お米は携帯食としても使えそうでした
「ふむ……それはとても助かるな。やはり移動中の野営などでは、味気ない物を食べる事になるからな」
「とはいえ、食材などをどれだけ運べるかにもよりますが……」
長い移動での野営は、どうしても硬いパンと干し肉とかになってしまうようで、エッケンハルトさんが言っているように、味気ない食事になる事が多いらしい。
けどお米の場合、精米しても数日どころではなく二、三十日程度の保存ができるため、水が確保できて調理できる余裕があるなら、携帯食として優秀だ。
ある程度の条件を満たすなら、パンよりも重宝する物になるポテンシャルは秘めている……気がする。
それこそ、大量にお米を炊いた物に塩を混ぜて、おにぎりにしておけば少し時間が経っても食べられるからな。
多くのお米を運ぶなら、重量の問題は発生してしまうけど。
「なら、お父様には向きませんね。お父様の場合、馬車でゆっくりとした移動ではなく、馬で駆け抜ける移動が主でしょう?」
「むぅ、そうだな。できる限り荷物を軽くして、移動を早めるようにしている」
クレアの指摘に、悔しそうにするエッケンハルトさん。
エッケンハルトさんは公爵という地位に似合わず、移動は馬での強行軍になる事が多い。
というか、本人がそれを好んでやっているみたいだけど。
野営が嫌いとかそういうわけではないようだが、基本的にその日泊まった街や村を出たら、どうしてもの場合を除いて次の街や村まで行く。
そのために馬で運ぶ荷物は必要最低限になっているため、お米を持って運ぶには不向きだ。
馬にも休憩は必要だからするにしても、落ち着いて食事をするのは大体街や村に着いてからになるからなぁ。
ご飯を炊くのにもそのための道具を運ぶのにも向いていない。
「まぁ、ハルトはもう少し落ち着いて行動するようにしなければな」
「ぬ、むぅ……領主貴族としての義務は果たしているのですが……」
さらにエルケリッヒさんからも追い打ちが入り、歯噛みするエッケンハルトさん。
ちなみに領主貴族の義務というのは、普段生活している場所……本邸や別邸などからどこかへ行く際、途中にある街や村に寄る事だ。
馬の交換、宿、食事等々、全てが全ての街や村でできるとは限らないけど、少しでも買い物などをしてお金を落とす事で、領内の経済を活性化させるとかそういう事らしい。
ただし、緊急時には適用されないとか……最近では、クレアを心配して別邸に来た時だな。
「私は……これから、この屋敷やランジ村を離れる事もあるので。ヘレーナ、このチャーハンだったかしら? これ以外にも、良さそうな料理があれば……」
「はい、もちろん色々と試して研究しておきます。幸い、タクミ様方には自由に使っていいと言われておりますので」
「そうですね、俺が知っている料理も教えますし、クレアがここを離れていても美味しい物が食べられるように、協力しますよ」
一応、お米はユートさんから俺への引っ越し祝いではあるけど、醤油や味噌と一緒に、定期的に持って来てもらう事になっている。
だから、クレアが薬草や薬の販売や卸し、交渉などで屋敷を離れる時に持って行く事だってできる。
エッケンハルトさんと違って、移動は馬車だし荷物も多く運べるからな。
とはいえ、お米を使った料理か……チャーハンの他に何かあったかな? お粥は、なんとなく俺個人としては病人食のイメージが強くて、健康ならご飯の方がいいと思うけど。
こんな事ならもっと料理の事を、特にお米料理を知っておくべきだったなぁ。
そういえば、リゾットやドリアもお米を使った料理だったか……作り方知らないし、リゾットはともかくドリアは携帯食には不向きだろうけど。
というか、携帯食なら餅の方が適している気がするなぁ。
今食べているお米はもち米ではないので、作ろうとしても出来上がるのは餅というより、団子に近い物かもしれないけど。
そこはまぁ、作り方次第……かな?
ともかく、ヘレーナさんとユートさんも混ぜて、お米を使った物の研究はこれからも続けていかないとな。
なんて考えつつ、クレアやエッケンハルトさんが話しているのを眺めつつ、五目チャーハンを美味しく頂いた――。
「ちゃんと、道中に必要な物は持ったか?」
「へい、もちろんです! 何から何まで用意されていて、申し訳ないくらいでさぁ!」
「ガフ!」
魔力の塊をフェヤリネッテが食べていた翌朝、朝食後にラクトスへと向かうニックの見送りのため、確認をしつつランジ村の入口に来た。
ラクトスには、ニックだけでなくフェルも一緒に行ってくれる。
荷物は車輪が二つ付いた荷車に全て詰め込まれており、フェルが曳く。
この荷車はデリアさん達がブレイユ村からの移動で使った物なんだけど、ここまで来る時に結構ボロボロになっていたのを、ガラグリオさん達が修繕と補強をしてくれていた。
それを、ラクトスにニックと荷物を載せて送り届けた後、フェルがブレイユ村に帰る際に一緒に持って行ってもらおうという事だ。
ついでに、補強にはフェンリル用に馬車を改良する案の一部が使われており、ランジ村からラクトスまで走った時に耐久がどうかという試験的な一面もあったりする。
まぁ日が完全に落ちる前にはラクトスに到着する予定だし、荷車が突然バラバラになって壊れるなんて事はそうそうないだろう。
もしもに備えて、ニックはフェルに乗るから怪我とかはしない。
「ちゃんと、途中で休憩を取った時にフェルにハンバーグをあげるんだぞ? 温めてやるのも忘れずにな」
「もちろんでさぁ! 世話になるフェルさんのためにも、そこは絶対です。任せて下さいアニキ!」
「ガフ、ガフー!」
荷物の中には、フェルに食べさせる用……というか、休憩時の食事のための食べ物が入っている。
ヘレーナさんが作ってくれた料理で、フェルのためのハンバーグもだな。
フェルとしては、そちらが一番の楽しみのようで嬉しそうに尻尾を振っていたりする。
「あとは……」
「アニキ、心配してくれるのはありがたいんですが、アッシに任せてくださいよ。街に着いた時用の手紙も、忘れずに持っていますから!」
「そ、そうか。すまん……」
ついあれこれとニックに言ってしまったが、よく考えると俺よりもこちらでの事に詳しいよな。
ちなみに手紙っていうのは、エッケンハルトさんからラクトスの衛兵に向けての物だ。
フェルの事や、近々エルケリッヒさんやティルラちゃんがラクトスというか、別邸に行く事などなどが書かれているらしい……さすがに中身は見ていないので、詳しくは知らないけど――。
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