フェンリル厩舎が完成しました
「私が悪い方向に考え過ぎて、大袈裟になっているだけかもしれませんが、できるならばそういった要素を避けるように努めた方が……」
まぁ、そこまでの話は大袈裟だろうとライラさん本人も苦笑していたけど、とにかく新しい事を始める、エッケンハルトさん達と親しい、それらを羨んだり、疎んだりする者がいる可能性を考えれば、警戒するに越した事はないだろうというわけだ。
まぁ本来知らないはずの知識を持っている、と思われれば何か怪しまれてもおかしくないし、レオの事もあって場合によってはおかしな方向に考えられて噂が出るのだって考えられなくはない、か。
「無難、でしょうね。ありがとうございます。ライラさんの忠告、ありがたく受け取って気を付けるようにします」
以前、ニックの事もあって人を雇う事に関して忠告された事もあった。
ちょっと、悪い方向に考える癖みたいなのが、ライラさんにはあるような気がするけど、それだけ雇い主の事を考えてくれているという事でもある。
ライラさんの忠告は、ありがたく受け取っておかないとな。
おかげで、公爵家に頼んで雇う人を融通してもらったりと、比較的安全に人を雇えたし、怪しい人や悪巧みするような人を雇わずに済んでいると思うから。
「いえ、差し出がましい事を言いました」
「そんな事はないですよ。こうして、ライラさんが……ライラさんだけじゃないですけど、色々と教えてくれるおかげで、なんとか俺でもやっていけそうな気がしますから」
実際、俺一人なら薬草畑が上手くいくかどうかの自信は持てなかっただろう。
もちろん、生産コストがあってないようなギフトのおかげで、利益が出やすいのはあるけど、だからと言って必ず上手くいくとは限らないからな。
最悪の場合は、良からぬ事を考える人に利用されたりとかするかもしれないし。
とにかく、公爵家の人達や使用人として雇われてくれた人達、従業員さんやランジ村の人達等々、優しい人達に感謝してかないと。
俺でもなんとかやっていけそうと思えるのは、皆がいてくれるおかげだからな。
そうして、シェリーを撫でながらしばらくライラさんと話をして過ごした。
ちなみに、印章の方はクレアからの承諾も得られたので、発注する事に決まったが、戻ってきたアルフレットさんが妙にぐったりしているのは、ジェーンさんに色々言われたか巻き込まれたからだろう――。
――執務室での仕事の後、森から持ってきた木を植えているペータさんを少し手伝っている途中、夕食前にフェンリル達が過ごす小屋が完成したと、ガラグリオさんが報告に来てくれる。
フェンリル小屋改め、フェンリル厩舎と呼ばれる事になったそれは、ランジ村どころかラクトスで馬が過ごしている厩よりも大きいくらいだった。
俺も少しだけど手伝ったのもあって、完成したのを見るのはちょっとだけ感慨深かったりもする。
建物を作った事なんてこれまでなかったからな。
呼び方に関しては、フェンリル小屋でもいいかなと思ったんだけど、どう見ても小屋の大きさじゃないから悩んだ結果だな。
飼っているわけではなく協力してもらっているから、厩舎と言うのは少し躊躇われたけど……フェリーも含めて、フェンリル達に聞いてみたところ特に不満そうな反応はなかった。
まぁ、厳密な意味とかは関係なく、呼びやすいからそれでいいか。
「どうだった、フェリー?」
夕食後、早速とばかりにフェンリル厩舎にフェンリル達が入って、様子を見てきたフェリーに感想を聞く。
しばらく寝泊まりしてから、色々な意見や感想が出て来る可能性はあるけど、まずは第一印象だな。
「グルゥ、グルルゥ」
「ワウ、ワフワウ」
「ふむふむ、とりあえず居心地は良さそうと。まぁ、何かあれば言ってくれ。なんでもできるわけじゃないけど、できるだけ過ごしやすいようにするから」
「グル!」
フェリーの鳴き声を、レオが通訳してくれてフェンリル達が気に入っている様子なのがわかる。
これから先不満のようなものがあれば、できる限り対処するとして、とりあえずはこれで良さそうだ。
まぁ本来は雨避けのつもりだったから、床は土間になっているけどむしろそれが良かったのかもしれない……板張りとか、滑りそうだし場合によっては爪が刺さりそうだからな。
「一応、部屋ってわけじゃないけど、いくつか仕切りを設けさせてもらっているみたいだけど、そっちも大丈夫か?」
「グルゥ、グル」
「それは特に気に入っているみたいなのか、ふむふむ。森の中だと、木々があるにしても仕切りとかないからなぁ」
フェンリル厩舎の中は、馬のためのそれとは違うけど似た感じで、板を張ってなるべく等間隔になるように仕切りがされている。
割とのんびりしていて気にしない風ではあったけど、フェンリルにも一応のプライベート空間というのを作ってみたわけだ。
厩舎の出入り口はフェンリル達が使いやすいように、奥にも手前にも開くスイングドアが採用されていて、それぞれの仕切りというか、小部屋みたいな部分に入るのにも同じくスイングドアになっている。
レオもそうだけど、結構器用だから最初はレバーハンドルを取り付けようとしていたんだけど、押すならまだしも引くとなるとちょっと難しそうだからとスイングドアになった。
あれなら、体で押すか鼻先で押すだけでも出入りができるからな。
ちなみに小部屋は、それぞれ数体のフェンリルが入れる広さで区切られていて、スペースの半分くらいには藁が敷かれていたりする。
土の上で寝るよりは良さそうと思ったんだが、これが特に好評らしい。
なんでも、藁のチクチクする感じが気持ちいいとか……人間だとむしろ寝心地が悪くなりそうだけど、フェンリル達には丁度良かったみたいだ。
ともあれ、自由に出入りできる部分以外は本当に馬の厩舎みたいになってしまったけど、フェンリル達が気に入ってくれたのならそれでいいか。
いくつかフェリーに確認した後は、エッケンハルトさんやティルラちゃんと素振りなどの鍛錬を済ませ、風呂に入って汗を流して部屋に戻る。
もちろん、部屋の前ではクレアが待ち構えており、就寝前のハグはしたが……もはや、これも日課と言っていいのかもしれないな――。
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