シェリーが甘えたいようでした
「ふぅ、まさか鉛筆と消しゴムを作る事になるとは……」
「キャゥ~」
俺からの知識を受け、キースさんが意気揚々と部屋を出ていった後、ライラさんの淹れてくれたお茶を飲みながら、深く椅子に腰かけて上に乗った少しだけ重くなったと感じるシェリーを撫でる。
シェリーは大体フェンリル達か、レオやリーザ、ティルラちゃんと一緒にいる事が多いんだけど、今日は甘えたい気分だったのか、俺の足の上で撫でられて満足そうにしている。
ここより先に、クレアの所にも行ったみたいだけど。
ただあちらは、色々と熱弁するジェーンさんの影響で落ち着けなかったらしく、キースさんが出ていった後こちらの執務室の扉をカリカリとかいていた。
シェリーがこちらに来るのは珍しいと、ライラさんに様子を見に行ってもらった事で、事情が判明したわけだけど。
ちなみに、俺の描いた印章の図案を持って行ったアルフレットさんは、予想通りジェーンさんに巻き込まれていたそうだ。
クレアは話を熱心に聞きながらも、仕事を進めていたらしいけど……よくその状況で仕事が進むなぁと、感心しきりだ。
「キャウ、キュー」
「はいはい、ちょっと待ってくれー。っと。よし、これで……ん、こっちの方がいいのか?」
「キャフ~、ガフガフ……」
俺の足の上で、以前作ってやったおもちゃのゴムボール、レオの物とは大きさが違うのを、前足で挟みながらガジガジと咬んでいたが、何やら体をもぞもぞとさせて難しそうにしていたシェリー。
声をかけつつ一旦抱き上げてスリッパを脱ぎ、椅子の上であぐらをかくようにしてその上にシェリーを降ろす。
すると、それでも体勢を変えようとしていたのでひっくり返してやると、ようやく落ち着いたのか、仰向け状態でゴムボールを楽しそうに齧り始めた。
今は足が自由になっている方がいい気分なのか。
咥えたゴムボールを、両前足を上下させて口から外したりと、勝手に遊んでいる。
前足と連動するように、後ろ足も動くのがちょっと可愛い。
「キャフ! キュ~!」
「おっと。ははは、撫でるのは止めるなって事か」
遊びに夢中かと思いきや、俺が撫でる手を止めている事に抗議するように鳴くシェリー。
前足がおねだりするように、くいくいと動くのが面白い。
「キャフ~。ガッフガフ……」
シェリーのお腹を撫で、ご満悦な鳴き声を聞いて顔が綻ぶ。
そういえば、レオもこうして俺が撫でる手を止めると、おねだりしてたなぁ……同じく仰向けの状態で、こちらを見上げながら両前足をクイクイと動かしたり……。
「そういえば旦那様。先程の話ですが……」
「あ、はい、なんですかライラさん?」
執務室に残っているライラさんから話しかけられ、シェリーを見下ろしていた視線を上げる。
もちろん、シェリーから抗議されないように撫でる手は止めていない。
「いえ、先程は鉛筆と消しゴムでしたか。それらをキースさんに任せる事で話が終わりましたが、安価な紙をというのも、旦那様は仰られていたかと」
「そうですね。安価な紙を作れれば、費用としての節約にはなるかなって」
使う紙の量は変わらなくても、紙その物が安い物であれば結果的に経費節約になる、と最初は考えたんだったな。
結局、安価な紙そのものの作り方がわからないので、作れそうな鉛筆と消しゴムで紙の節約をする方向にしたんだけど。
「旦那様は、紙の作り方をご存じなのでしょうか?」
少しだけ真剣な、ライラさんの視線と声を感じる。
「まぁ、なんとなくくらいは。実際に作るとなると、難しいとは思いますが……」
植物の繊維を糊で固めて……とかそれくらいはなんとなく。
どうやって繊維を取り出して、どんな糊を使って、とかは知らない。
何かの映像で、お湯? に繊維や糊を入れた物を浸けているようなのは見た事があるけど、それくらいだ。
あの映像だけで、製紙のすべてがわかるわけじゃないからな。
「そうですか。おそらく旦那様は、ここではないどこかの世界でその知識を得られたのでしょうが、あまり公言しない方がよろしいかと」
「その通りですけど、そうなんですか?」
紙の作り方、なんて多分ネットとかで調べたら出て来そうなもんだけど。
いや、この世界ではなく日本でだ。
「製紙技術は、この国では秘匿されています。羊皮紙などの生き物の皮を使った物は別ですが、こういった紙の作り方というのは、その素材も含めて我々には知る事ができません。いえ、禁じられています」
「禁じられている……」
危険な技術、という事ではないんだろう。
禁じられているのなら、ある意味危険なのかもしれないけど……怪我をするとかそういう意味では、危険はないはずだ。
「理由は私などにはわかりませんが、この国が建国され、紙という物が世に出た時からこれまで、詳細は一部の関わる者にしか知らされない、とされています。いつ紙ができたのかまでは、私にはわかりかねますが」
という事は、ユートさんが関わっているのかな?
紙の資源は植物……大量に作られて消費されれば、大規模な森林伐採にもつながって自然破壊にもなるから、地球での歴史を知っているユートさんならとは思うが……。
割と気楽に生きていそう、という失礼な見方をしているけど、ともあれそんなユートさんがそこまで考えるかな? という疑問はあれど、一応初代国王様だし、建国主だからそこまで考えての事かもしれないな。
いや、全然違う理由とかありそうだけど。
「もしかすると、公爵のエッケンハルト様であればご存じかもしれませんが……」
ユートさんの事も知っているから、エッケンハルトさんというか公爵の当主様になった人なら、製紙技術についてある程度知っていてもおかしくはないか。
エルケリッヒさんとかも。
「もし公言すると、本来知らないはずの事を知っている、と思われて怪しまれる、とかですか?」
「いえ、それもあるかとは存じますが……旦那様の出自を疑われる事につながるかも、と……」
ライラさんが言うには、俺の出自、つまり異世界から来たなどの話になる可能性を危惧しての忠告との事だ。
そこからもしかすると、悪い方向で言えば薬草や薬が疑われ、ギフトの事にまで及んでしまう可能性もあるとかないとか――。
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