マリエッタさんにクレアへの気持ちを伝えました
「クレアとタクミさんの事は、エルケやハルトも認めているようですので、私からは特にありません。あ、でも……そうですね、一つだけ」
「な、なんでしょうか?」
マリエッタさんも認めてくれる……という流れかと思って、安心しかけたところで何やら思い出した、というか思いついた様子。
こちらを真っ直ぐと見つめるマリエッタさんに、少しだけ緊張し、姿勢を正して何を言われるのかと待ち構える。
突拍子もない事を言い出す人、かどうかはまだ判断が付かないけど、何を言われてもいいように心の中で覚悟した。
「ふふ、そんなに身構えなくても大丈夫ですよ」
アリエッタさんには、そんな俺の心の動きとかはお見通しみたいだ。
……自覚はあまりないが、やっぱり俺も表情に出やすい質なのかもしれない。
顔が強張っているような気もするし。
「特に難しい事を言うつもりはありません。ただ、クレアを愛してあげて欲しい。それだけです」
「愛して……えっと……」
何を言われるかと思えば、それだけか。
と一瞬だけ思ったけど、よくよく考えれば深いようなそうでもないような……。
ちょっと戸惑ったが、とにかくこれに対する俺の答えは決まっている。
クレア以外に対して口にするのは恥ずかしいし、ライラさんや他の使用人さんも見ている状況だけど……いや、クレアに面と向かって言うのも恥ずかしいかな? とにかく……。
「も、もちろんです。クレア……さんの事は心の底から好いています。必ず守る、守れるなんて自惚れるつもりはありませんが、全身全霊をかけて愛し続けます。それだけは、自信を持って言えますし、約束できます」
「タ、タクミさん……」
恥ずかしさで最初はちょっとどもってしまったけど、最後はしっかりマリエッタさんの目を見て言えたと思う。
隣から、クレアの熱い視線を感じるような気はするけど……今は言葉に説得力を持たせるため、マリエッタさんから視線を外しちゃいけない。
以前、ラクトスまでのちょっとしたマラソンで自分の気持ちを確かめたりしたけど、今はクレアに恋をしている、愛していると、はっきり自覚している。
それは告白してからの事や、これまでの事など、色々あったし色んなクレアを見たからではあるけど。
レオやリーザの事、薬草畑関連や従業員さん達、使用人さん達との事等々、考える事は多いけど……やっぱりちょっとした時でもそうでなくても、ふと思い浮かぶのはクレアの事だったりする。
まぁ正直なところ、こんな事を頭で考えているのすら恥ずかしいような気がするし、口に出したら引かれないか心配だったりもするけども。
「成る程、多少頼りない所もある気がしますが、そこもまたタクミさんの人となりなのでしょう。ハルトだったら、必ず守るくらいは言いそうですし、実際に言っていたような気もしますが……タクミさんとハルトとは違いますからね」
あー、確かにエッケンハルトさんなら言いそうだし、権力的にも剣の腕的にも、本当に女性一人くらいは守れそうでもあるからな。
マリエッタさんが言っている、実際にというのはクレアやティルラちゃんの母親に対して、とかだろう。
「自信満々に、というのはどうにも性に合わなくて……自分にあまり自信がないもので、すみません。でも、クレアさんを愛している、という事に関しては間違いありません」
「ふふふ、謝る必要はありませんよ。自信がないと言いつつも、クレアに対してだけは自信がある。面白いですね。――クレア。美辞麗句を並べ、富や名声、権力を振りかざす男はいくらでもいますが、タクミさんは全然違う人のようですね」
「は、はい、お婆様! タクミさんは誰かから借りてきたような、その時だけのうわべの言葉ではなく、自分の言葉で話して下さいます。自信は……もう少し持ってもいいとは思いますが、謙虚で素朴な人柄で、私だけでなく使用人やこの村の者達。タクミさんと接した多くの人に慕われているくらいの方ですから」
「夫の様子を見に来たら、孫にのろけられてしまいましたわ。年を取るわけですね……ふふふ」
「あ……」
笑うマリエッタさんに、クレアがハッとなって恥ずかしそうに俯く……勢いで、色々と言い過ぎてしまったと思ったらしい。
それにしても、クレアの俺に対する評価が高すぎる気がするんだけど。
ランジ村の人達はまぁ、事件などもあって親しくさせてもらっている実感はあるけど、それ以外の人達はそこまでじゃないような?……別に、全ての人に好かれようとまでは思っていないし。
ただ、話を聞いていたエルミーネさんやライラさんが、クレアの言葉に頷いていたから、使用人さん達からは親しまれていると思って良さそうだ。
慕われている、というのはさすがに大袈裟だと思うけど。
「タクミさんは、先程の言葉の中で一度もレオ様を出しませんでした。タクミさん自身の言葉であると共に、強大な……ともすれば持て余すような力を、自分のために利用する気はない、と受け取りました。高評価ですね」
「いや……そこまで考えての事ではないんですけどね。レオを頼る事はもちろんこれまでも、そしてこれからあると思います。けど、クレアと一緒にいる事、クレアを愛するという事に、レオを利用するなんて意味がありませんから」
恥ずかしい事を口にしている自覚はあるけど、もうこの際だと考えている事をマリエッタさんに伝える。
高評価と言われるのは嬉しいけど、レオを出さなかっただけでそこまでになるのはどうなんだろう? と思わなくもないし。
「ふふ、そこを切り離して考えられる、というだけでもあまり多くはいないのですよ。力は顕示するもの、と考えている人は多いのですから」
「そういうもの、ですかね……?」
「タクミさんは、その辺りが少し無頓着ですから」
「そうみたいですね」
キョトンとしてしまう俺に、マリエッタさんもクレアも、それにエルミーネさん達も苦笑している。
うぅむ、レオは確かに頼りになるし、色々と助けてもらっていたり何かを頼む事はあるけど……だからって、それを必ずしも顕示しなければいけないとは思わない。
レオがそうしたいならともかく、それはレオの力であって俺の力ではないからなぁ。
まぁ、お金とか権力とかもそうだけど、『力』というものがあれば、それを使いたくなる人もいるというのはわからなくもないけどな。
それこそ、レオを使って脅して多くの人を自分の思い通りに……なんて事もできるかも……?
いやいや! レオをそんな馬鹿みたいな事に利用するなんて、絶対にダメだ!
不埒な考えを頭の中から追い出すように、思いっきり頭を振った――。
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