フェヤリネッテが不審な物を食べていました
「ははは、そうですね。薬草もそうですけど……やっぱりフェンリル達のおかげっていうのは大きいですよね」
調査をする人達には、前もって俺が作った薬草……気配や匂いを察知する能力向上の方の、感覚強化薬草を多めに渡し、もしもの時のために身体強化薬草、筋肉回復薬草と疲労回復薬草を人数分渡してある。
感覚強化薬草は、視覚強化の必要はなさそうなのでとりあえずなしだけど、フェンリル達も含めて気配などの察知能力を向上する事で、調査が捗る事を期待してだ。
「では、食事の用意ができたようですので、私はこれで」
「はい、お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします。あと、食事も楽しんで下さい」
「こちらに来てから、毎日楽しませてもらっています」
そう言って微笑み、他の近衛護衛さん達がいる所へ合流し、食卓に着く女性班長さん。
食事を楽しんでもらっているのはいい事だ……ヘレーナさんのおかげだな。
「むぅ、フェンリル達がいるのであれば、危険は少ないだろうし……私も……」
なんて、夕食のためにテーブルについているエッケンハルトさんが、女性班長さんが去った後に小さく漏らした。
確かにフェンリル達がいれば、危険という危険はほとんどなくなるんだろうけど、それでも何があるかわからないからなぁ……。
突発的な事が起こりにくい街とかならともかく、調査を一緒にはできないだろう。
そもそも、エルケリッヒさんやティルラちゃんとラクトスの事や、クレアやユートさんと従魔の決まりなどを話し合わないといけないし。
とりあえず、エッケンハルトさんはクレアに聞き咎められて、自粛するようにしたようだ。
ただその隣で、クレアが注意する際にエルケリッヒさんがほんの少しだけ、体をビクッとさせていた。
もしかして、エルケリッヒさんも行きたかったとかだろうか……? 親子だなぁ。
「シャクシャク……上質な物は、おいしいのよう」
「ふっふっふ、そうでしょうともそうでしょうとも」
「はぁ……」
エッケンハルトさん達は置いておいて、テーブルの上に座るモコモコ毛玉こと妖精のフェヤリネッテ。
何やら、フェヤリネッテ自身と同じくらいの丸くてどす黒い球を齧って、ご満悦な様子……それを見ているユートさんもご満悦だ。
ルグレッタさんはため息を吐いているけど。
ユートさんは長く生きて来て、妖精とはあまり接点がなかったというか、遭遇する事が少なかったらしく、フェヤリネッテに興味津々だった。
だから、変質者みたいな言葉を口走りながら追いかけたりもしていたみたいだし、時折フェヤリネッテがいないかレオの毛を探っていた事もあった。
でもフェヤリネッテの方は、そんなユートさんから捕まらないよう逃げ回っていた。
「ついに捕まったと思ったら、一体何を食べているんだフェヤリネッテ?」
餌付けされているようにしか見えないんだけど、シャクシャクと音を立てて食べている黒い球は、絶対に美味しくなさそうだ。
拾った物のようには見えないけど、怪しい物体だ。
「これは魔力の塊なのよう。こうして、人間が魔力の塊を出せるとは思っていなかったのよう。シャクシャク……上質な魔力は歯ごたえも、味もいいのよう。まるで口の中でとろけるようなのよう?」
「……ちょっとわかんないな」
味はともかくとして、とろけるのに歯ごたえがあるのか……?
いやそれ以前に、魔力の塊って何!? しかも食べられるの!?
「タクミ君も興味があるようだね?」
「興味というか疑問というか……」
こちらを見てにやりと笑うユートさん。
「これはね、僕の魔力を圧縮して固めて……ポンッて出したものなんだ」
ポンッの部分で握った手を開いたユートさん。
圧縮って言うのもわからないけど、そんな風に出て来る物なんだ。
「ちなみに、触った感触は特にない。というか触れないんだよね、出した本人も」
「え? でもフェヤリネッテは食べているけど……しかも音まで出して」
抱えるようにして、シャクシャクと音を立てて魔力の塊とやらを食べているフェヤリネッテ。
触れないのなら抱えられないし、食べられないはずだけど……。
「そこが不思議なんだよねぇ。魔法でも、魔力に直接触れてしかも食べるなんて事はできないんだ。でも、何故だか妖精にはできる」
「つまり、フェヤリネッテだけ……というか、妖精だけ特別って事?」
「うん、そうみたい。――レオちゃん、ちょっといい?」
「ワフ?」
興味をそそられているからだろう、笑いながら言うユートさんは、お風呂に入ってジュウヤクの匂いを取り、リーザとじゃれ合って楽しそうにしているレオに声をかけた。
「……んん。っと! ふぅ、さすがに二つ目は疲れるね」
「本当に出た……けど、今もユートさんが触っているように見えるけど?」
険しい表情になったユートさんが、左手で右手首を掴み何やら力を溜めている様子になって数秒、本当にポンッという勢いでフェヤリネッテが齧っているのと同じ、どす黒い球が出てきた。
それが魔力の塊らしいけど、触れられないのに持っているように見える。
「これはね、自分の魔力を手の平に集めて魔力の層にして、すり抜けないようにしているだけなんだ。自分の魔力の塊だから、魔力層はすり抜けないんだよ。直接僕が持っているわけじゃないんだ。感触なんかも一切ない。ほら」
「……ほんとだ」
俺に向かって、魔力の塊を乗せている手を差し出すユートさん。
その球のどす黒さに、ちょっと躊躇したけど……思い切って触ろうとしても、何に触れる事もなく、一切の感触もなく空を切った。
明りの魔法を、光の玉のようにして出した時に似ているな。
「フェヤリネッテが触れているのは、食べている様子を見ればわかるけど……レオちゃん、これ食べてみる?」
「ワフ!」
「全力で拒否られちゃったかぁ」
今度はさっき呼んでいたレオに向かって差し出すが、レオはブンブンと首を振って拒否の姿勢……さもあらん。
ユートさんは笑っているし、フェヤリネッテは美味しそうに食べているけど、魔力の塊はどす黒くてとてもおいしそうじゃない。
食べてみると聞かれるなら、泥の塊の方がマシかもしれない、という見た目だったから。
「じゃあ、これを触れるかな? そーれ」
「ワウゥ。ワッフ!」
「……あれぇ?」
「いや、あれぇ? じゃなくて。思いっきりレオが前足で弾いたんだけど……」
レオに向かって放り投げられた魔力の塊。
嫌そうに表情をしかめたレオが、前足でバチーンと弾いてどこかへと飛んで行った……実際に音はしなかったが。
飛んで行った魔力の塊を目で追って、呆然としながら首を傾げるユートさん。
妖精以外、触れなかったんじゃないのか……。
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