屋敷に訪問者がありました
「よーし、今日はこのままもっと甘やかしてやるからなー」
「キューン」
刷り込みみたいな事なのかもしれないが、とにかくレオに信頼されているんだというのが改めて感じられて、嬉しくなった俺は、今日はこのまましばらく構ってやる事にした。
レオの方も喜んで、顔を擦り付けつつ甘えた声を漏らす……だが。
「ふっふっふ、もちろんリーザが戻って来てもだ……」
保護対象として見ているからなのか、リーザが近くにいる時は必要以上に俺に甘えようとしないレオ。
「ワフ!? ワ、ワウゥ……?」
俺の言葉に、驚きの鳴き声を上げてこちらを見上げて窺うレオ。
これでもマシになった方ではあるんだけど、今のような姿はやっぱり見られたくないみたいだ。
仰向けになってお腹を撫でられているのを、何度も見られているうえにリーザにも撫でられているのに、今更だと思うのは俺だけだろうか。
「甘えて、構って欲しがったのはレオだぞ? 思う存分構ってやるからなー。大丈夫だ、リーザはどんなレオを見ても幻滅したりしないから。むしろ、喜んで俺と一緒に構ってもらえると思うぞー?」
「ワ、ワフーーーー!」
抵抗しようとするレオの耳を捉まえ……じゃない、撫でながら言うと、最後の抵抗なのかちょっとだけ大きめに吠えた。
見られたくない、とは思っていても撫でられて耳の付け根を解される気持ち良さには抗いがたいみたいだ。
本当に嫌だったら、逃げているだろうし。
ともあれ、それからかなり遅くまでレオを撫でたり、ちょっとしたコマンドを伝えて遊んだりして過ごした。
もちろんリーザがお風呂から戻って来ても止めない。
まぁリーザは、レオを見て自分も俺の真似をしたいと、喜んで参加したんだけどな。
ママと呼ばれる相手に対して、素直に喜んでいいのかどうか、レオは少しだけ複雑そうだったけど、最終的には受け入れて尻尾をブンブン振っていたけども。
その日はそのまま、リーザはレオに抱き着くように、レオはそんなリーザを慈しむようにしながら一緒に寝た。
俺は一人寂しく? ベッドで寝たんだが……疲れとは別の満足感に包まれるようにして、熟睡できた気がする。
俺にとっても、レオを甘やかしたり構ったりする事は、ストレス解消なのかなんなのか……とにかく必要な事だったのかもしれないな――。
――レオを存分に構ってやった二日後、そろそろティルラちゃんとエルケリッヒさん達の話がある程度まとまり、別邸へ向かう準備が始まった頃、俺達の屋敷に突然の訪問者があった。
その訪問者は、なんの前触れもなくランジ村に訪れ、ちょうど子供達と遊んでいたフェンリル達を見て腰を抜かしていたところを、屋敷の使用人さんに連れて来られたんだが。
「お見苦しい所をお見せして申し訳ございません。ある程度話には聞いておりましたが、まさかあれ程の数のフェンリルがいるとは考えておらず、醜態を晒してしまいました」
「いえ……」
その訪問者さん、目的はこの屋敷に来る事だったらしく、介抱が終わって今は客間で俺と向かい合って深々と頭を下げている。
結構なお年の女性なのだけど、元気そうで良かった。
もし怪我とかがあれば、ロエを作って渡さないといけないと準備していたけど、この分なら大丈夫そうだな。
「それでその……そちらがレオ様、でよろしいのでしょうか」
「ワフ?」
訪問者の女性が向けた視線の先は、座っている俺のすぐ横、リーザやテオ君、オーリエちゃんをへばりつかせたレオがいる。
「はい。シルバーフェンリルのレオです」
「やはり! 話に違わぬ神々しい銀色の毛並み、他者を寄せ付けぬ覇気のようなものも……今は感じませんね。ハルト達から聞いていたのとは少々印象が違います」
「ははは……」
女性の言う通り、毛並みはともかく呼ばれて首を傾げたり、子供達がくっ付いている様子から覇気なんてものは一切感じない。
というか、レオが本当に他者を寄せ付けない覇気なんて放っていたら、リーザ達だけでなく他の子供達も怖がって近付けないだろうな。
なんとなく、ラクトスでリーザが石を投げられて怒った時のレオが頭に浮かんだ。
「それで、お婆様……どうして急にここへ来られたのですか?」
「おぉ、可愛いクレア。少し見ない間に随分と美しくなって……っと、んん! 失礼しました、タクミ様」
「あぁいえ、気にしていませんよ。それと、タクミ様は止めてください」
「成る程、話に聞いていた通り、謙虚な殿方のようですね。わかりました、ではタクミさんと」
「はい、それでお願いします」
レオとは逆側で俺の隣に座っているクレアを見て、相好を崩した女性だが、すぐに咳ばらいをして俺に頭を下げる。
そう、この訪問者の女性はクレアの祖母で、エルケリッヒさんの奥さんでもあり、エッケンハルトさんの母親でもある。
大量のフェンリル達が子供達と遊んでいるのを見て、腰を抜かしたわけだけど、引き連れていた使用人さんとか護衛さんと見られる人達のうち数人が、屋敷に報せてくれて今に至るわけだ。
しかしこの女性……名前はマリエッタ・リーベルトというらしいけど、そのマリエッタさん、なんだか俺を見る目が鋭い。
いや、睨まれているとかではなく、柔和な表情であるんだけど、俺を見定めようとしているとか、見抜こうとしているような感じだ。
少しやりにくい。
クレアに対しては、目ジワを深めて優しい表情になるのになぁ。
まぁレオの事は置いておいて、可愛がっている孫の隣に座っている、初めて会う男相手なのだから仕方ないのかもしれないけど。
「できれば、急に訪れてハルト達を驚かせたかったのだけれど……こちらが驚かされるとは。失敗したわ」
「ははは……」
「お婆様は、お爺様達を驚かせるためになんのお触れもなくここへ?」
「えぇそうよ。だってあの人ったら、私を置いて行ってしまうんですもの。追いかけて連れ戻すついでに、驚かせもしたくなるだろうってものでしょ?」
「もう、お婆様ったら……」
年齢を感じさせない、チャーミングな笑みを浮かべるマリエッタさん。
クレアと同じ色の金髪を後ろでまとめて、女性にしては背が高く手足がスラッと伸びている、上品な女性だ。
ティルラちゃんがエルケリッヒさんやエッケンハルトさん似なら、クレアはマリエッタさん似なんだろうな、髪の色も同じだし。
正直なところ、クレアの母親と言われても不思議じゃない若さを保っている気がするが……・
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