鉛筆と消しゴムの話をしました
「できるかはわかりませんが、俺がいた所では、消せる物を使って書く。もしくはこれみたいにインクで書かれた物を、消す物がありました。正確には、少し違いますけど」
ボールペンなどで書かれた文字を消すのは修正液だが、あれは消すのではなく紙と同じように白いインクを乗せて消えたようにする、という物だからな。
実際に消しているわけじゃない。
鉛筆は紙に付着した物を、消しゴムに付着させて紙から取り除くから、消すで合っているけど。
「何度でも書き直しができる、というのは紙の節約もそうですが、すごく便利だと思いますが……」
「まぁ、本当に何度でも、というわけでもないんですけどね。一度や二度の書き損じなら、なんとかなります」
消しゴムで何度も擦っていたら、紙が破れてしまったりと弱ってしまうし、修正液は何度も重ねるとそこだけ分厚くなったり、混ざって黒ずむから。
「あと、こういった何度も書いてみるという事などには便利なんですけど、重要な書類なんかには使えません。なぜかわかりますか?」
「……書き直せる、消して別の文字を書けるという事は……偽造ができる、という事でしょうか?」
「はい、その通りです」
消して新たに書けるという事は、数字などの改竄ができるという事でもある。
ちょっとした連絡事項とかメモ書き、字の練習を含めた勉強とかならまだいいだろうけど、保存しておかなければいけないようなのも含めて、公文書や重要書類でやってしまうと、信憑性がなくなってしまうわけだ。
多くの場合で書き損じがあった場合、横線を入れて訂正印を押して対処したりはするけど……そちらはこの国では馴染みがないだろうし、考えなくていいか。
誰でもハンコを持っているわけでもないみたいだからな。
「ですから、信憑性が必要ないような場合でしか使えません。とはいえ、書き損じがあったとしても新しい紙が必要なくなりますね。今回の場合だと、一枚か二枚程度しか使わなくて済んだでしょう」
無限に書き直す事は難しいにしても、確実に使う紙の枚数は減ったはずだ。
「……成る程、だから節約と。偽造や改竄をしてはいけない物はともかく、他であれば……全体的に考えると、かなりの紙が節約できそうです」
「はい。それを可能にするのが、鉛筆と消しゴム。そして修正液です」
まぁ修正テープというのもあるけど、そこまでは考えなくていいだろう。
だって。
「修正液の方は、どうやって作るのか俺は知らないので……多分無理です。案だけを頼りに、研究して開発する事は可能だとは思いますけど」
目的の物を作ろうとして、研究開発するのならいずれ完成するとは思う。
とはいえ、俺からはこういうものがある……という話しかできないけど。
もしかしたらユートさんなら知っているかな? いや、存在すらキースさん達が知らないくらいだから、詳しくないんだろう。
作り方とかを知っていたら、もうあってもおかしくないだろうし。
鉛筆はおぼろげな知識でなんとかなりそうだけど、こちらは消しゴムが必要だ。
ゴムは俺が『雑草栽培』で作っているし、継続的に生産しているけど……なければ消せないからな。
セバスチャンさんとかは、知識としてゴムの存在は知っていたが、ゴム製品とかがない事を考えると消しゴムも望めない。
あとは……鉛筆を作る利点としては、わざわざペンにインクを付けてという作業が減る事くらいか……インク壺をひっくり返してという事故はなくなるから、それはそれで少し便利ではあるけど、必須じゃない。
「でしたら、鉛筆と消しゴム? というのはなんとかなるのかもしれないのですね。消しゴム……名称から察するに、旦那様がお作りになっているゴムを使うのでしょうか? 鉛筆、というのはわかりませんが」
「消しゴムよりも、鉛筆の方がわかりやすくて作りやすいと思いますけど、そうですね。消しゴムはゴムを使います」
鉛筆は、芯になる物を木で挟んで……囲んで? 手で持てる大きさにした物だからな。
仕組みとしても、作り方としても簡単だ。
ただ消しゴムの方は、名前からゴムを使っているとわかっても、そのゴムをそのまま使うわけじゃないから、作るとしたらこちらの方が難しい。
そもそも、ゴムを採取した時は液体だし、本来は何かを混ぜて色んな性質を持たせるような素材だから。
俺が作っているのは、『雑草栽培』任せのゴムで何かを混ぜなくても、熱を加えるかどうかで特性が変わるだけの物。
樹液が空気にさらされて固まっただけならチューインガム、熱して一度液体に戻し、冷まして固めれば滑り止めに使えるようなゴムになるわけで。
「消しゴムに関しては、色々試してみないと本当に作れるかはわかりません。ただ鉛筆なら……多分作れるんじゃないかなと」
「成る程……鉛筆は、どのようにして作られるのでしょうか?」
作れる可能性の高い方から、キースさんは聞く事にしたようだ。
「簡単ですよ。鉛筆の芯……インクの代わりになる物ですけど、これをペンと同じような大きさの木でかこむだけです」
「それだけ聞くと、確かに簡単そうではありますね」
鉛筆の芯は、確か黒鉛と粘土だったか……鉱物資源だから、鉄などの金属の鉱物があるんだから、黒鉛くらいはあると思う、なんて安易な考えではある。
木の方はありふれているし、粘土はレンガがあるんだから問題ないだろう。
まぁもし黒鉛がないようだったら、木炭なんかでも代用できそうだ。
こっちは同じ物ができるかはわからないが、チャコールペンシルとか画材用の物になるかもしれないけど、文字が書けないわけじゃない。
木炭だと消しゴムではなく、食パンとかがあれば消せるし……なんにせよ、作るのに苦労はそんなにしないと思う。
食パンなら通常の鉛筆に対しても消しゴムの代用はできるけど、食べ物を使う事になるからこれは最終手段というか、できればやりたくないところだ。
「消しゴムの方は……」
確か、ゴムに硫黄と植物油を混ぜるんだったか……昔、十代前半の頃に興味を持って少しだけ調べた事がある。
どういった植物油を使うかは色々試す必要はあるけど、硫黄は金属鉱床があるんだからこちらも探せばなんとかなるかもしれない。
黒鉛よりも、硫黄の方がある確率は高いだろうな。
代用としては、砂ケシもあるけど……あれは鉛筆よりもペンのインク用で、しかも紙を削るからな――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。







