無詠唱魔法より食事が優先されました
ユートさんが言った大艦巨砲主義っていうのは、とにかく大きい軍艦に、とにかく大きな大砲をできるだけ多く搭載しろ的な考えだったはずだ。
結局、後々有効な戦略ではないと認識されたりもしたけど……。
ともかく、ユートさんはもしかして、威力というか以前フェンリル達に使おうとした大規模な強い魔法が、って言いたいのかもしれない。
ある意味、ロマンにあふれる気もして憧れはするけど……自分に扱えるかとか、そんな魔法が使えて何をするんだって思うし、俺には向いていなさそうだ。
大きな魔法を使うような事、簡単に想像できる範囲では戦争とかだけど、そういう事に関わる気はないからな。
「言いたい事はなんとなくわかったけど。それにしても、無詠唱魔法って一体なんなんだ?」
ユートさんの言い方からして、威力重視とかではないっぽいのはわかるし、多分呪文を唱えずに魔法を放つ事で剣を振るっている最中にでも使える、とかなんだろうとは思う。
一種の到達点というのも気になるところだ。
ただそもそもに、魔法には呪文の詠唱が絶対必要で、実際に俺もそれで明りの魔法を使っている。
呪文なしで発動なんてできるようには思えない。
「んー、そうだね。ここで説明してもいいんだけど……」
ユートさんが説明、と言ったところで離れたところにいるセバスチャンさんの目が光った気がする。
以前説明しようとしていたから、セバスチャンさんも知っている事なんだろう。
「多分、僕が知っている事と、伝わっている事では、真実というか事実というか? ちょっと違うと思うんだ。長くなると思うし……またの機会にしようか。色々迂遠な話をするのも、面倒だからね」
そう言って、テーブルについている皆の方に視線を巡らせるユートさん。
ユートさんと伝わっている事が違う、という意味はよくわからないが、ギフトに関連した話とかもあるのかもしれない。
俺はともかく、多くの人に聞かれそうな今の状況じゃ、遠回しに言わないといけなかったりで、面倒なのかもな。
「そうですな……タクミ殿。どう考えるかは、タクミ殿次第だ。必要ならばユート閣下に教えてもらえば良いだろうし、必要がないと思うのならこれまで通り剣に打ち込むのも良いだろう。もちろん、どちらを選ぶにしても鍛錬を欠かさぬ事を忘れぬようにな」
「だね、まだよくわかっていない事もあるだろうけど、タクミ君が考える時間って思えばいいと思うよ」
「はい、わかりました。じっくり考えて決める事にします」
今ここで、魔法を教えてもらうかどうかを決めるんじゃなく、考える時間をもらったと思っておこう。
それはそれとして、興味があるので無詠唱魔法の事はユートさんに聞くつもりだけど。
「それじゃ、さすがにそろそろお腹が限界だから、食事にしようか。フェヤリネッテちゃんが魔力の塊を食べているのを見て、僕もお腹がすいちゃったよ」
「……そ、そうですな」
フェヤリネッテが齧っている魔力の塊、半分くらいになっているけど……黒色が蠢くようなあれを見て、食欲が湧く気持ちは俺にはよくわからない。
エッケンハルトさん達も、あまり見ないようにしているくらいだし。
シャリシャリという音だけは、確かに美味しそうに思えるかもしれないけども。
まぁ、ヘレーナさんが作ってくれる美味しい料理は、食欲が減衰してしまっても、食べ始めれば食が進むだろうな。
「うん、美味しいですね。俺じゃ、作り方はわかってもこんなに美味しくは作れませんよ」
「ありがとうございます」
夕食を食べ始め、メインの一つを食べて舌鼓を打ちつつ、エッケンハルトさんの向こう側に座っているヘレーナさんに声をかける。
最近は従業員さん達と同じく料理人さんの中から数名、テーブルについて一緒に食事をするようになっているんだけど、今回はヘレーナさんの順番のようだ。
「様々な具材も一緒になっていて、これ一つで十分完成されているのだな。新しい味だ」
頷きながら食べているエッケンハルトさんだけでなく、他の人達にも好評なようだ。
今日の夕食のメインはご飯を使った料理の一つ、具沢山の五目チャーハン。
オーク肉、ネーギ、ニンジンにピーマンと、生卵の代わりにゆで卵が刻んで入れてあった。
ご飯の粒より少し大きめに刻まれた具が多く、色々な味を楽しませてくれる。
「ワシは似たような料理を、以前ユート閣下が用意してもらった事があるが……その時より美味しく感じるな。なんというか、口の中でパラパラと広がるようだ」
「あははは、僕が作るとベチャッとなるからね。火力とか色々あるけど、料理は得意ってわけじゃないし」
「あ~、ベチャッとなるのは俺も同じだ。調理の順番とか火加減とか色々あるみたいだけど……」
プロと素人の違いというか、こだわって作るか適当に具材を混ぜて炒めるか、の違いのような気もするけど。
大雑把に作ってしまう俺やユートさんとは違い、ヘレーナさん達料理人さんが作った物は初めてなのにも関わらず、中華料理屋で食べるようなチャーハンにも引けを取らない、気がする。
……中華料理屋とか、ほとんど行った事がないからあまり比べられないけど。
ちなみに、具沢山といってもチャーハンだけじゃ食事としては物足りないので、スープやサラダ、パンなどの用意もされていた。
「何度か試作もしましたから。そのうちに気付いたのですが……」
俺達が感心しているのを見て、ヘレーナさんがチャーハンをパラパラに作るコツを話してくれた。
強火で熱した鉄鍋と、温かいご飯、それからご飯の粒に上手く油でコーティングするのが重要なんだとか。
俺やユートさんの知識では、溶き卵でコーティングさせてというのがあったけど、使ったのはゆで卵だから、それとは違う方法のようだ。
あと、日本の一般家庭にある家庭用のガスコンロと違って、結構な火力が使える厨房なのも、大きな要因かもしれない。
「あと、作っていて考えたのですが……もう少し簡易的な物であれば、野営の時にも作れそうです」
まぁ、鍋とご飯、あとは油と醤油とかがあれば作れるからなぁ。
この世界では、移動中は保存できる物を前もって作っておき、それを持ち運ぶのが一般的だ。
人や運べる食材が増えれば、森の中でライラさんが作ってくれたように、調理をする事もなくはないけど。
あとは、オークなどの魔物を倒しての現地調達もできなくはない。
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