしたから、ここなら来ないと思ったのでしょうね。浅はかな……」


 マリエッタさんの言葉に対し、静かにコクリと頷くセバスチャンさん。

 旦那さんと息子に対して、浅はかと言うのはどうかと思ったけど……マリエッタさんの背中からズズズズズ……と不穏な何かが立ち上っている気がする。

 セバスチャンも似たような事を考えたんだろう、今のマリエッタさんを見れば、フェンリルを怖がって近付かないという結論には達せない。

 クレアなんて、マリエッタさんの発する雰囲気を感じて、一緒に来ていたレオの後ろに隠れているくらいだ……俺も隠れたい。


「タクミさん、レオ様。確認ですけれど、フェンリル達は自分達を害そうとしなければ、何もしてくることはないのですね?」

「ま、まぁ……親しい人を襲ったりとか、危険な事が起こったら別かもしれませんけど」

「ワ、ワフワフ!」


 マリエッタさんの、目の奥が笑っていない。

 雰囲気に呑まれるように、レオと一緒に頷きながら答える。

 武力行使、とかでなければ多分、フェンリル達はマリエッタさんに何かする事はないだろうと思う。


「フェンリル達に敵意を向けたりとかは、ちょっと危ないと思いますけど……」

「それなら問題ありません。向ける先はフェンリルではありませんから」

「あははは……そ、そうですね」


 ニヤリと口角を上げるマリエッタさんを見て、乾いた笑いが出る俺……別に俺に対して怒っているとかではないのに、情けないけど仕方ない。

 正直なところ、以前この世界に来てすぐの頃、森に行くかどうかでセバスチャンさん達に怒ったクレアが可愛く思えてくる程、迫力がある。

 これは、絶対に逆らっちゃいけないタイプの人だ、と本能が警鐘を鳴らしているくらいだ。


 リーザ達も、クレアと一緒にレオに隠れて息を潜めているくらいだし……そのレオも、俺の後ろに隠れているからな。

 ……体が大きくて、隠れられてはいないのはご愛敬だが。


「ではタクミさん、少々驚くかもしれません。そして、耳汚しかもしれませんがお許し下さい」

「え、あ、は、はい……」


 わけがわからず、俺に向かって礼をするマリエッタさんに頷く。

 とりあえず、クレアと同じく礼が綺麗だなぁと見惚れそうになるのは、血筋なのかもしれないなんて全然関係ない事を考えていた――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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