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1572/1997

愛について教えられました



「タクミさん?」

「……想像して、自分の中で否定しているのでしょうね。おそらく、今私が言ったような事をレオ様を利用してと考えて、といったところでしょうか。険しい表情もされていましたから」

「あ、すみません」


 一人で考えて、一人で脳内を否定して、とやっていたらクレアから不思議そうに見られてしまった。

 あとマリエッタさん、大体当たりです……やっぱり俺も表情に出やすいんだな。

 とりあえず、頭の中だけの事とはいえなんとなく罪悪感があったので、近くで伏せをして目を閉じているレオを撫でておく。


 俺に撫でられたレオは、少しだけ目を開けてこちらを見て、わかっていると言わんばかりにすぐまた目を閉じた。

 レオにも、俺が何を考えていたかわかっていたのかもしれないな……さすが、頼りになる相棒だ。


「タクミさんが信頼に足る人物。クレアを任せるに相応しいだろう、というのはわかりました。もちろん、これだけでタクミさんの事が全てわかったなどと言うつもりはありませんが。年寄りの話に付き合って下さって、ありがとうございます」

「いえ……恥ずかしくはありますが、自分の気持ちを口に出せる機会にもなりましたし、良かったと思います」

「ふふ、クレアが言う通り謙虚な方ですね。――それで、クレア?」

「は、はい、お婆様?」

「あれ程の事をタクミさんに言われて、喜ぶのは同じ女性としてわかりますが……あなたも油断していてはだめよ?」


 大体言える事は、全てマリエッタさんに言い切っただろうか。

 できれば、恥ずかしいから今いった事の大半はクレア以外、忘れて欲しいくらいだけど……。

 それはともかく、目を細めてクレアを見たマリエッタさんと、鋭く見られてにわかに緊張し、体を強張らせるクレア。

 次はクレアに……ってところなのだろうか?


 この様子を見ると、孫娘のクレアには甘い雰囲気はあったけど、エッケンハルトさんが厳しいと言っていたのもわかる気がする。

 なんというか、さっきまでと違って凛とした空気が漂っているというか、一瞬にして弛緩していた客間の空気をピリッとさせた。

 それでも、上品さとか気品みたいなのも感じるけど。


「タクミさんではないですが……こう言うのは年を重ねていても恥ずかしいですけれど。クレア、愛されている、ただそれを享受するだけではいけないわよ? 愛とは双方向に育むものでもあります。一方的な愛、というのもあるでしょうけど、クレアとタクミさんは違います。そうですね?」

「は、はい……私も、タクミさんを……あ、愛していますから!」


 急に話を振られたからか、俺よりも戸惑いつつもそう言ってくれるクレア。

 さっき、俺がマリエッタさんに言った時のクレアの気持ちはこうだったのか、とわかる気がするように、胸の奥から、体の底からじんわりと温かい気持ちが湧き上がって来る。

 同時に自分の顔も、熱くなっているから赤くなってしまっているんだろうけど。


「ではこれからも、タクミさんだけでなくクレアも頑張らねばなりません。女性としての魅力もそうですが、クレアがタクミさんの事を考えて、タクミさんがクレアの事を考え、それぞれで歩んでいくのです」


 俺もクレアも、お互いがお互いを想っているからこそ、気持ちが離れないようお互いの事を考えて努力しろって事だろうな。

 マリエッタさんはクレアに対して言っているけど、俺にも言っているような気がして身が引き締まる思いだ。


「愛の形は人によって違います。私とエルケ、クレアとタクミさんではまた違うものになるでしょう。もう一度言いますが、愛は育むものでもあります。片方から愛を注ぐだけでは中々育ちません。お互いを想い合い、育てて行って下さい。二人がどんな愛の形に育てるか、楽しみにしています」

「は、はい! お婆様のお言葉を肝に銘じて、努力を怠らずタクミさんと二人で、育んでいきます!」

「クレアさんに全部言われましたけど、俺も同じ気持ちです」


 愛、と口にするのはなんとなく気恥ずかしい言葉ではあるけれど、ここまで真っ直ぐ言われたら恥ずかしさよりも素直に受け止める気持ちの方が勝る。

 言葉の最後に微笑んだマリエッタさんに、クレアと同じく頷いた。

 なんだか、二人で誓いの言葉を言っているような雰囲気になっちゃったな……悪い事じゃないし、自分の気持ちを決意と共にはっきりさせるには良かったんだろう。


「よろしい。ですがそうですね……タクミさんは、今日初めて顔を合わせたばかりではありますが、気に入りました」


 指先を数本、口元に当てて考える仕草のマリエッタさん。

 目の奥が笑っているので、面白いと思う事を思いついたのかもしれないが、向かい合っている俺とクレアからすると悪い予感しか感じない。

 なんというか、エッケンハルトさんが悪巧みとかイタズラを思いついた時みたいな……というか、俺はマリエッタさんに気に入られたのか。

 話している流れで、嫌われているわけではないだろうし認めてくれる感じだったのは間違いないけど。


「クレア、もしあなたが弛んでいるようなら、タクミさんには別の女性を紹介しようかしら? あの人や……あぁ、そういえばあの人はタクミさんと近い年頃だったわね……」

「え、ちょ……お婆様!?」


 何を言うのかと思ったら、俺にクレアとは別の女性をという事らしい。

 いや、クレア以外の女性には全く興味がない……というと語弊があるかもしれないけど、自分の中にある気持ちはクレア以外に向きそうにないし、向けるつもりはないんだけどな。


「ふふふ、冗談ですよ。ですが、もしかするとそんな未来もあり得る、というのは忘れないでおきなさい? 私達公爵家は、レオ様を利用するなどと恐れ多い事は考えてはなりません。ですが、他の貴族家や貴族ではない者達も、そうではありませんからね。タクミさん自身も、人柄は優れている様子です。知れば、喉から手が出る程欲しがる人達は大勢いますし、出て来る可能性は高いのです」

「それは……確かにそうですけれど。でも、お婆様が紹介って……いえ、お婆様ならできるのでしょうけど」

「長年、公爵家の当主の妻をしていれば、人脈というのは広がるものですよ」

「お爺様から、それ以前も顔が広いと聞いた事があります……」

「そういう事もあったかもしれませんね。ともあれ、タクミさんの能力やレオ様の事を考えると……これはわかりますね?」


 少しだけ表情を引き締めたマリエッタさんが、クレアに問いかけた――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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