椿油の成功は大変な事になるかもしれませんでした
ユートさんが巻き込む可能性のある人脈とやらについて、大まかにエッケンハルトさん達に聞いているけど……。
エッケンハルトさんやエルケリッヒさん、ルグレッタさんという、ユートさんと長年の付き合いがある人でもわからないとは。
それだけ、広い人脈を持っているって事ではあるんだろうけど、聞けば聞く程不安になってきた。
他にも女性連盟という、正確には略称だけどそういう複数の国に渡る組織的なのも動く可能性を示唆された。
まぁこちらは、各国の女性が集まった非公式の組織というと何やら怪しい感じがするが、基本的には女性が美しくあるための方法を考える会、みたいなものらしい。
国をまたぎ、地位などもあれこれ混ざっているけど、組織内で政治的な情報をやり取りするのは禁忌とされていて、過激な事は一切ないとか。
女性による女性のための女性の組織、というのを標榜しているらしいけど……何かの活動家が集まった組織かな? という印象だった。
ちなみに、対抗組織と言っていいのか男性が集った組織に、中立として男女混合の組織もあるらしいが、そんな情報知りたくなかった。
どれも非公式というか、国には認められていないらしく、組織がある意味が俺にはよくわからないが……存続しているという事は、必要でもあるんだろう、多分。
その中立の男女混合組織にユートさんが所属しているとかで、どの組織にも顔が効くとかもう、結構どうでもいい。
まぁ何はともあれ、椿油は女性用の化粧品になり得るので効果が確かならば、変に敵視される事もないだろうとは言われた。
過激な事はないのに、敵視されるとかあるのか……いやまぁ、学校で女性グループに嫌われたら肩身が狭くなる、とかそんな感じなのかもしれないが。
「それって、この屋敷にいる人達の誰かも……?」
「細かく把握はしていないが、一人や二人は所属していてもおかしくないだろうな。数は少ないみたいだが……おっと、クレアは違うぞ?」
「はぁ……まぁそれは良かったです?」
使用人さんか従業員さんの中にも、所属している人がいるかもしれないのか……基本的には無害で、特に益もない事を共有する組織らしいし、別にいいんだけど。
あと、なんとなくクレアがそうじゃなくてホッとした自分もいる。
「だが、もしユート閣下が巻き込んだとしたら……大変な事になるかもしれん」
「え?」
深刻な表情のエッケンハルトさん。
思わず、首を傾げる俺。
ちょっとやめてください、無害と聞いて安心しかけていたところなんですから。
「タクミ様、考えてもみてください。美しくなりたい女性が集まっているのです。そして、その中で情報が共有されます。そうした場合……」
「皆が求め始めかねん、というわけだな。大きさを考えれば数が少ないとはいえ、数千はいる。それが一度に求めるとなると」
「大量に必要になる……わけですか……」
「うむ」
ルグレッタさんの言葉をエルケリッヒさんが継いで、力なく言った俺の言葉にエッケンハルトさんが頷く。
この国だけではない周辺国という範囲を考えれば、確かに数千という人数は少ないと言えるのかもしれない。
けど、それらの女性が一気に椿油を求めたら……考えただけで、大変な事になる予感どころか確信しかない。
効果が確かであれば絶対にそれも大量に売れる保証とも言えるけど、商品にするならちゃんとした品質の物をそれだけ作らなければいけないわけで。
……椿油ができたら、薬草畑の一部を椿畑に変えて大量生産しなきゃいけなくなるかもしれないな。
「知り合った人達だけとか、身近な人が喜んでくれれば、というだけだったんですけど……」
あとクレアが喜んでくれそうだったから。
手荒れとかにも効く物ができれば、ライラさんを始めとした使用人さん達も助かるだろうし、という程度にしか考えていなかった。
やっぱり、頼む相手を間違えたのかもしれない。
今度何かを試して、誰かにお願いしなきゃいけない時は、まず先にエッケンハルトさんやクレアを頼る事にしよう……今回はもう遅いけど。
さっきの意気揚々と屋敷に椿を持って入っていたユートさんを見て、今更やっぱりやめてなんて言えないし。
「はぁ……まぁなんとかなる事を願うしかないか。ん?」
とりあえず、エッケンハルトさん達……主にルグレッタさんにはユートさんがやり過ぎないよう、見てもらうのをお願いして、不安とかを溜め息と共に吐き出す。
椿の花の匂いを嗅ぐ会? も終わったみたいだし、俺も屋敷の中に戻るかと考えたところで、塀というか外壁の上からこちらを見つめる無数の目に気付いた。
「フェリーにフェン、リルル……フェルもいるし、他のフェンリル達も……?」
外壁の向こう側から、ひょっこりと顔を出してこちらを見つめるフェンリル達が並んでいた。
かなりの数のフェンリル達が、外壁の上に前足を掛けて顔を覗かせているわけだけど……あの外壁、十メートルくらいあるんだけどな。
もちろん、大きいとはいえフェンリルが後ろ足で立ったとしても、一番上には届くわけもなく、それはさらに体の大きなレオも変わらない。
つまり、今こちらを見ているフェンリル達は、前足を掛けてぶら下がっているわけで……。
まぁフェンリル達は、ジャンプするだけで軽々と外壁を飛び越えられるからぶら下がるくらい、何の不思議もないが……向こう側がどうなっているのか見てみたい興味はあるけど。
それはともかく、何をしているんだろう?
「もしかして、ヤイバナの事があったから警戒してこちらの様子を見ているのかな? というかシェリーはあっち側に行っていたのか」
屋敷の中にいると思っていたシェリーは、外壁の上にお座りしている。
他のフェンリル達の例に漏れず、こちらをジッと見ている。
ずらりと並んでいるフェンリル達の目は、ヤイバナ事件を考えて警戒しているというよりも、むしろ興味を惹かれている、というような色をしている気がした。
よくよく見てみると、鼻をヒクヒクさせているようでもあるし……レオのように、ジュウヤクの匂いが気になったとかかな?
とりあえず、声をかけてみるか――。
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