フェンリル達が興奮してしまいました
「おーい、フェリー! 他のフェンリル達も、もうこっちに来てもいいぞー!」
「グルゥ!」
「ガウ!」
「キャウ!」
口に手を当ててフェリー達に向かって、大きな声でこちらへ呼ぶと、すぐに外壁を飛び越えて……既にぶら下がっている状態だったから、乗り越えてかな? とにかく、シュタと地面に降り立ち少し興奮した様子でこちらに来た。
「よしよし……もう今日は臭いが出るような物は作らないからな」
「グルゥ。グルルゥ?」
「ん?」
尻尾を振り、駆け寄って来るフェリーを撫でる。
だけどフェリーは、そんな俺の手に鼻を近付けて匂いを嗅ぎ始めた。
手の匂いが気になるのか?
「ガウ~」
「キャウ、キャウ」
「ガウゥ」
「ガフ!」
「あ、おいちょっとま……くすぐったいし、そんなにいっぺんには……!」
どうしたのかと思っていると、さらにフェンやシェリー、リルルもフェルも、他のフェンリル達も俺へと群がってくる。
俺の手や体などに鼻先を近付けて、臭いを嗅ぎたいようだけど……って、体の大きなフェンリル達が集まってるから、渋滞みたいになってる!
なんとか押し留めようと、声を出しつつフェンリル達の体というか、鼻から身をよじって逃れようとする。
「ワフ?」
フェンリル達の体の隙間から、こちらを見ているレオが見えたが……首を傾げているだけで特に何も動きはなかった。
助けて欲しいんだけどなぁ、まぁ危険はないからだろう。
「ぶわっ! ちょっと、本当に待って……!」
「グルゥ、グルルゥ!」
「ガウゥ!」
フェンリル達にもみくちゃにされる俺、敵意は全くないどころかむしろ時々顔や体、手を舐められたりしているくらいだけど、結構辛い。
興奮しているようだし、俺の声も届いていないようだ……仕方ない。
「ぶふっ! ぐっ……ヤ、ヤイぶふぁっ! ヤイバナ作……る!」
「グルゥ!?」
「キャウーン!」
「キュウ、キュウ……!」
「クウゥーン……」
顔を舐められながら、なんとか呟く言葉……ヤイバナ。
その効果は絶大だったようで、一瞬にして俺から離れていくフェンリル達。
我先にと鼻から鳴き声を漏らしながら、外壁へと引いていく……フェンリル同士で揉みくちゃに絡み合いながら。
お互いが近くて邪魔だったからだろうか、それとも急な事だったからか、壁を飛んで外へと逃げ出したのは二、三体くらいだった。
「おぉ、効果は抜群だ? ちょっと面白いな……ふぅ。ようやく落ち着いた」
どのフェンリルも、ヤイバナの臭いを思い出したのか尻尾を股に挟んでいて、すっかり怯えた様子。
確かにヤイバナは物凄い臭いだったけど……そこまで怯える程なのか。
ある意味、フェンリルに対しての最終兵器かもしれない。
……あの臭いは広範囲に広がるので、フェンリルだけじゃなく俺にも被害は出るが。
「えーっと、レオはとりあえず満足するまでそのままでいいとして……」
多分聞こえてはいたと思うけど、俺が本気でヤイバナを作るとは思っていないんだろう。
レオはまだジュウヤクを埋めた土を守るようにしつつ、匂いを嗅いで尻尾を振っているので、そのままにしておく。
「おーい、リーザ! ちょっと来てくれー!」
「はーい! どしたの、パパー?」
「うん、ちょっとフェリー達の話をな……」
フェンリル達に俺がもみくちゃにされる様子を、何事かと驚いてみている周囲の人達……さっきまで話していたエッケンハルトさん達や、クレアもいるんだけど。
ともかくその中からリーザを呼んで、フェリー達の通訳を頼む事にした。
ちなみに、エッケンハルトさん達は俺がもみくちゃにされていた様子を、フェンリルに俺が祀り上げられているように見えていたらしい。
驚きはしたけど、全てのフェンリルが尻尾を大きく振り、興奮はしていたけど襲うというよりも喜んでいるように見えたからとか。
できれば助けてほしかったなぁ、とジト目で訴える俺に対し、エッケンハルトさんから「あの状況で我々が全員でタクミ殿の所へ行こうとしても、フェンリル達を押しのけるなどできると思うか?」なんて言われた。
確かにフェンリルの体は大きいし、興奮状態で渋滞みたいになっていたから割って入るのは無理だったか。
それでも、声をかけるとかくらいはして欲しかった……いや、危険な事じゃないだろうと、察していたからもあるんだろうけども。
「とりあえず、落ち着くんだフェリー。それで、さっきのは一体……?」
「グルゥ、グルルぅ……」
「えっとねー」
まずフェリーだけを呼んで、先程のように撫でたりはせず、手のひらを差し出して制しつつ質問。
申し訳なさそうに上目遣いになるフェリーの言葉を、リーザに通訳してもらう……何度か、ヤイバナを作らないよう懇願されつつだけど。
あれは冗談だから、今作ったらフェンリル達だけでなく庭に出てきている他の人達にも、被害が及ぶから。
ともかく、フェリーが言うには、すごくいい匂いがしてついつい興奮してしまったとからしい。
いい匂い……レオが楽しんでいるジュウヤクの匂いかな? と思ったけど椿の方らしい。
ジュウヤクの匂いが好みらしいレオと違ってフェンリル達は皆、壁越しに漂ってきた椿の香りに興味津々なのだとか。
それで、壁にぶら下がってこちらの様子を窺っていたのか……鼻をヒクヒクさせていたのは、見間違いじゃなかったようだ。
「でも、こちらを窺っていた時はともかく、さっきは皆物凄く興奮していたようだけど……?」
「グルゥ……」
離れて見ている時は、押し寄せるまではいかなかったのに、さっきはなんであれだけ急に俺へと寄って来たのか……と思って聞いてみる。
フェリーが言うには、俺がフェリーを撫でてその手に残っていた椿の香りを嗅いだ事が発端だとか。
他のフェンリル達の気持ちを代弁すると、ズルイ! という感情で、興奮状態になって俺に寄って臭いを嗅ごうとしたらしい。
……フェンリル達にとって、椿の香りはそんなに魅力的なのか。
ヤイバナを作ると言ったからか、まだ一応は様子身でこちらに近付いてこないフェンリル達だけど、油断するとというか、許可すると今にも駆けだしそうなのもいる。
そんなに俺の体には残り香が付いているのか? まぁ、結構な数を作ったし、採取もしたからだろうけど。
ヤイバナがフェンリル避けになりそうなら、椿はフェンリル寄せになりそうだな――。
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