森の調査に出発したようでした
「どうぞ」
「失礼いたします。森の調査班、出発前のごあいさつに参りました」
体中にジュウヤクの匂いを付けていたレオを、洗い直していた使用人さんが、連れて戻って来たのかな? と思ったら違った。
入って来たのは、近衛護衛さんの女性班長さん。
わざわざ、これから調査に向かうという報告に来てくれたみたいだ。
ちなみにレオは、俺にはよくわからなかったがジュウヤクの匂いが体中に付いていたらしく、予想通りリーザが臭いと言って近寄らなかったので、しょんぼりしながらお風呂へ行った。
汚れを落とすわけではないので、匂いを落とすだけだからそろそろ戻って来ると思ったんだけど。
あと、俺がフェンリル達に椿の花を上げているのを見て、ジュウヤクも求められたがさすがにそちらはレオ以外に不評なため却下。
ヤイバナ程じゃなくても、結構臭いから油断すると部屋の中に咥えて来そうだし、リーザやデリアさんがレオに近付かなくなりそうだからなぁ。
落ち込んでいたようなので、後でリーザと一緒にいっぱい構ってやろうと思う。
「あ、はい。フェンリル達や、ペータさんは?」
「万事、整っています。また、村の者にも同行して頂き、森の案内もしてもらうようお願いしております」
近衛護衛さん達の一部と、屋敷の護衛さんの一部で調査隊を組んでいるわけだけど、ちょうど森に入る予定だったペータさんも同行する事になっている。
畑の区切りとして植える木を持って来るためで、ついでだからな。
他にも、村から森に詳しい人を案内に付ける事で、危険を減らしつつも調査を進める手筈なんだろう。
フェンリルも一緒だから滅多な事はないと思うけど、やっぱり森を知っている人と一緒なのは心強い。
「はい、わかりました。お気を付けて」
「はっ!」
俺に礼をする女性班長さんを送り出す。
一応、フェンリルの事があって俺が担当のようになっているけど、なんだか変な気分だ。
「……なんで、俺が指揮みたいな事をしているんですかね? エッケンハルトさんやエルケリッヒさん、それにユートさんとかテオ君とかもいるのに……」
複雑な表情になっているのを自覚しつつ、女性班長さんが出て行った扉を見ながら呟く。
「旦那様が、実質的に取り仕切っているからではないでしょうか。使用人として雇われている我々だけでなく、今この屋敷や村にいる者達の中で、旦那様に従わない者はいないかと。もちろん、無理な命令などは別でしょうが」
「無理な事を言うつもりはありませんが、従ってもらうようにしている気はないんですけどね……」
俺にそのつもりはなくても、公爵家の人達や表向き大公爵なユートさん……ランジ村では、王家というのも明かしていたっけか。
ともかく、そんな人達にプラスしてレオやフェンリル達ともいるから、そうなっているような気がする。
俺自身の功績みたいなものがないのが情けないが、あっても従ってもらうために欲しいとかは思わないけど。
「それから、ランジ村の方達に関しては以前の事が関係しているでしょう。私は話に聞いただけですが、村を救ったと。そんな旦那様の事を聞いて、実際にレオ様やフェンリル達を見れば……」
「あ、俺の功績も少しはあった……」
朗々と話すアルフレットさんの言葉に、そういえばと思い出した。
複数のオークが村にけしかけられた時や、ほとんどの人が病に伏してしまっていた時の事だな。
まぁあれは、レオの方が活躍したとは思うけど……。
なんにせよ、少なくとも森の調査が終わるまでは、調査隊の指揮みたいな事はしなくちゃいけなさそうだな。
ちょっとだけ微妙な気分になりながらも、女性班長が足を揃えて礼をしたのを見ていたリーザが、おぼつかないながら真似をして、尻尾や耳がピンと伸ばされているのをアルフレットさんと微笑ましく見つつ、書類の確認をしてレオが戻って来るのを待った。
戻ってきたレオは、すっかり尻尾を垂らして元気をなくしていたので、リーザと精いっぱい撫でて構ってやる。
レオが元気を取り戻したくらいで、また建築作業の手伝いを夕食までやった。
建築の方は、もうほぼ完成と言ってもいいだろう……人手も資材も豊富にあって、フェンリル達が手伝ってくれていたのが大きいが、まぁ人が住む家と違って床は土だし厩舎と大きく変わらない物だからな。
そのフェンリル達だが、俺が注意したのが効いたのか喜んで受け入れてくれたのか、資材を運ぶ時などに並んで歩く時、ちゃんとフォーメーション一二一二を維持していただけでなく、足も揃えて行進するようになっていたのには驚いた。
そこまで俺は言っていなかったのに、自分達で進化させるとは……統率されている感は、もはやちょっとした軍隊だな。
事故がなくなるのは悪い事じゃないから、いい事なのかもしれない。
建築作業の手伝いが終わった後は、屋敷に戻り夕食……までのちょっとした間に、森へ行っていた女性班長さんから森の調査の報告を受ける。
「魔物を発見は致しましたが、特にこれといった異変はありませんでした。ランジ村から、森へ入る場所では魔物が森から出て行った、または何かが入り込んだというような形跡もありません」
「そうですか……」
フェンリル達やペータさんを連れての調査だったけど、さすがというべきか女性班長さん達は俺が予想していたよりしっかり調査してくれているみたいだった。
とはいえ、それでも異変らしき何かは見つからなかったとの事。
「本日の調査で、村の者からわかる限りの森の情報を得ましたので、明日以降は調査範囲を広げてみようと考えております」
「わかりました。魔物のいる森です、フェンリルがいてくれるとはいえ、くれぐれも無理は禁物です」
「はっ、心得ております」
まぁ、こういうことは俺よりも女性班長さんや、調査をしてくれている人たちの方がわかっているし慣れているか。
「しかし、先日レオ様やタクミ様と共に森へ入った時もそうですが、素晴らしい薬草があるものです。フェンリル達も魔物の気配や匂いに敏感で、我々人間だけでの調査よりよほどスムーズです。もしわれわれだけだった場合、いくつかの入り口を探るだけでも数日がかりでしたでしょう」
報告の時とは打って変わって、雰囲気を和らげて言う女性班長さん。
移動だけでもフェンリル達がいてくれれば、かなり助かるからなぁ――。
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