キースさんに一任しました
「あと、消しゴムに必要な硫黄ですが……」
キースさんもライラさんも聞いた事がないらしいから、こちらも別名なんだろうけど……硫黄は危険物なんだよなぁ。
医薬品とか農薬にも使われているけど……早い話が黒色火薬の原料だし。
粉末だとちょっと前にユートさんがやらかしかけた、粉塵爆発の危険があったり、燃えると有毒性のガスを発生させたりする。
まぁ、逆にその有毒性のガスの抗菌性を利用して、お酒などの保存料や漂白剤に使われるけど。
特にワインには、酸化防止剤や抗菌剤の役目として重要だったりする……って、ん? ワイン?
「もしかしてですけど、燃える石とかって……ありますか?」
「燃える石ですか? でしたらコウルでしょうか」
俺の問いに、キースさんが答える。
コウル……石炭か。
石炭はあるけど名称はコウルと、成る程な……じゃなくて。
「いえ、それとは多分違って……燃えるとガスを発生させたりするんですけど。えっと、ワインとかにも使われているはずなんです」
「ワインにも……?」
「ワインにもという事でしたら、もしかするとブリムストーンでしょうか? そういえば、燃える石という別名を持っていますね。こちらも鉱物だったと認識しておりますが……」
「燃える石、ブリムストーン……それです、ライラさん!」
首を傾げるキースさんに代わり、ライラさんが答えてくれた。
ブリムストーン、別名どころか日本語に直訳すると燃える石だったはずだ。
おそらくそれが硫黄で間違いない。
しかし、ライラさんは鉱物にでも興味があるんだろうか……? ちょっとだけ意外な面を見れた気分だ。
「ブリムストーンでしたら、この村でもワイン作りに使われているはずです。他には……燻製肉を作る際にも、使用されていますね」
「燻製肉なら、ブレイユ村でも使われていそうですね。ともかく、そのブリムストーンとゴム、さらに植物の油を混ぜて作るのが、消しゴムです」
抗菌剤にもなるから、ブリムストーンを燃やして発生したガスで、燻製肉を作っているのかもしれないな。
ともあれ、材料は全て揃えられそうだ。
「ブリムストーンに、グラファイト……ゴムは俺が。木材はなんとでもなるだろうし……鉛筆と消しゴムを作るのは可能ですね。それじゃ……」
そこまで言って一旦言葉を止め、ライラさんとキースさんを見る。
ライラさんは、普段通りの澄まし顔……というか、無表情に近い表情。
まぁそれでも、朗らかさを感じるのは不思議だけどいつもと変わらない。
キースさんの方は、高揚しているように見えて目が輝いている。
紙の節約とかだけでなく、こういった新しい物を作るというのに興味があるのかもしれないな。
もしかしたら、文具関係だからとかもあるのかもしれないし、この辺りは様子見か。
ともあれ、これだけ興味がありそうなら……。
「この場で、鉛筆を作る、消しゴムを作ると全て決めてしまうわけにもいきません」
俺の方ではアルフレットさんとも相談する必要があるし、薬草や薬を作るのが本業になるわけで、それとは異なる方向性だからな。
共同運営者のクレアにも当然相談しなければいけないし……色々と生活様式に関わる事でもあるので、エッケンハルトさん達にも話しておいた方がいいだろう。
……皆、反対したりはせず、むしろ喜んで関わろうとしそうな気がするのはなぜだろう、利益とかは関係なく。
「ですので、これに関してはキースさんに一任します。一応、本来の業務がありますので、それに支障をきたさない程度……最低限、働き詰めにならないように注意して、取り掛かってもらえれば」
「はい、畏まりました! 紙の節約、だけでなく新しい文具。これはもしかしたら、革新をもたらすかもしれない事業です。全力で取り掛からせてもらいます! もちろん、旦那様が仰られるように本分を忘れず、取り組ませていただきます」
「いやあの……そこまでの意気込みはなくていいんですけどね?」
キースさんの意気込みは、無理しないようにって言っているのに、早速無理をすると言っているようなものだ。
革新とかそんなつもりはなく、紙を節約できればというだけで自然に優しくという程でもない、くらいのつもりだったのに、大袈裟な……。
でも得てして、こういうなんでもない、大きな志があるわけでもなく気負わずに考えた事が、大きな革新につながる事っていうのはあるのかもな。
いや、たかが鉛筆と消しゴムがそうなるとは思えないのは、俺があって当然で誰でも買えて使える日本で生まれ育ったからかもしれないが。
「とにかく、無理は禁物です。場合によっては、他の誰かに協力してもらったり……」
これは、エッケンハルトさん辺りが乗り気になってくれれば、協力してくれる人を出してくれそうではあるけど。
今はとりあえず、俺が雇っている人の範囲で協力という意味にしておこう。
「また、もし必要であれば新しく人を雇うなども考えておいて下さい。まぁ、その辺りの事は俺よりもキースさんの方がわかっていると思いますけど」
人を雇って赤字が出るようじゃ、続けられないからな……まぁ、少しくらいなら薬草や薬の方で補填できるだろうけど。
ともあれ、そこらの事はキースさんならわかっているだろう。
俺の言葉に力強く頷いてくれた。
……ちょっとしたボヤキみたいなものから、いつの間にか話が大きくなってしまったけど、もしかしたら文具部門みたいなものを作る日が来るかもしれないな。
「確か、黒鉛……グラファイトを粘土と一緒に練ってから……」
「ふむふむ、成る程……消しゴムの方は……?」
「あっちは、ゴムとブリムストーンを……ただこちらは、俺の作るゴムが考えている性質かわからないので、色々試行錯誤が必要だとは思いますが……」
などなど、文具部門というありそうにない事を考えながら、鉛筆と消しゴムについて俺にわかる範囲の知識をキースさんに伝えた。
知っているかはわからないけど、もし製作するうえでわからない事があれば俺かユートさんに聞く事、というのも一緒に。
ユートさん、文具の知識があるようには見えないし、話題にもなっていないけど……まぁ何かしらの助言はしてくれるだろうから、俺からも後で話をしておこう――。
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