紙の節約について考えました
「あ、そうだ。クレアの所に行くなら、アルフレットさんは気を付けた方がいいかもしれません」
「……そ、そうですね。ジェーンがまだクレア様に絡んでいるでしょう」
少し前の事を思い出してアルフレットさんに言うと、顔をひきつらせた。
クレアを引きずり込んだジェーンさんは、あれから出てきた気配はなく、ライラさんがリーザとデリアさんのお世話をするために、ゲルダさんを呼んだくらいだからな。
その際、大分年上のジェーンさんに対して、メイド長とはいってもライラさんからは注意しづらいかな? と思っていたら、むしろ厳しく言うと意気込んでいた。
アルフレットさんが代わりに謝って、こちらでも注意しておくから……と言って少し治まったみたいだけど。
俺は厳格にやるつもりはないし、もう少し気楽に働いてほしいんだけど、この辺りは公爵家の使用人だった頃の名残なんだろう。
今でも、同じ屋敷にクレアさん達公爵家の人達がいるし、公爵家の使用人さんもいるから感覚的に抜けないのもあるんだろう。
これに関してはおいおいだな……俺が考えているやり方が、受け入れられるかもわからないし。
もしかしたら、厳しくした方が皆やりやすいという事だって、あり得るかもだ。
「すぐに逃げて来られないとは思いますけど、お願いします」
「は、はい。ついでに、ジェーンに注意もしてきます」
そう言って、図案の書かれた紙を持ったアルフレットさんが、執務室を出て行った。
ただ、部屋を出るアルフレットさんの手が微かに震えていたし、立場はともあれジェーンさんに頭が上がらない様子も何度か見かけているので、本当に注意できるかは……アルフレットさんのために、あまり考えないでおこう。
「こちらは、片づけさせて頂きますね」
「はい」
ほんの数秒程、アルフレットさんを見送って無言になる執務室。
最初に動いたのはライラさんで、俺が図案を書き散らした紙を回収して行く。
何度か、アルフレットさん達に書いて見せて、図としてよくわからなかったり、意味があるか伝わるかなどの問題がありそうだと、没になったものだ。
紙は数枚程度だけど、一度使った紙を再利用する事はできないから、捨てるしかない……。
「ちょっと、もったいないかなぁ」
「もったいない、ですか?」
俺のつぶやきというかぼやきに、キースさんが反応。
もったいない、という言葉が気になったらしい。
「紙も、いくらでもあるわけじゃないですよね?」
「そうですね……私が生まれるより以前に、一般に広く普及はするようになったらしい物ですが、少々値が張ります。一枚だけを見れば安価のようでも、大量に使うとなると……」
「そうなんですよ」
紙はこの国の文化レベルだと、かなり高価な物……というイメージだったけどそうではなく、実際は多くの人に使われるよう普及している。
とはいえ、それでもやはり紙一枚の値段は安くない。
キースさんは安価と言っているけど、それはこちらの世界での基準。
日本では、数十枚の紙が使われるノート一冊が百円程度とだが、こちらでは紙一枚が数十円だ。
一枚くらいならどうって事ない値段ではあるけど、積み重なればそれなりの値段になるわけで。
図案を考えるために書き散らしておいて、俺が言う事ではないかもしれないけど……もったいない。
リーザが勉強しているのにも、紙は使われていたし……。
「一度書いた物を消したり修正したりできれば、もっと節約できるんだけどなぁ」
例えば、鉛筆と消しゴム。
正式な書類などには使えないとは思うけど、簡単に書き損じを消す事ができるから、わざわざ新しい紙を用意する必要がなくなる。
他にも、インクを使うペンで書いた部分に、修正液を使って……なんて事も日本では当然のようにあった。
さらに言えば、ゴム製の物で擦れば消えたように見える特殊なインクもあったりしたけど、まぁそこまではさすがに求められないか。
「あぁ、逆に安価な紙を作るって手もあるか……」
「安価な紙、書いた物を消す、修正……どのような事なのでしょうか?」
考え込んで、一人呟いているとキースさんが興味津々といった様子で聞いてきた。
座っているけど前のめりだったりもする。
「安価な紙っていうのは、まぁ早い話が簡単に誰でも大量に作れる紙……って事でいいと思います。とはいえ今適当に考えたので、これは多分不可能に近いでしょうね」
この国でどう作られているのかは知らないけど、製紙技術を発展、もしくは効率化すれば大量に作り出す事で値段を下げられるはずだ。
ただそれは俺には難しいし、機械技術も必要そうだしで、むしろ安価で作りやすい紙を考える方が楽そうではある。
和紙とかどうだろうと思ったけど、あれはあれで必ずしも簡単で大量に作れるわけでもないからな、多分。
「消したり修正したりっていうのは、そうですね……ライラさん、その捨てる紙を一枚もらえますか?」
「畏まりました。どうぞ」
ライラさんに言って、回収された紙を一枚受け取る。
それを机の上に置くと、興味を惹かれたキースさんが立ち上がり、こちらへとやってきた。
……一番最初に図案を書いた紙だなこれ。
線が歪んでいるどころか、考えがまとまっていなかったせいで何が書かれているのか知らない人が見るとわからないだろう。
見られるのは少し恥ずかしいが、仕方ない。
「余白がありますから、多少のメモ書きくらいならできますけど……基本的にはインクで書かれたこの紙は、もう使えません」
「はい。使えるとしたら、手習い用くらいでしょうね」
手習い……そうか、文字の練習にはこういった余白はあるけど、公文書などには決して使えない、手紙にも使えないだろう紙が使えるのか。
リーザの勉強で使えるかもしれないから、覚えておこう……俺が図案を試し書きしたりした物は、ちょっと恥ずかしいから、別の紙の方がいいだろうけど。
まぁ今は、それよりも文字を消す事に関してだな。
「この紙のように、既にインクで書かれた部分。それを消して、また別の文字か何かを書けるようにするってわけです」
「書いた物を消して、また別の……」
実際には消せないが、指先でインクで書かれた部分をなぞるようにして、キースさん達にイメージを伝えた――。
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