マリエッタさんと話し始めました
クレアのお婆さんことマリエッタさんの訪問を受け、客間で向かい合って話しているが……この世界の知り合いの中で、一番貴族の女性というか、気品溢れる人物というのがしっくりくるな。
アンネリーゼさんとかも、縦ロールと口調もあって貴族のお嬢様という感じではあったけど、マリエッタさんには敵わない。
ちなみに後で聞いた話だが、このマリエッタさん、今回のように驚かせるとかちょっとしたイタズラ心的な感じで、突然訪問などはよくある事らしい。
エッケンハルトさんの気質は、むしろマリエッタさんから受け継がれたんだろうと、セバスチャンさんも言っていたりした。
「それで、肝心のエルケとハルトがいないのは……まぁ逃げたのでしょうね」
「はい……お婆様が来られたとわかると、ティルラと話をしなければいけない事があると言って……」
腰を抜かしてしまったマリエッタさんの使用人さんが、屋敷に助けを求めに来たので、今回の訪問は当然エルケリッヒさん達の耳に入っている。
その際、慌ててティルラちゃんを捉まえてエルケリッヒさんとエッケンハルトさんは、話があると別の部屋にこもってしまった。
要はマリエッタさんと顔を合わせないように逃げた、という事だろう……ティルラちゃんとの話は、ラクトスに関してだろうけど、既に粗方終わっているはずだから。
ティルラちゃんをだしにしたわけだ。
そういえば、エルケリッヒさんと会った時に奥さんを置いて自分だけで出てきた、みたいな事を言っていたからそれもあってだろう。
ただエッケンハルトさんが逃げる必要はないと思うんだが、クレアやティルラちゃんには甘いけど自分には厳しいと言っていたから、それかもしれない。
ちなみにセバスチャンさんは、挨拶をと言っていたんだけどエルケリッヒさんに巻き込まれて連れて行かれた。
そのため、この部屋には他に使用人はエルミーネさんとライラさん、それからマリエッタさんが連れてきた男女の使用人さん二人がいるだけだ。
護衛さん達は、ルグレッタさんやフィリップさん達と一緒にいる……知り合いらしい。
フィリップさん達はともかく、ルグレッタさんと知り合いというのは少し驚いたけど、まぁユートさんと一緒なら当然公爵家との交流もあったんだろうし、その影響かもな。
「まったく、あの二人は……レオ様、エルケたちが何か失礼をしていないでしょうか?」
溜め息交じりのマリエッタさんは、レオに視線を向けて聞いた。
「ワウ? ワフワフーワウ」
「特に何もないから、気にしないでと言っているみたいです」
「ワッフ」
俺がレオの鳴き声を通訳して、マリエッタさんに伝える。
間違っていないと示すように、レオが頷いた。
「ふむ、成る程。確かにハルトから伝え聞いたように、レオ様とタクミさんは意思の疎通ができているようですね。シルバーフェンリルが従魔契約をしているとは……」
俺とレオの様子を見て、マリエッタさんが何やら納得した様子。
レオとの関係性を窺っていた、というところだろうか?
ただ、一つ間違いがあるな……考えてみれば、今まではっきりと否定はしていないけど、この際だから話しておこう。
クレアもいるし丁度いいだろう。
「あ、いえ……それなんですけど、実は俺とレオって特にそういった従魔契約とかって、していないんです。――だよな、レオ?」
「ワウ」
レオに問いかけると頷いたので、間違いなく知らないうちに従魔契約をしていた、という事もないのは間違いない。
「え、そうなのですか? 私はてっきりそうだとばかり……いえ、私だけでなく、お父様やお爺様達も皆そう考えているはずですけど」
キョトンとするクレアに、同じ部屋にいたライラさんやエルミーネさんも、同じく不思議顔。
本当に皆、俺とレオが従魔契約をしているんだと思い込んでいたんだな……まぁ、俺もこれまではっきりと言わなかったせいでもあるんだろう。
シェリーとクレア、ラーレとティルラちゃんが、従魔契約によってはっきりと意思の疎通ができるように、レオが何を言っているのかわかるのは、傍から見たら同じ条件だと思ってもおかしくないか。
レオに引っ付いているテオ君やオーリエちゃん、リーザも首を傾げている……まぁ、テオ君以外はあまりよくわかっていなさそうだけど。
「クレアも知らない事なのですか?」
「えーと、そうですね……なんと言ったらいいか……」
何度か、従魔契約をする場面は見てきた。
魔物に対して人間が命名し、それを魔物側が受け入れる事で契約が成立する……。
ヴォルグラウとデウルゴのように、強制するような例外はあるみたいだけど、なんにせよ受け入れた証明として、魔物側が一度だけ光り輝く。
これは、シェリーもラーレもそうだったし、セバスチャンさんや他の人達の知識でもそうだったので、従魔契約とはそういうものなんだろう。
だとしたら、その現象が起こっていない俺とレオの間には、従魔契約は成り立っていない。
そもそも、レオって命名したのは拾ってすぐだからな。
日本にいた時、マルチーズだったレオに命名したからって、従魔契約が成されたなんて事もないだろう、当然ながら光ったりはしなかったし。
「俺の事は、エッケンハルトさん達から?」
「聞いております。こことは別の世界から来られたという。正直なところ、別の世界というのも想像ができませんが、レオ様とこうして意思疎通なさっている事や、能力の事などを聞けば納得せざるを得ませんね」
そりゃそうか……地球でも物語ではあったけど、本当に別の世界なんて物があるかどうかなんて、わからないよな。
特に、そういった考えとかがないこちらの世界の人にとっては。
ただシルバーフェンリルになったレオと親しい、というだけでやっぱりこちらでは、特に公爵家の人相手には特別な説得力を持つ事みたいだ。
ユートさんの事もあるけど、レオがいた事、最初に知り合ったのが公爵家の人達というのは、何も知らずにこちらの世界へと放り出された俺にとってはかなりの幸運だったんだろう。
「そうですか。えっと、それでですね……こちらに来てから大体の事は、クレアさん達も知っていると思いますが……」
マリエッタさんとは初対面だけど、クレアの祖母で公爵家の人だ。
俺自身の確認も含めてここで話してもいいだろう……ただ、ちょっと緊張しているせいもあって、クレアをさん付けで呼んでしまっているが。
俺の話の内容よりも、その事にクレアが引っかかってほんの少しだけ頬が膨らんでいる気がするけど、今は許して欲しい。
ともかく、俺がこちらに来てからの話だな――。
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