レオとは従魔契約以外で意思疎通していると考えました
「こちらの世界で気が付いてから、まぁレオがシルバーフェンリルというか、大きくなっている事に驚いたりとか、色々あったんですけど……」
人懐っこくて、俺に凄く馴染みのあったレオだからこそ、姿形が大きく変わってもすぐにレオだって納得できたんだろうな、なんて今更ながらに思う。
あれだ、長く犬や猫と一緒に暮らしていると、ちょっとしたしぐさや表情で何を訴えているかとか、何を考えているかわかるようになる、みたいなもんだと思う、多分だけど。
馴染みのない人には、犬や猫にも表情があるって言ってもわかってくれなかったりするんだよなぁ。
「数時間程度ですけど、森を彷徨って、オークと遭遇したりして……まぁ結果的にクレアさんを発見して助けたりもしたんですけど」
クレアにとっては、あの時オークに襲われていたところに登場した俺やレオは、命の恩人とも言えるんだろうけど、それは俺から見ても似たようなものだ。
あの時は、まだ夢じゃないかと疑っていたし、クレアと出会わなかったらもっと長く森を彷徨っていた可能性が高い。
レオに頼めば、簡単に森の外まで走るくらいはできたかもしれないけど、迷う可能性も高かっただろうからな。
ある意味、クレアも俺やレオの恩人でもあるわけだ、と俺は考えている。
「クレアさんと会ってからは、まぁ大体の事はクレアさんやライラさんも知っての通りになります。特に隠す事はないですし、その間にレオとの間に特別な事はありません」
「そう、ですね。タクミさんは、別邸に来た時にはすでにレオ様が何を言っているのか、はっきりと理解しているように見えました」
「うん、そうだね。――実際に、はっきりとレオが言っている事がわかると自覚したのは、クレアさんが森に行くと言い出した時になるんですけど」
それまでも、なんとなくレオと会話らしきことはしていたけど、最初は夢で、異世界と認めてからはマルチーズだった頃から一緒にいたから、なんとなくニュアンスや表情で話せているんだと考えていた。
けど、実際には細かい事、レオが何を言っているのかまで、鳴き声だけでもわかるようになっていると、森に行く事を話していた時に気付いたんだ。
「そうなると、レオと従魔契約をするとしたらクレアさんと出会うまでの間しかありません。けど、その間に特別変わった事は何もなかったんです。いやまぁ、俺はレオが大きくなった事には驚きましたし、それが特別変わった事と言えばそうなんですけど」
小型犬のマルチーズから、超大型犬を越える程の大きさの狼になっていたんだからな。
冷静に考えてみると、あの時レオだと判断できた自分が凄い気がしなくもない。
「従魔契約をするような、何かはなかったんです。それこそ、シェリーやラーレの時みたいに光る事はもちろんありませんでした」
「そうだったんですね……タクミさんは、レオ様の事を相棒と仰っていましたけど」
「なんとなく、従魔、と言いたくなかったからね。従えているわけじゃなくて、レオとは信頼し合って一緒にいるって事にしたかったんだ」
シェリやラーレと接するクレア達を見ていて、従魔という言葉でも別に従えている……言葉を悪くすれば奴隷みたいな扱いじゃない、と今では思うけど。
初めて聞いた時は、ちょっとだけそんなイメージもあって従魔ではなく相棒、という言葉を使ったんだ。
なんとなく、日本にいる時から仕方なく使ってはいたけど、飼うという言葉も少しだけ忌避していたのもあるのかもしれないが。
実際にレオはこちらに来てから本当に頼れる相棒として、色々活躍してくれているからその言葉に嘘はない……むしろ、俺の方が不足しているかもと思ったりもするくらいだ。
「だからまぁ、従魔契約というわけじゃないんだ。理由はわからないけど……俺は勝手に、信頼し合えているからと考えているよ」
別にレオの言葉は、鳴き声と人の言葉で二重に聞こえたりはしないから、表情や仕草もそうだけど、鳴き声の感じとかでなんとなくそうかなって思うだけだ。
まぁそれで間違えた事がないから、なんらかの理由はあるんだろうけど……お互いを信頼しているからこその意思疎通、と思うのが一番だと結論付けている。
どうせ、考えたってわからないし理由を探そうにも、その探す方法もないんだから都合がいい方に捉えてもいいよな、という安易な考えでもあるけど。
「ワッフワフゥ」
「こらこらレオ、話の途中だからおとなしくな?」
「ワウゥ」
俺の言葉が嬉しかったのか、リーザ達を引っ付けたままレオが頬を擦り寄せてきた。
苦笑しながら撫でつつ、落ち着くように促す。
「……この様子を見れば、従魔契約があるかないかに関わらず、確かに信頼し合っているのだとわかりますね」
俺とレオのやり取りを見て、顔を綻ばせるマリエッタさん。
ちょっと、恥ずかしい所を見せちゃったかな?
「えぇ、お婆様。ちょっと羨ましいと思う事があるくらい、タクミさんとレオ様は仲がいいんです」
「それは、レオ様と仲良くするタクミさんが羨ましいのかしら? それとも、タクミさんと仲良くするレオ様が羨ましいのかしら?」
「えぇっと……それはその……」
何やら、口元に手を当てて笑うマリエッタさんに、しどろもどろになるクレア。
俺とレオ、どちらに対して羨ましいと思っているかで、意味が変わって来るからだろうけど……エッケンハルトさんや、エルケリッヒさんの前だとクレアは結構堂々としていたのにな。
同性のお婆さんの前だと、少し勝手が違うのかもしれない。
「ふふ、ハルトから聞き及んでいますよ。クレアにもついに心に決めた殿方ができたのだと」
「お、お父様ったら……」
「ははは……」
マリエッタさんの言葉に、俺もクレアも苦笑するしかない。
って、ん? 待てよ……エッケンハルトさんが、俺とクレアが付き合い始めたとはっきり知ったのは、ランジ村に来てからのはず。
マリエッタさんに伝えるような事はできなかったはずだけど……。
まぁ、それだけ俺もクレアも傍から見るとわかりやすかったのかもしれないな。
特にクレアは、こうして親しくさせてもらってからは、気持ちが表情に出やすいんだとよくわかるくらいだし。
いや、それは俺もかもしれないけど。
だから、もうそういうものとしてエッケンハルトさんがマリエッタさんに話していても、おかしくないか――。
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